第121話三番隊隊長ローザ
背後から格闘戦士が鋭い拳を放ってくる。
「岩壊拳!!」
「ヒハハ、弱ぇなあ!」
ベルゼブブは触手で軽々と拳撃を受け止めた。蝿の王はそのまま戦士の身動きを封じ、醜い口を大きく開ける。
「イタダキマス」
「ぐ……ぁぁああああああ■■■■■!!」
首が伸びて格闘戦士の右腕に食らい付くと、ベルゼブブは骨ごと喰い千切る。苦痛に満ちた絶叫が、他の連中の足を止めた。
「ヒハハ、やっぱり生の肉は美味えなぁ。それも柔らかくしなやかな上等な肉はよぉ!」
「おい、戦ってる最中に食うなよな。なんか気持ち悪いんだよ」
「イイじゃねえか。アキラも生の肉は食ってなかったンだろ?飢餓感も限界じゃなかったか?」
……まぁ、それはそうだけど。
普通の飯じゃ、腹は膨れても飢餓感は満たされない。今の食事で、多少満たされたのは確かだ。だからといって、戦ってる最中に肉を食う感覚は味わいたくねえよ。
今の格闘戦士で四人目。残るは六人。
だが、その六人はベルゼブブの食事を目にして酷く脅えていた。
普通にグロテスクシーンだからなしょうがない。次は自分かと思うと、中々一歩を踏み出せないものだ。それでも戦意を喪失しないのは、流石と言うべきかもしれない。
と、俺と彼女達の関係が狩られる側から狩る側に逆転した時だった。
俺目掛けて、強烈な殺気が強襲。急いでその場から離れると、何かが降ってきて地面にクレーターを作った。
間一髪……僅かでも接近に気付かなかったらペシャンコになっていたかもしれない。
クレーターの中心に佇む女性。燃える赤髪、身体はデカく筋肉質、身長は俺よりもあるだろう。
圧倒的存在感、総身から滲み出る強者の風格。間違いない……この女が大将だ。
「「アネゴ!?」」
「よくやってくれた、アンタ達は下がってな。このガキはアタイが殺る」
茶色の双眼が俺を見据える。
おー怖い。女性が出せる目じゃねえぞ、あのデカ女本当は男なんじゃねえのか?
「そんな、私達はまだやれるよ!」
「ミナ達がやられたんだ、黙っちゃいられないよ!」
「アタイだってアンタ達に任せたかったさ。
「「…………」」
事実を告げられ、何も言い返せない女戦士達。確かに、引き際を定めるならここだろう。10対1でも無理だったんだ、数が減って6対1じゃもっと無理だしな。
「アンタ達は他の娘の手当てをしてやり、今ならまだ間に合うさ」
「……ごめん、アネゴ」
「私達が不甲斐ないくて……」
「気にすんな、相手が悪かった。またアタイが鍛えてやるさ」
男前だな〜、男より男らしいぞ、この巨漢女。こんな上司だったら慕っちまうよ。
デカ女に言われた戦士達は、俺に傷を負わされた戦士を遠くに運んでいく。
その姿を視界に入れながら、俺は目の前の強敵に集中した。
「たった一人でよくもやってくれたね……お陰でアタイが戦う羽目になっちまったじゃないか」
「そう思うんだったら早く出てくればいいじゃねえか」
「軍には面子ってもんがあるんだよ。大将のアタイが易々と先頭に立つ訳にはいかなかったのさ」
なんか面倒臭えな。
早い段階でこのデカ女が来ていれば、沢山の兵士を失うこともなかったかもしれないのに。それを承知しながら黙っていたんだから、上の立場にいる人間って大変だなと他人事のように思う。
まぁ、俺としてはそのお陰で戦力を削れたから助かったんだけどな。
「帝国軍銀狼騎士団三番隊隊長ローザだ、アンタも名乗りな」
「アキラだ」
「……アキラはどこにも所属してないのかい?」
「うーん、どうだろう。エルフの里に臨時で雇われてるから、所属といえばエルフの里になるんじゃないのか。知らんけど」
「はっ、人間なのにエルフの里に雇われてるのかい!面白い奴だね。それじゃあアキラ――」
――ッ!!
ローザの巨躯から溢ればかりの戦意が迸った。肌が震え、脳が警鐘を鳴らしてくる。ここから直ぐに逃げろと、本能が訴えかけてきた。
このままでは呑まれてしまう。
そうなる前に、ドンと拳で強く胸を叩き、腹の底から声を上げた。
「ぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
恐怖心を騙す為に、己を鼓舞する雄叫びを上げる。うん……身体の震えも止まったし、なんかスッキリした。
いきなり叫んだ俺を見て、ローザはニィと獰猛に微笑む。
「イイねぇ……もっとスカした野郎と思ってたけど、意外と男っぽい所があるじゃないか。アタイは好きだよ、そういうの」
「だったら戦わずに退いてくれると助かるんだけど」
「馬鹿言ってんじゃないよ。ますます戦いたくなっただけさ」
ですよね。
心の中で突っ込みながら、俺は全神経を集中させる。これから始まるのは死闘だ、一つのミスが敗北に繋がる。
「それじゃ
「ぶっ殺す」
同時に相手へと踏み出し、俺とローザの闘いが幕を開けた。
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