第103話幕間 佐倉詩織と影山晃1

 




 ――ボクの容姿は優れている。



 これは自惚れでも自慢でもなく、客観的に見て判断した結果だ。

 母譲りの端正な顔をつき。意に反して大きく育つ胸は、男子の気持ち悪い視線の的だ。背は低い方だが、マイナスではなく寧ろロリ巨乳最高だよな!と男子が噂話をしていたのを小耳に挟んでいる。


 そんなボクは、中学生の頃からモテ出した。全然嬉しくないけどね。

 3回ぐらいは告白されたが、ボクは全て断った。告白相手が嫌いとかではなく、単純に恋愛に興味が無かったからだ。

 いや、“嫌悪”すらしていた。


 その理由は、ボクの父が原因だろう。

 ボクの母と父の馴れ初め、ボクに父がいない理由を母から聞いた時、ボクは恋愛というものに憎しみを覚えた。

 だから、男子と付き合うことはしなかった。


「佐倉さんって調子に乗ってるよね」

「やっぱあの胸だよねー、男子っておっぱい好きだから」

「なんかムカつくー」


 男子に告白される度に、ボクは女子に嫌われた。

 完全にひがみなのだが、相手にするのも面倒なので言いたい放題言わせておく。幸い、中学では虐めが無かったので何事もなく卒業を迎える事が出来た。




 高校に入学したボクは、男子から声を掛けられる事が中学に比べて物凄く減った。それは彼女達の存在が大きい。


 まるでラブコメ漫画のヒロインみたいな結城明日香。

 頭脳明晰で可愛らしい綾小路理花。

 スポーツ万能で剣道部全国制覇の剣凪郁乃。

 ボクが死ぬ程嫌いな西園寺麗華。


 他にも可愛い女子は沢山いるが、この4人は群を抜いて器量が良く男子の注目を一斉に浴びていた。

 なので有難いことに、彼女達のお陰でボクは静かに高校一年生を暮らす事が出来た。



 高校二年。

 ボクの隣の席は、不思議な奴だった。

 影山晃。顔は良い悪いかと聞かれたら良い方。イケメンかと言わればそんな気がする。けど目が死んでる気がするから差し引けば中といったところだろう。


 友達はいない。普通にクラスメイトとも会話をしているので根暗な性格とかではない。ただバイトか何かやっているのか、放課後はすぐに下校していた。だから友達を作ってる暇はないのだろう。


 そんな彼が、突然話しかけてきた時は心底驚いた。


「なぁ佐倉、女性が貰って嬉しいものって何だ?」

「……………は?」


 つい間抜けな顔を晒してしまった。

 でも仕方ないだろう。ボクは一度も影山と会話を交わした事がない。初めてなのに急にそんな事を普通聞くか?

 口説かれてるのかと思ったが、どうやら違うらしい。茫然としているボクを余所に、彼は平然と続けて、


「バイト先のおばちゃんが辞めるんだけどさ、すげーお世話になったから何かお礼したくてな。だけど何を送ればいいか迷っちまって」

「……なるほど」


 そう言われて納得する。

 一瞬、もしかしてボクにプレゼントを渡す為に聞いたのか?と思ってしまったが、全くの勘違いらしい。そんな勘違いをしてしまった事が無性に恥ずかしいが、そんな態度を見せずボクは「うーん」と思考する仕草をする。


「女性ならば、甘い物や化粧品、アクセサリーや花束といった所か。最初の3つは個人の趣味趣向があるから、無難に花でいいんじゃないのか?」

「花か……うん、いいかもな。なんか大人っぽいし。ありがとう佐倉、助かった」


 深く頷いた後、影山は真摯に頭を下げる。そして鞄からメモ張を取り出すと、何かを書き込んでいた。

 そんな彼に、ボクは自然と問いかけてしまった。


「たかがバイトの同僚だろ?そんな真剣に考えるものか?」


 嫌な聞き方だった。

 何でこんな最低な事を言ってしまったのかと、自分でも驚くくらいに。しかし彼は特に気にせず、


「すげーお世話になったんだ。喜んで貰いたいと思うのは当然の事だろ」

「……ああ、そうだね」


 影山はもう自分のやる事に集中していた。そんな彼の横顔を眺めながら思う。


 そういう事を恥ずかし気もなく口に出来るのは、影山はきっと“そういう人間”なのだろう。


 ボクは影山晃という男子に、少し興味を抱いた。





 影山とは偶に会話をする間柄になった。

 彼から話しかける事があれば、ボクから声をかける事もある。

 男子女子含めて、これほど誰かと話し合ったのは初めてかもしれない。

 影山はボクの顔を意識しない、ボクの胸を意識しない。下心はつゆほども感じられない。だから彼の前では、ボクも自然といられるのだ。


「佐倉っていつも本読んでるよな。どんなの読んでるんだ?」

「推理小説とかこれまでの名作とかラノベとか……気になれば幅広く読んでるよ」

「すげーな……」

「君も読んでみるかい?そしたら少しは女性の心が理解出来るんじゃないか」

「本読むのは苦手だからいいや」


 なんだ、わざわざ聞いてくるもんだから読みたいというフリだと思った。これが恋愛本の主人公なら『お前の一番好きな本を貸してくれよ』とか言ってきそうだが、影山に関しては皆無である。

 まぁだからこそ、ボクも自然と話せるんだけどね。


 ――正直に言えば、ボクは影山との会話を楽しみにしていた。学校での唯一の楽しみが、いや日々の生活の楽しみが、彼と他愛もない話しをする事だったのだ。


 もう少し彼と話したい。もう少し彼と居たい。そう願っていた矢先、ボクは男子生徒に告白されてしまった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る