第136話……お前もそうだってのか
「スキル解放、モード【Beelzebub】」
銀狼騎士団一番隊隊長ビートの全身が眩い閃光を放ったと同時に、俺もスキルを解放した。
黒スライムを纏い狼王の姿となって、力も数倍膨れ上がる。しかしパワーアップしたのは俺だけではなく、目の前で槍を刺突してくるイケメンも同じだ。
「ハハッ、おいマジかよ!?初見で見切りやがった!!」
眉間を狙った刺突を躱されたにも関わらず、ビートは無邪気に笑った。俺は後方に下がりながら、腰から生えた四本の尻尾で四方から攻撃を仕掛ける。
「おっとぉ!その姿、その速さ!見た事ねーけど、テメーも俺と同じようにパワーアップ出来るんだな!!」
ベラベラ喋りやがって。戦ってる最中に喋ってんじゃねえよ。
「しかもその変身、闘神招来した団長にそっくりじゃねえか。まぁでも……」
消える。
ビートの体躯がバチっと雷のように光った刹那、目の前にいた筈の奴が消え、左後方から強烈な殺気が飛んできた。
「くっ」
「ハハッ、これも避けるか!!」
上体を逸らし、紙一重で躱す。
その後もビートは間髪入れずに雷の如く鋭く速い連続刺突を放ってくるが、俺は両腕に纏ったナイフで受け流した。
「おい冗談だろ。何で闘神招来した俺の攻撃に付いて来られんだよ」
「悪いな、お前みたいにすばしっこい奴とは戦い慣れてんだ」
心底不思議そうな表情を浮かべるビートに軽口を叩く。それで終わらず、俺は更に悪態を吐いた。それはもう、無意識に言葉を漏らしていた。
「ピカピカ光りやがって、お前見てると……ムカつく糞野郎を思い出すな」
◇
己の内に潜む闘争本能を呼び覚まし、『闘神招来』化したビート。
身体能力も大幅に上昇し、五感もより一層研ぎ澄まされた。
しかし『闘神招来』化して大きな変化を遂げたのは、彼自身が
肉体を雷に変換し、人間では到達し得ない境地の速度を手に入れた。最早この戦場に於いて、ビートを追える者など皆無であろう。
――そう、本来ならばいる筈が無いのだ。
「おい冗談だろ。何で闘神招来した俺の攻撃に付いて来られんだよ」
意味が分からなかった。
雷の速度で移動し、今までとは比べようが無いほどの高速刺突が躱されてしまった。
しかも初見で、だ。
確かに少年――影山 晃も強化したようだ。
狼を模した漆黒の鎧装を纏い、その身からは絶大なパワーが溢れ出している。
それが『闘神招来』なのか、はたまた別の何かか知るよしも無いが。
それでも、雷の速度で突く槍に反応出来る事が、ビートには理解が及ばなかったのだ。
彼が怪訝そうに晃を見ていると、ビートの疑念を察した晃は答えを教える。
「悪いな、お前みたいにすばしっこい奴とは戦い慣れてんだ」
すばしっこい?
俺以外にも、この速さで戦える者がいるのか?
ビートが信じられないといった表情を浮かべていると、不意に。
晃の顔付きが、徐々に怒りを帯びていった。
「ピカピカ光りやがって、お前見てると……ムカつく糞野郎を思い出すな」
「――ッ!?」
ビートは驚愕した。いや恐怖した。
晃から放たれる凄まじい威圧に、いや絶対なる王気によって。
弱者の如く身体が震え上がり、悪寒が背筋を駆け巡る。解放された闘争本能が、今すぐ目の前の存在から逃げろと訴えくるのだ。
“王気”とは。
これはビートの解釈だが、“格上の存在が纏う威光”である。
対峙するだけで自然に
それは人間だけではなく魔物にも存在するが、ビートがこれまで王気を放つ存在と巡り会ったのはたった二人だけ。
帝国を支配する帝王。
銀狼騎士団団長ヴォルフ。
この二人だ。
この二人は王気を纏っていた。
けれど、ここに、この場に、目の前に、三人目の王気を放つ化物がいる。
「アキラ……お前もそうだってのか」
もう、彼からは王気を感じ取れないけれど。
影山晃は帝王とヴォルフ、二人と同じ王の器を持っている。
「何の話をしてるのかさっぱり分かんねーけど、こっちは虫の居所が悪ぃんだ。闘う気がねーなら、帰ってくんねーかな」
(そう言うなら何で手が出てくんだよッ!?)
自分から帰れと言う割には、四本の尻尾を振るい強襲してくる。胸中で文句を垂れながら、ビートは迫り来る尻尾を躱して反撃に出た。
「はっ!!」
「ナイフ」
己の肉体を雷に変換し、瞬間移動しながら神速の槍を放つ。しかし晃は右腕にナイフを纏うと、ビートが繰り出す刺突を弾いた。
「まだまだぁぁああ!!」
それがどうしたと言わんばかりに、ビートは雷移動を続けつつ、間髪入れずに槍を撃つ。
恐ろしく速く、鋭い。
けれど晃は、彼が繰り出す超高速の連撃を防ぎ切っていた。
スキル解放により、晃の動体視力と反応速度は格段に上昇している。しかしそれでも尚、雷の速さで動くビートを辛うじて視界に捉えられるぐらいで、ハッキリと目視している訳ではなかった。
ならば何故、晃はビートの攻撃に対応し得るのか。
その秘密は、彼の類稀なる戦闘能力にある。
戦闘能力とは、
環境、体調、武器、技術、五感、知識。その他にも様々な要素が加わり、それら全てが合わさったのが戦闘能力である。
晃はビートが動いた瞬間、何処から仕掛けてくるか予測しつつ、気配を探ってギリギリ攻撃を防いでいる。
一番隊隊長ビート相手にそんな芸当を成せるのは、これまで晃が着実に力を積み重ねてきたからだ。それも、常に死闘の中に身を寄せて。
力も速さもビートが上回っている。
だから避け切れない攻撃は必ずある。その攻撃も、最小限の擦り傷に抑えて、直ぐに回復していた。
だからビートには、晃には自分の攻撃が通じてないと錯覚しているのだ。
「「――ぉぉおお!!」」
何もスピードが専売特許なのがビートだけではない。
元々スキル解放した狼王の姿でも速かったが、七つの大罪スキルの一つ、怠惰のベルフェゴールの力の一部を喰らって格段に力が増した晃も、ビートに劣らない速さを有していた。
「「――ぉぉぉぉおおおおおお!!」」
白と黒が混ざり合う。
光っては消え、光っては消え。二人は戦場を駆け巡りながら凄まじい剣戟を繰り広げた。
「「――ぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッッ!!!」」
雄叫びを上げ、己の全身全霊を眼前の敵にぶつける。
刃と槍が重なるごとに、耳を劈く衝撃音が鳴り響き、地形が歪んでいく。
二人の強者が繰り広げる熾烈な戦いは、最早人間の成せる領域を遥かに超越してた。
「…………」
次元が違う闘いを見せられ、ただ呆然と立っているセス。
彼女は今、虚しさと怒りの感情に打ち拉がれていた。
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