第135話これで最後だ
「ば……馬鹿な……原獣隔世した……私が……ッ」
「まぁまぁ強かったぜ」
太古の記憶を呼び覚まし、真の姿を取り戻した『王爪』のシュナイダーと、銀狼騎士団団長ヴォルフの戦いは既に決着していた。
血塗れに倒れ伏すシュナイダーの上に、ヴォルフは腰を下ろしながら葉巻を吸っている。屈辱以外の何ものではないが、彼を押しのける体力がシュナイダーには残っていなかった。
(『神狼』が……ここまで化物だったとは)
『王爪』はヴォルフとの戦いを反芻する。
原獣隔世してからの戦闘、序盤はシュナイダーが押していた。
上空から暴風を放ち、近付かせない。例え接近を許したとしても、纏う風の暴風壁により肉薄を許さない。もし強引に突破しようするならば、風の刃によって肉体をズタズタに引き裂かれるだろう。
攻守共に完璧な作戦は、しかし『神狼』には一切通用しなかった。
広範囲の遠距離攻撃は容易く躱され、風の防御壁は拳撃によってあっさり突破されてしまった。
冗談じゃない、とシュナイダーは胸中で毒づく。触れたものを切り裂く防御壁が、何故一度の拳撃で破られるんだ。
防御壁を突破されてからはあっという間。
シュナイダーはタコ殴りにされ、地面に打ち落とされた。手足に力は入らず、原獣隔世の効果も切れて肉体は元に戻っている。
歯が立たないとは正にこの事で、格の違いを思い知らされた。『神狼』ヴォルフは、想像を遥かに超えた化物だったのだ
「ふぅ~、どれ、一服したし、そろそろトドメを刺すか」
煙を吹かし、葉巻を握り潰したヴォルフは軽い口調で告げる。
シュナイダーが自分の命を諦めた――その時。
唐突に、ヴォルフの総身がブレた。
「――ッ」
直後、ドッパンッと空気が爆ぜる。
ヴォルフの姿はその場に見当たらず、代わりに拳を振りぬいた雄々しい獅子が立っていた。
「遅れてすまなかった。まだ生きてるよな、シュナイダー」
「キ……キング様……」
獣王軍団『獣王』、獅子獣人のキングの出現に、シュナイダーは驚愕の表情で見上げる。
何故、総大将のキングが
まさか、自分を助ける為に来てくれたのか?
いや……そんな馬鹿な……と否定するシュナイダーの考えは実は当たっていた。
キングは、シュナイダーの危機を救う為に駆け付けたのだ。
「何故貴方がここへ……」
「前線の方に異変を感じてな。原獣隔世したお前とヴォルフが見えたからすっ飛んで来たんだよ。まさか、あの野郎がお前を潰す為に前線に来るとは全く予想していなかったぜ」
シュナイダーはの疑問に答えるキング。
後方で指揮を取っていたら、突然空が目映く輝いた。【真鷹】となったシュナイダーを確認したキングは、『王爪』が原獣隔世するほど追い詰められているのかと一抹の不安を覚えた。そしてその不安は的中し、ヴォルフの姿を捉えた獣王は一目散に前戦に向かったのだ。
「今、お前を失う訳にはいかねーからな」
「ッ!?感謝します……キングさ――」
――ズン!!
シュナイダーの言葉を遮り、不意打ちにヴォルフがキングに拳を放つ。が、注意を怠らなかったキングも既に拳を放っており、二人の拳が激突し、轟音が鳴り響いた。
「不意打ちとは卑怯な真似すんじゃねーか」
「馬ッ鹿、先にやったのはテメーだろうがよ」
「こうして拳を交えるのも久しぶりだな、『神狼』。腕は鈍っちゃいねーだろうな」
「テメーこそ動きがトロくなってんじゃねーだろうな、『獣王』さんよぉ」
拳を合わせたまま言葉を交わす両軍の総大将。怨敵の相手にも関わらず、まるで旧友と再会したような会話だった。
それも無理はないかもしれない。
『獣王』キングと『神狼』ヴォルフは、幾度となく拳を合わせ、命のやり取りをしてきた間柄なのだから。
「フンッ!」
「ちっ、相変わらず馬鹿力だな」
パワーを上乗せしたキングは腕を振り抜き、力負けしたヴォルフは自ら衝撃を殺すように背後へと下がった。
「まぁ、俺としちゃ『
「……ク、ククク、ガハハハハハッ!!」
ヴォルフの勝利宣言を聞いたキングは、チャンチャラ可笑しそうに大きく笑った。
何が可笑しいと怪訝に尋ねる『神狼』に、『獣王』は核心を突くように疑問を投げ掛けた。
「おいヴォルフ、『
「ッ……」
キングの問い掛けに、ヴォルフは眉根を寄せる。
銀狼騎士団三番隊、並びに隊長のローザはエルフ討伐に出向いてから未だに帰還していない。
いや、敗北を喫したのだ。
その情報は昨夜もたらされている。ローザと二万の兵士が、一人の少年に遅れを取ったであろう、と。
「
「確かにローザの件は誤算だった。けどな、アイツを負かした男がこの戦場に現れねーとは思ってるぜ。どうやらソイツは、エルフに執着してるそうだからな」
「さて、どうだかな。もしかしたらシツこいお前に嫌気が差して、お前の寝首を取ろうと来てるかもしれねーぞ」
「テメーが希望論を
ヴォルフの言葉を最後に、二人の男は口を閉じる。少しは動揺させてやろうと振った会話だったが、どちらも口は上手い方ではない。
やはり語るならば、拳が一番だ。
「「これで最後だ。思う存分殺り合おうぜ」」
大将同士の、壮絶な死闘の幕が上がった。
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