第127話ついに王様か

 




「アキラさん……」

「マリア……無事で良かった」

「それは……ワタシの台詞ですよぉ」


 マリアがぎゅっと抱き締めてくる。

 彼女の声は酷く震えていて、冷たい涙が服の胸部分を濡らした。

 手が勝手にマリアの背に回り、絹のような細い髪を撫でる。何故だかこの瞬間に、俺は“帰って来た”と実感し、心にのし掛かっていた重たい何かが消滅した気がした。


「うおっほん!!」

「イチャつく前に小僧……いやアキラ殿、お主に話がある」


 マリアの親父さんが大きく咳払いし、最長老の婆さんが真剣な声音で話しかけてきた。

 いや、別にイチャついてる訳じゃねーんだけどな。


「アキラ殿、我等の為に死力を尽くして頂き有り難うございます。お陰で我々エルフは生き残る事が出来た、心より感謝致します」

「何だよ急に畏って、気持ち悪いな」


 態度の変わり様に寒気がしていると、気付いたら婆さんの背後に多くのエルフ達が片膝をつけて頭を垂れていた。こちらの戦闘も激しかったんだろう、男性エルフは全員傷付きどこかしらに包帯を巻いている。死んだ者も少なくは無いんだろうな。


 にしても何だこの異様な光景は。

 俺は王様かって。


 と心の中で冗談を言っていたら、婆さんはまさかの発言をしやがった。


「エルフの未来を救って頂いた御恩に報い、我等エルフはアキラ殿を“王”とし、アキラ殿に忠誠を尽くすことを誓いましょう」

「……何だこれ」


 いや本当に何だこれ。

 婆さんの言っている事が意味不明で、俺は思考が停止していた。

 俺がエルフの王様だと?冗談キツいわ、どうしたらそうなるんだよ。ドッキリである事を信じてエルフ達を見回しても、彼等は跪いた体勢から微動だにせず依然として厳かな雰囲気を醸し出している。


『ヒハハ、アキラもついに王様か!』

(笑い事じゃねえよぶっ殺すぞ)


 頭の中で可笑しそうに笑ってるベルゼブブに心底イラつく。こっちは困惑してんだからちょっと黙っとけ。

 俺は大きく息を吸って出来るだけ心を冷静に保ち、彼等に向かって本音を告げる。


「真剣な感じっぽいから俺も真面目に答えるけど、俺はアンタ等の王になんかなる気はねーぞ」

「ああ、お主の是非は聞かん。儂等が勝手にお主を王とするから、お主は気にせんでええ」

「ええ!?」


 なんてこった!拒否を拒否されちまった!

 あれか?俺が嫌だと断ってもお前等は勝手に王様扱いするって事かよ。随分勝手だなーおい。

 つーか俺は人間だぞ、人間がエルフの王ってどういう事よ。そこん所どうなのと尋ねたら、問題無いと即答されてしまった。

 ……いや、問題あるでしょ。


「アキラさん……いえアキラ様、どうかよろしくお願い致します」

「おいマリアまで、冗談よしてくれよ」


 俺の隣で他のエルフのように跪いていたマリアが、神様を見るような眼差しで見上げてくる。その場のノリとかじゃなくてガチなやつだ。ちょっと怖いし、何でもいいから様付けはよしてくれないかな、背筋がむず痒いから。


「キュルルル!」

「ムー」

「……!」

「シシシシ!」

「おお、精霊達も新たな王を歓迎しておるぞ」


 婆さんの言う通り、俺の周りで精霊達が騒いでいる。喜んでいるという感情は何となく伝わってくるが……。


(クソッたれ……)


 頭をガリガリと掻き、諦めの境地に達した俺はヤケ糞気味に呟いた。


「はぁ……もう好きにしてくれ」

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