第107話どこで拾ってきた

 




「ガツガツ、モグモグ」

「あんなに憔悴していたのに……もうこんなに……」


 まず何から始めるか。

 そう考えた時、真っ先に浮かんだのは食うことだった。マリアに色々聞いた方がいいのだが、喋ることもままならないほどの空腹で頭と腹が今にもどうにかなりそうだったんだ。


 しかし俺の身体は、指輪一本動かすのも苦痛。なので、申し訳なく思いながらマリアに食べさせて貰っていた。


 まずは水を飲ませて貰い、スープを飲ませて貰い、細かく切った果実を食べさせて貰う。体力が回復し、徐々に固形物を食べられるようになった俺はやっと起き上がれて、自分で食事を行なっていた。利き腕の右腕が失われていて食い辛くはあるが、左手でも十分食事は行える。


「ごめんなさい、今用意出来るのはこれぐらいしかなくて」

「そんな……こちらこそありがとう。食べ物もそうだけど、色々と助けてくれて」


 申し訳無さそうに話すマリアに、とんでもないとお礼を伝える。

 正直全然食い足りないが、仕方ないだろう。彼女に我儘を言う訳にもいかないしな。喋れるように回復しただけでも御の字だろう。


「今更だけど、俺は晃。助けてくれて本当にありがとう」

「いえ、そんな……お礼を言われるほどの事はしていません」


 頭を下げて真摯にお礼を伝えると、彼女は首と手を大きく振って否定する。何だこの人、すげー謙虚だな。


「早速で悪いんだけど、色々と教えて貰いたいことがあるんだ。いいか?」

「はい、ワタシが知っている事なら何でも話します」

「じゃあまず、ここは何処だ?」

「ここは魔界にある、森人エルフの森です」

「ま……魔界!?」


 マリアの口から出た情報に驚嘆する。

 魔界って……確かアウローラ王国が敵対していて、魔族が住んでいる所だよな。俺はそんな遠い場所まで飛ばされちまったのか?


「魔界……は何となく分かるんだけど、森人の森ってのは?」

「エルフの森は魔界の辺境にあります。エルフ以外の魔族はいません」

「エルフって何だ?魔族の種族的なものか?」

「そういう解釈で問題ありません。ワタシ達エルフは森で暮らし、精霊と共に生きる種族です。見た目は人間と変わりません。強いて言うなら耳が長い事でしょうか」


 矢継ぎ早に質問する俺に対し、マリアは丁寧に教えてくれる。

 なるほど……俺は今魔界の、エルフという種族が住んでいる森人エルフの森にいるのか。そんで森の中にあるマリアの家でお世話になってると。


「アキラさん」

「ん……何だ?」


 頭の中で情報の整理をしていたら、マリアが真剣の表情で呼んでくる。


「今魔界は、激しい戦火に見舞われています」

「戦火って……戦争の事だよな?」

「はい。敵は帝国です」

「帝国?」


 あれ、おかしいな。

 この世界に転生した当初に伝えられたのは、アウローラ王国が帝国と魔界と戦争中って言ってたような気がしたんだが。

 帝国と魔界の間でも争っていたのか。


「今までも魔界は帝国やアウローラ王国と戦争を繰り返してきました。ですが今回の帝国が仕掛けてきた戦争は、魔界を滅ぼすまで止まる事のない本当の戦争です」

「……」

「この戦争で、ワタシ達エルフとこの森は滅びる運命でした。けれどアキラさん」

「……」

「アナタが現れた事で、滅びの運命が変わったのです」


 …………。


 って、突然そんなことを言われてもな。

 そもそも運命とか全く信じてないし。だが彼女は至って真面目で、冗談を言ってる雰囲気でもない。

 どう答えてやればいいのか困惑していると、突如ドタドタドタ!と地面を踏み鳴らす音と共に数人のエルフが家の中に侵入してきた。


「お父さん!?」

「やはりお前だったかマリア。怪しい者を匿っていたのは」


 険しい顔を浮かべるエルフの男性が四人。全員が超絶イケメンなのが腹が立つ。

 その中の一人、マリアが父と呼んだエルフの男性が、ジロリと俺を睨めつけてきた。


「どうしてアキラさんがいるって……」

「森が騒いでいたのだ。が、村を調べても原因は見つからない。もしやと思って来てみれば、案の定お前の仕業だったようだな。どこで拾って来た」


 拾って来たって……俺は猫じゃねーぞ。

 それにしても、このダンディなエルフがマリアの親父なんだよな。親子の割には仲が悪いってゆーか、嫌悪してるってゆーか、娘に対して向ける顔じゃねえ。

 一緒に住んでる訳でもなさそうだし、仲は上手くいってないのだろうか。


「お父さん聞いて。アキラさんはワタシ達エルフを救う大事な人なの」

忌子いみごのお前が何をほざいてる!」

「そうだ!どうせ貴様が猿をおびき寄せたんだろ!!」


 マリアの親父以外のエルフ達が心許ない罵声を浴びせる。

 何だこいつら、そこまで酷い事言わなくてもいいだろ。彼女は俺を助けただけなのに。


「マリア、お前とそこの人間を最長老達の元へと連れていく」

「待ってお父さん!アキラさんは怪我をしているの!動ける身体じゃないんです!」

「知らん。おい、連れていけ。引き摺ってでもな」

「「分かりました」」

「お父さん!」

「お前も来るんだ」


 マリアは親父さんに腕を掴まれ、俺はエルフ達に足を持たれてベッドから引き摺り下ろされる。全身に激痛が走り、こいつ等全員ぶっ殺してやりたいが、今の俺にはそんな力も無い。


 触手フィーラーを使おうとしたのだが無理だった。魔王の力を発動するだけの力はまだ回復出来ていない。


「痛てぇんだよおい、もっと優しくしろよ」

「煩い、猿は黙ってろ」


 ……クソッたれ。こいつ等、後で覚えておけよ。


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