第115話ケリつけよーじゃねーか

 



 ……何だこいつは。

 人間……ではないよな。ライオンが軍服のような服を纏い、当たり前のように言葉を発している。

 っていうか……ライオンが喋ってるのってなんかシュールだな。とても現実感が湧かない。異世界恐るべし。


「おう、いつまでもボーッと突っ立ってないで座れや」


 テメェの家じゃ無えんだぞ。

 そう言い返してやりたいのだが、何故か口から出て来ない。まるで、ボスの機嫌を損ねたくない下っ端のような気持ちだ。


 俺とマリアは、恐る恐るテーブルに近付きライオンの対面に座った。


(このライオン、マジでイカついな) 


 対面し、マジマジとライオンを観察する。

 顔がデカくて迫力があるだけでなく、ライオンの右目は縦に斬傷の跡が残っていた。それもあってか任侠映画に出てきそうな威圧感が半端ない。お前絶対カタギじゃねえだろ。


「軽く自己紹介と行こうじゃねえか。オレ様は魔王軍四天王が一人、獣王軍団獣王のキングだ」

「ま、魔王軍!?」

「……」


 魔王軍と聞いてマリアが飛び跳ねるようにビックリしてる。まぁ無理もない、俺だって内心狼狽しているのだから。


 それにしてもコイツ今四天王って言ったよな。そりゃ強い訳だ。魔界の中でも実力が最上位って事だもんな。

 だからこそ解せない。何で四天王なんか偉い奴がマリアの家に勝手に入って勝手に肉食ってんだ?それも俺が狩った熊肉を。


「何ボーッとしてやがる。オレ様が自己紹介をしたんだ、今度はお前等の番だろ」

「あ、すいません!エルフのマリアです」

「アキラだ。人間だ」


 人間だって紹介の仕方初めてしたな。

 俺は人間だぞって普通言わねえもんな。


「で、四天王なんて大層な奴が何でマリアの家に無断で入って勝手に飯食ってんだ」


 今度は俺から質問を投げた。

 すると、四天王キングは鬣を撫でながら説明する。


「帝国がエルフの森を襲撃するって情報を耳にしてな、慌てて兵を連れてすっ飛んできたのさ。エルフの森は一応オレ様の管轄だからな。そしたら帝国の猿共を撃退したって言うじゃねえか。それをやったのが人間ってのも信じられねぇ。だから真実を確かめにこの家まで来たってえ訳だ」

「すっ飛んできたって割りには随分と遅いご到着じゃねえか。あれから一週間も経ってんぞ」

「そこは悪いと思ってるぜ。だけどオレ様もあっちこっち周って忙しくてな」


 納得出来ない部分もあるが、言っていることは間違いではない。マリアが話していたように帝国が全力で戦争を仕掛けてきているなら、エルフの森以外でも被害は出ているだろう。

 四天王って立場であるこのライオンが、わざわざ救援に来たことが奇跡と言えるかもしれない。


「で、アキラと言ったか。一つ聞きてーんだが、どうして人間のお前が魔族側について帝国と戦ってんだ?」

「別に魔族についた訳じゃねーよ、死にかけだった俺を助けてくれたマリアの為に戦ったんだ。それで今は、エルフと契約して居候期間中は帝国側の相手をする事になってる」

「ほー、そりゃ随分と男前じゃねーか。オレ様は好きだぜ、そういう仁義みてーの」


 お前に好かれた所で何の得にもならんのだが。


「逆に聞くけど、アンタは人間の俺を排除しようとしないのか?」

「あ?何でだよ」

「だって人間は敵なんだろ」


 こいつらからすれば人間は国を滅ぼそうとする怨敵だ。最初の頃のエルフの村人達のように、俺に敵意を抱かないのだろうか。

 その考えを伝えると、キングはグハハ!と可笑しそうに笑った。


「アキラ、それはちとオレ様を馬鹿にしてるぜ。どうせ見た目がライオンだからって頭悪そうとか思ってんだろ」

「そんな事はないが……」

「確かに人間は敵だ。だが敵なのは“襲ってくる人間”だろ?人間の中にも面白え奴や義理堅え奴がいるってのはオレ様も分かってるぜ。アキラも含めてな」


 ……馬鹿にはしていないが、勘違いしていたのかもしれない。殆どのエルフが人間おれに嫌悪していたから、人間=敵であると認識していた。

 キングのように、分別を理解出来る魔族もいるんだ。もしかしたらこいつが特別なのかもしれないが。


「んで、お互いについて理解した事だし、話題を変えるんだけどよ」


 そう切り出すと、キングの表情が一変する。


「ここら一帯で大規模戦闘が起きる。アキラ、お前もそれに加わって貰うぜ」

「大規模……戦闘?何でそんな事が起こるって分かるんだ?」

「そりゃお前さんが帝国軍を壊滅させちまったからだ。アチラさんを本気にさせちまったよ」


 えっ……それって俺の所為になるのか?

 まぁ俺一人で数百人の兵と大将を戦闘不能にさせたからな。ちょっと張り切り過ぎたか……反省しよう。


「攻めに来る部隊は帝国軍銀狼騎士団団長ヴォルフ含め、帝国軍約10万の兵士」

「じっ!?」

「10万!?」


 キングが口にした数に俺とマリアが驚きの声を上げる。

 じ……10万って、多過ぎないか?この前の千人でさえめちゃくちゃ多く感じられたのに……あれの100倍ってことだろ。そんな数相手にどう戦えばいいんだよ。


「10万って言っても、一度に全部投入したりはしねぇさ。戦争ってのは、何度もぶつかり合う消耗戦なんだよ。とは言っても、おれの部隊は半分の5万なんだけどな、グハハハ!」


 いや笑ってる場合じゃねーだろ。

 敵の半分って相当不利じゃねーか。勝つ気あんのかこのライオンは。


「キング様、そろそろお時間です」


 扉がノックされ、向こうから女性の声が聞こえてくる。するとキングは「おっといけね」と言い続けて、


「つい長居しちまったぜ。じゃあなアキラ、この森はお前に任せるわ」

「は?ちょっと待」


 軽く告げて席を立つキング。

 彼が去ろうとすると、突然マリアが「うっ」と苦しそうに呻いた。


「大丈夫か?」

「はい、大丈夫です。今、運命が視えました。アキラさん……」


 マリアはキングが去った扉に視線を向けながら、こう告げたのだった。


「このままではキングさんが死んでしまいます。そしてあのお方が死ぬと……私達エルフも全員死んでしまいます」




 ◇




「キング様、あの人間はどうでしたか?」

「強ぇ」


 獣王軍団三幹部が一人、白狼獣人のセスがおもむろに質問すると、獣王軍団獣王、金獅子獣人のキングは一言で返した。


 森の中を歩きながら、キングはたった今会っていた人間の少年を思い浮かべつつ話しを続ける。


「まず肝が座ってやがる。俺の顔を見てビビらねぇ人間は久しぶりだったぜ」

「キング様の面は魔族の子だって半ベソかきますからね」

「ほっとけ。んでまぁ、“アレ”は相当場数を踏んでやがるな。あのナヨっちいエルフ共が帝国千人を退けたって聞いた時は冗談だろって鼻で笑ったが、アキラが戦ったのなら納得だ。あの野郎はモノが違う」

「団長がそこまで人間を褒めるのも珍しいですね」


 関心するセスに、キングは再び晃との邂逅を思い出す。ぶるりと、鳥肌が立つのが自分でも分かった。


「人間か……オレ様には人間の皮を被った怪物に見えたがな」

「……その人間は、我々の味方なのでしょうか?」

「世話になる間はエルフの森を守るって言ってやがったから、一応味方なんじゃねーのか。まぁオレ様は、次の戦で奴が鍵になると思ってるんだがよ」

「……敵は10万。そしてあのヴォルフが相手です。我々は勝てるでしょうか……」


 弱音を吐く幹部に、キングはニィと口角を上げて、


「勝つに決まってんだろ。それに、ヴォルフとの因縁にもそろそろケリをつけなきゃなんねーしな」

「はい」

「さて、早く戻って戦の準備をするぞ」

「了解しました」





 ここは魔界と帝国の国境付近にある軍事基地。その会議室で、帝国のNo.3とその部下達が集結していた。


「お前等が集まるのも久しぶりだな」


 帝国軍銀狼騎士団団長ヴォルフが、眼前に並んで立つ三人に声をかけると、彼等は全くだと言わんばかりに首肯する。


「俺達バラバラに戦ってたからなー」


 銀狼騎士団一番隊隊長ビートが後頭部で手を組みながらそう告げると、隣にいる二番隊隊長のハイローグが同意した。


「俺なんかアウローラ王国と戦っていたのに、急に招集されちまったんだぜ。後もうちょっとの所だったのによ」


 口惜しそうに吐くハイローグ。そんな彼に対して三番隊隊長ローザが文句を告げる。


「アンタなんか良い方だよ。アタイは上位魔獣をぶっ殺してすっ飛んできたんだよ。ゆっくり休ませちゃくれないんだから。本当にボスは人使いが荒いよ」

「くは、すまんすまん。だが、今回はお前達の力が必要だったんだ。理解してくれ」

「俺達が集まるって事はさ、ついに墜とすんですか?」


 一番隊隊長ビートが問いかけると、ヴォルフは深い笑みを浮かべて、


「そうだ、狙うは獣王の首。奴との因縁、ケリつけよーじゃねーか」

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