第123話チートじゃねえか
渦巻く炎から出現したローザは、一眼で分かってしまうほど強化されていた。
真紅の鎧と長剣に視線が行ってしまうが、一番変化したのはその身から溢れ出す重厚なエネルギー。対峙するだけで身体が震え上がるプレッシャーを浴びて、俺の弱い心が今すぐ逃げろと訴えてくる。
そんなクソッタレな気持ちを覚悟で押し潰し、静かに構えるローザを見据えた。
「ハッ!」
先に仕掛けたのは俺だった。
さっきは思い掛けないパワーアップで上手く身体を制御出来なかったが、既に速度にも力にも馴染んでいる。目にも止まらぬ速さで繰り出す爪撃は、例え強化されたローザでも捉える事は困難だろう。
「危ないねぇ」
「ッ!?」
背後からの奇襲は紅い長剣によって糸も容易く防御されてしまった。俺は少し驚きながらも、直ぐに高速移動を活かした連撃を放ってゆく。
しかしその全てが反応され、楽々と去なされてしまう。解せない……ローザは俺を知覚してる訳でもなさそうなのに、何故全ての攻撃が防がれてしまっているんだ。
「不思議だろ?アタイはアンタのスピードに着いていけていないのに、どうして受け止められるんだってさ」
攻撃の最中にローザが答え合わせのような口調で口を開いた。
「研ぎ澄まされた闘争本能は、危機察知能力も極限まで高められてんのさ。頭で動いてる訳じゃないよ。アタイは今、本能によって勝手に身体が動いてるだけさ」
「……クソッタレ、チートじゃねえか」
つい悪態を吐いてしまった。
奴の言う事が本当ならば、どれだけ疾い視覚外の攻撃を仕掛けても、予想外の奇襲をしても全て通じないって事じゃねえか。
とどのつまり、ローザが得意であろう純粋な力勝負になってしまう。
「そろそろアタイの番だね」
「いや、お前の番はねぇよ」
「あん?」
「
「ちっ!」
ローザが距離を詰めてきた分、俺も離れる。四本の尻尾を自在に操り、四方から殴打の嵐を見舞わせた。
苛立たしそうに舌を打つ彼女は、うざったそうに長剣で尻尾を払いながら接近を試みてくる。しかし俺は、間合いを測って中距離を保ったまま攻撃していた。
確かに俺の疾さはお前に通じないかもしれない。が、お前の攻撃だって俺に当たらないんだぜ。だってお前は、俺の疾さについてこれないんだからな。
「逃げながら戦うたぁ、みみっちい野郎だね。それでも男かい」
『ヒハハ、言われてるぜアキラ』
「五月蝿えよ、ならこれでも喰らってろ」
スゥゥゥゥゥゥと大気を喰らい、腹の中で圧縮してから口腔にエネルギーを充填。ローザ目掛けて一気に解き放つ。
「
轟ッと唸りを上げて放たれた衝撃波は、今までよりも数段威力が上がっていた。階層主のモンスターだろうが一撃で粉砕するであろう咆哮に対し、ローザは燃え盛る長剣で空を突く。
「火龍咆哮」
それは灼熱の吐息。ローザの長剣から噴き荒れた熱線は、大気を焦がしながら衝撃波と衝突した。
重い……強いッ!
僅かだが押されてる。このままでは熱線に飲み込まれてしまうだろう。ならばと俺は、咆哮を止めてその場から離脱。真横を通り過ぎる熱線を背に、高速でローザの背後に接近。
「
右爪に闇のオーラを纏い、無防備な彼女の首筋を狙う。
――獲った。
「甘いよ!!」
「くっ!」
間一髪で長剣を挟まれ受け止められてしまう。だが、態勢も威力もこちらの方が優っていた。このまま押し切ってやるッ。
「ぉぉぉおおおおおおおおおおお!!」
絶叫を上げながら右爪を振り切ると、ローザの身体を凄まじい速度で吹っ飛ばした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます