第113話ビンタしちゃいました

 




 ガツガツ、モグモグ。


 爺さん婆さんがいる本殿に帰還した俺は、失った体力を回復させる為にひたすら飯を食っていた。

 飯といっても、エルフの料理は人間が作るような立派なものではなく、軽く調理したものを盛った料理。そんなに美味しいとは思わないが、文句は言わず次々と料理を口の中に入れていく。


 婆さんと爺さんは、本殿の外に集まったエルフ達へよく戦ったと労い、そしてマリアが忌子ではなく神から寵愛を受けた存在だと改めて伝えている。

 何故忌子と呼んで、迫害させたのか。その理由を話しているのだ。これを聞いてエルフ達がどんな反応、思いを抱くかは本人次第だ。


 そして話の中心人物のマリアはというと、父親と別室で話し合っている。やっと親子二人がちゃんと向き合えたのだ。良い方向に向かう事を願っている。


「おかわり」

「ど、どれだけ食べるんですか……」

「人間って皆、こんなに大食いなのかな?」


 俺の食べっぷりを目の当たりにし、二人の給仕がドン引きしている。その気持ちは理解出来なくもないが、まだまだ腹が減っているので早くおかわり持って来てくれないかな?


 目線で促すと、給仕は慌てて料理を取りに行った。首を長くして待っていると、料理が来る前にマリアと父親が入って来る。


「アキラさん」

「ちゃんと話し合えたか?」

「……はい」


 力強く頷くマリア。

 彼女の両目には泣きはらした跡が残っているが、表情はとても晴れやかだ。きっと言いたい事を沢山言えたのだろう。

 俺はよいしょと重い腰を上げた。



「殴ってやったか?」

「はい、ビンタしちゃいました」

「そっか。ならおっさん、歯を食い縛っておけ」


 マリアが殴ったのなら、もういいだろう。

 俺はとことこと父親の間近まで歩み、左手を振り抜いて横っ面を殴り飛ばした。


「ぐっ!」

「ええええ!?」


 吹っ飛ぶ父親を見て驚くマリアを他所に、俺は一人満足のいく息を吐いていた。

 はぁ〜、やっと殴れた。滅茶苦茶手加減したけど、一応スッキリしたな。


「えっと……アキラさん、突然何を……」

「心配するなマリア、これはそこの人間……いやアキラとの約束だ。何も問題ない」


 手の甲で口元を拭いながら戻ってくる父親に、マリアは「そ、そうですか」と呆気に取られた風に呟く。


 と、その時だった。

 襖が開き、爺さんと婆さんが部屋に入ってくる。どうやらマリアの説明は終わったらしいな。


「皆にはマリアのことを話した。今は真実を聞き戸惑っているじゃろう。少し時間を置いてから、皆と会った方がええ。勿論、会うか会わないかはマリアに任せるがの」

「ありがとうございます、ロロ様」

「して、お主はこれからどうするのじゃ?何か目的はあるのかの?」


 婆さんに尋ねられ、俺はふと考えてみる。

 俺の目的は何だったのか。これからどうしたいのか。


 まず、アウローラ王国に帰る気は全くない。あの国には嫌悪感しか抱かないし、関わりたいとも思わない。

 だが心残りなのは佐倉と麗華だ。二人は多分もう俺の事を死んだと思っているだろう。まぁ俺自身もこりゃ死んだなと諦めたけど。


 けどこうして生き延びたのだから、生存報告はしたい。それだけあの二人は、俺にとって大切な二人なんだ。


 そして目的を挙げるとすれば、一つだけ因縁が残っている。クラスメイト達を唆し、俺に殺させやがった嫉妬の魔王を……あのクソッたれな魔女をぶち殺す事だ。


 だが今の弱った俺では何も出来ない。

 二人に会いに行く事も出来ないし、嫉妬の魔王をぶち殺すなど到底不可能。

 まずやらなきゃならない事は、身体を完全回復させること。そしてベルゼブブを復活させる。

 だから俺は、婆さんに提案した。


「身体が回復するまで、居候させて欲しい。その間に帝国の奴等がまた襲いに来たら、俺も戦うと約束する」

「ふむ、いいじゃろう。その頼みはこちらとしても願ったり叶ったりじゃ」

「ワタシが!ワタシがアキラさんの看病をします!」

「ほほほ、そうじゃの。今まで通りマリアに頼もうかの」


 はい!はい!と勢いよく手を挙げるマリア。

 正直俺としても彼女が色々助けてくれると有り難い。


「あの……おかわりをお待ちしました」

「一杯作ってきました」

「おっ待ってました」


 給仕である二人の少女が、大量の料理をお盆に乗っけて来てくれた。それを見て喜んでいると、婆さんと爺さんがドン引きしながら口を開く。


「お主、その細い身体でどれだけ食べるのじゃ……」

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