第124話他に構う余裕があるってのかい

 





「アネゴ!」

「ローザ姉!」


 ガガガッと地面を削り、巨大な岩に衝突したローザに先程戦った女戦士達が叫び声を上げる。彼女達の心配は杞憂であり、ローザは地面に血を吐くと何事も無かったかのように立ち上がった。


「ペッ……これぐらいで騒ぐんじゃないよ。でも……今のは効いたね」


 なら少しは効いてる態度を取ってくれよ。全然ピンピンしてるじゃねえか。


「アンタはちょっと疾すぎるね。ならこうしようじゃないか、火龍炎舞!」


 ローザを守護するように炎がとぐろを巻く。恐らく防御術だろう、あれでは迂闊に接近出来ない。……厄介だな。


「今度こそアタイの番だよ。行くぞアキラ、火龍吐息!!」


 長剣から撃ち出される広範囲の熱波。地上に逃げ場はなく、回避するならば上空の一択。だがそこにローザが待ち構えているのは必須であろう。

 が、待ち構えていることが事前に知っているならば然程不利じゃない。逆に強襲してやる。


 地を蹴り上げ高く跳躍。

 予想通り目の前には燃え盛る長剣を振り上げたローザが待ち構えていた。しかし俺も右爪に闇色のオーラを纏い引き絞っている。


「火龍爪撃!!」

「ウルフェンバイト!!」


 炎と闇の爪がかち合う。

 爆音が轟き空間が悲鳴を上げる。数秒拮抗していたが、凄まじい衝撃により俺達は相打ちの如く後方に吹っ飛ばされた。

 爪を地面に突き立て、勢いを殺す。窺うと、奴も同じく長剣を地面に突き立ていた。


 今の攻防で俺達の距離はかなり遠くなった。その距離を有効に使おうと、俺は大きく息を吸って大気を喰らい口腔にエネルギーを充填。こちらに駆けるローザ目掛けて咆哮を撃ち放つ。


「ハン!この距離じゃ当たらないよ!!」


 咆哮は容易く回避されてしまった。彼女はそのまま素早く接近してきて、長剣から四つ首の炎龍を放出してきた。


「火龍四頭!!」

「ウルフェンテイル!!」


 四つ首の炎龍と四本の尻尾がそれぞれぶつかり合う。互いに精密な操作を行い、激しい攻防を繰り返した。

 そんな中、俺は少しずつ喰らっていたエネルギーを口腔に凝縮し、彼女の真横に移動して再び咆哮を撃ち出した。


「だから当たらないよ!!」


 これも躱されてしまった。先ほどより距離は近くなったが、軌道が分かり易いので用意に回避出来るんだろう。まあ俺としては“避けてくれた方が助かるんだけどな”。


 そこで、女戦士が近くに来て叫び声を上げてしまう。


「アネゴ、そいつの狙いは雑兵だ!2回の遠距離攻撃は雑兵の数を減らす為に撃ったんだよ!!」

「なにぃぃぃ!?」


 あらら、もう俺の思惑がバレてしまった。

 ローザとの1対1の戦いによって帝国兵の数を減らす事が出来なくなってしまった。そこで考えた作戦は、ドサクサに紛れて帝国兵を薙ぎ払ってしまおうというものであった。

 お陰でかなりの数を減らすことに成功。エルフ達の負担を減らせたと思う。


 そのかわり、ローザは明らかにブチ切れていた。額に青筋が浮き出て、めちゃくちゃ恐い。ヤーさんだって裸足で逃げ出すキレ顔だ。


「アタイと闘ってる最中に、他に構う余裕があるってのかい。ナメやがって……巫山戯るんじゃないよ」


 頭に血が上ってるのは見て明らかだ。

 冷静な判断が鈍って動きが悪くなるか、力が増して手が付けられなくなるか。

 俺の予想ではローザはきっと――



「アタイしか見れないようにしてやるよ」



 ――後者のタイプだ。

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