第117話死にたい奴だけ前に出ろ
おおー早い早い。
あっという間に百は倒したか。これなら二万も意外といけそうだな。
(けど、そうは問屋が下さないのが、戦いだよなぁ)
何事も順調に進む訳がない。
ましてや俺は【共存】スキル者であり、命懸けの試練を課されるんだからな。
「どけどけー、雑魚はどいてやがれぇぇ!!」
「いい気になるなよ小僧が、私達が相手だ!」
「巻き込まれたくなかったら離れているんだな!」
とか思っている内にやって来やがった。その辺でくたばってる雑魚とは違う、相手するのが面倒な強者がよ。
「千人隊長のブロア様、リーズ様、ギッテ様だ!」
「三人の千人隊長が来てくれたぞ!」
「場所を開けろ!お三方の攻撃に巻き込まれるぞ!!」
俺の周りから雑魚が散っていく。
と同時に、三人の強者が襲いかかってきた。
長剣を持ったヤンキーがブロア。
双剣を構える筋骨隆々なオバさんがリーズ。
矢を引き絞っている青年がギッテ。
三人共、以前戦った戦斧を振るおっさんと同等の実力だと思う。
なら俺の敵じゃない。あの時の俺は疲弊し、片腕のみで、ナイフと蜘蛛糸しか扱えなかった。だが万全な状態の今ならば、大した脅威にはならない。
「おらぁぁ!!」
「はっ!!」
「ナイフ」
ブロアとリーズによる袈裟斬りを、両腕に纏ったナイフで受け止める。二人は力押ししてくるが、俺の足が後退する事はない。
意外と衝撃が軽かったな。二人がかりだから吹っ飛ばされると予想していたんだが。拍子抜けしていると、背後から狙っているのが分かったので後頭部に黒スライムを伸ばして放たれた弓矢を弾く。
「防がれただと!?」
「蟻地獄」
足下からドクトクと黒スライムを溢れさせ、二人の身動きを封じようとする。だが危険を察知され、蟻地獄は振り解かれて距離を取られてしまった。
へえー、と関心していると、奴等は動きを止めて俺をじっくり観察している。顔付きが変わったみたいだし、どうやら本気にさせたようだな。
「このガキ、やりやがる!」
「油断すんじゃないよ。隙を見せれば首を獲られるのは私達さ!」
「何をしてるんです!ぼーっとしていないで、僕達が彼の相手をしている間に貴方達はさっさと森に向かいなさい!!」
「……ちっ」
思わず舌打ちしてしまった。
折角派手に暴れて注意を引き付けていたのに、これでは森の方に向かわれてしまう。
やはり冷静沈着な奴がいると厄介だな。
よし。
あいつ殺そう。
「
「ッ!?」
四本の触手を弩弓の形にし、黒糸で岩石を拾って装填。人外の力で引き絞り弓使いに狙いを定めて発射する。
ゴウッと、劈く音が空気を裂いた。
ギッテは回避行動を取ったが、螺旋を描く音速の弾丸に間に合わず両足が木っ端微塵に吹き飛ぶ。
「「ギッテ!」」
「くっ、このぉぉおお!!」
「蜘蛛糸」
両足を失った弓使いは、激痛に耐えながらも閃光の矢を射る。体勢を崩しながらも攻撃してくる執念は敵ながら見事と言える。
だが届かない。
俺は蜘蛛糸で二人の帝国兵を眼前に引っ張り、盾になって貰った。光輝く矢は一人の鎧を貫くも、二人目の途中で勢いを失う。
「「ぎゃぁぁぁあああ!!」」
「なっ!?」
「ナイフ」
絶叫を上げる帝国兵をゴミのように投げ捨て、驚愕の表情を浮かべる弓使いに肉薄する。そして、右腕に纏ったナイフで彼奴の首を刎ねた。
「ギッテェェェエエ!!」
「この野郎!!」
仲間を殺され激昂するブロアとリーズが、憤怒の顔を受けべ迫ってくる。
俺は全身から蜘蛛糸を放出し、そこら中の帝国兵を引っ張って二人に投げつけた。
「クソが、テメェらどきやがれ!!」
「卑怯な手ぇ使ってんじゃあないよ!」
「卑怯なのはどっちだ」
帝国兵が邪魔で思うように身動きが取れず、一向に俺へ近づけない苛立ちをぶつけるかのような言い掛かりを吐いてくる。
巫山戯るなよ。
この人数差が目に入ってないのか?テメェ等の方こそ寄ってたかって俺を攻撃してるじゃねえか。
最初はすげーイキってたよな。馬鹿にして爆笑してたよな。それが自分達が弱者だと知った途端、卑怯と吠えるのか。
クソッたれが。
「
俺は蜘蛛糸を止めて、右腕に魔王の怪腕を現出する。長剣に火炎を纏わせたブロアに、真正面から正拳を打ち放った。
「火炎豪ぎぃぃゃぁぁぁあああああ!!?」
拮抗など刹那も無い。
「ぐぉぉっ!?」
怪腕の巨拳は一瞬で燃える長剣を粉砕し、ブロアの総躯をくの字に曲げながら遠くまで吹っ飛ばした。多分、奴は二度と立ち上がらないだろう。
「よくもぉぉぉおおおお!!」
「フィーラー」
残ったオバさんのリーゼに触手を仕掛ける。
彼女は光輝く双剣で迎え撃ってくるが、手数が足りていない。触手を切り裂いて防衛するも、徐々に徐々に押し込まれていく。
「くそ、くっそ!くそぉぉぁがぁぁああああああああ!!!」
保ったのは十数秒か。
触手による連続殴打により、リーゼはボロ雑巾の如く滅多打ちに合う。血反吐を吐き散らしながら、彼女は力尽きたように地面に伏した。
「う、嘘……だろ」
「千人隊長が三人がかりで負けたのか……」
「悪魔だ……あの野郎は人間じゃねえ、悪魔だ」
恐怖に慄く帝国兵共。
奴等は触手を操ってる俺を見て、悪魔だ化物だと言いたい放題。全く、失礼な奴等だな。
だがこれはチャンスだ。
ビビっている隙に少し脅してみよう。そしたら退いてくれるかもしれないし。
俺は、顔を青ざめさせ戦意が失われつつある帝国兵に、こう言い放ったのだ。
「死にたい奴だけ前に出ろ」
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