第119話もうギブアップか?

 





(10人か……)


 そこそこ強い千人隊長とやらを三人ぶっ殺し、それを目にして戦意喪失する帝国兵達。このまま帰ってくれねーかなぁとか高望みをしたものの、また強い奴等が現れた。


 数は10人。全員女で、一人一人が千人隊長よりも格段に実力がある。

 その10人が油断も慢心も無く、一気に俺を殺そうとせずじわじわと削ってきやがる。息継ぎをさせない連撃。短、中、長距離全てを駆使して戦う抜群のコンビネーション。ならばと強引に攻めれば、易々と後退されてしまう。

 正直滅茶苦茶戦いにくかった。


 まるで、何十手先の詰将棋を指されているかのような気分だ。それに加え、帝国の兵士も士気を取り戻して森へと向かってしまっている。


「あんまり行くんじゃねえよ」

「「いぎゃああああああ■■■■■ッ!!」」


 女の部隊の攻撃を掻い潜りながら、森に向かう兵士の足を触手刃で薙ぎ払う。大人数を行かせてしまうと、エルフ達では対応出来無いからな。


「余所見してる余裕があるのかい!?」

「はぁああああ!!」

「ぐっ……!」


 鞭を黒スライムの膜壁で防御するが、その上からモーニングスターで殴られ、凄まじい衝撃が肉体を襲う。


「ふぅ……」


 息をするのも辛くなってきた。いや、奴等がさせてくれないんだけども。

 重傷になるダメージはまだ受けてないが、小さなダメージはそこそこ受けてしまっている。このままではジリ貧だ。


(やべぇ、流石にこれはキツいな)


 久々に感じる“死”が、少しずつ俺に近寄ってきたのだった。



 ◇



(10対1だぞ、何故倒せないッ)

(それも、私達の相手をしながら一般兵に力を割いてやがる。舐めやがって!)

(あの男意味わかんない!脳が一杯あるんじゃないの?)


 銀狼騎士団3番隊の隊員は、一人一人が千人隊長を遥かに凌ぐ精鋭達だ。そんな屈強な彼女達が、たった一人の少年を倒すのに手をこまねいている。

 隊長であるローザから、決して無理せず全員で嬲り殺せと命令を下されているから隊員達はいう通りに戦っているが、半分くらいは若干キレていた。

 10人がかりで仕留め切れない己の不甲斐なさに。


 その上、森に向かう一般兵にも意識を割かれている。3番隊を相手にしてそんな余裕があるのかと、プライドがゴリゴリ削られていく。


「喰らいなさい!」

「吹っ飛べぇ!」


 一人が大砲をぶっ放し、一人が巨扇を振るって一筋の暴風を生み出す。だがその遠距離砲は、奇怪の動作によって回避されてしまった。

 人間の成せる動きじゃない。滑るように、引っ張られるように四方八方動き回られる。まるで蜘蛛のような移動方法。あの方法によって、彼女達の攻撃は中々捉えられないでいた。




 ◇



 ああ、これはヤバいな。

 容赦なく降り注ぐ豪雨のような猛攻を凌ぎながら、俺は最大級の危機感を抱いていた。


「いい加減に堕ちろよぉぉおおお!!」

「くたばれって!!」

「が、あっ……!!」


 四方八方囲まれ、10人による連携を駆使した隙のない攻撃。防戦一方とは正にこの事で、この絶望的状況を打開する術が全く見つからない。


 スキルを解放すれば、立場を逆転出来る可能性はある。しかし絶対ではないし、何より奥で控える強者と戦う前に切り札を切りたくなかった。


 遠過ぎて姿は伺えないが、今戦っている彼女達とは比べ物にならない実力の持ち主が居る事は肌で感じられていた。恐らく、そいつがこの軍勢の大将なのは間違いない。

 その大将と戦う前にスキル解放を使う訳にはいかなかった。


(とは言っても、ここで死んでも意味無いんだよなぁ)


 勿体ぶって使わずに死んだら元もこもない。

 しかし使ってしまったら奥にいる強者には勝てない。


(どうする、どうすればいい)


 敵の手数が多すぎて真面な思考が出来ない。

 傷も増えてきた。このままでは、時が積み重なる事に俺は……。


 と、その時だった――。


 頭の中から、耳障りな声が聞こえてきたのは。





『ヒハハ、どうしたよアキラ、もうギブアップか?』



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