第98話最終階層

 






 ――ダンジョン50階層。

 今までも階層主がいる階層の空間は広かったが、今回はさらに広く感じる。天井に無数の松明が設置されて部屋も一段と明るく、そして重厚な雰囲気が醸し出されていた。


 出現するモンスターは階層主であるベヒモス。ドロップするアイテムは不明だ。


「これが最後の階層主……ベヒモスッ」

「なんてデカさだ」


 部屋の中心に聳え立つ山。

 それは途轍も無く巨大なベヒモスだった。外見はカバがベースで、カバとサイを足して割ったような姿。まさに怪獣と呼ぶべきヘビー級のモンスター。

 だがその身からは、階層主が放つ重厚なプレッシャーを感じられない。というか、もしかして寝てるのか?

 ――挑戦者おれたちがいるにも関わらず。


(舐めやがって)


 癪に触ることもないが、好都合ではある。

 なんて言ったってあの神崎のパーティーが敗れた敵だ。無防備で先手を取らせてくれるなら喜んでぶっ殺してやる。


「遊びはいらねぇ、最初から全力でやるぞ」

「「ああ!」」


 俺達は体内から力を引き摺り出し、一斉にスキルを解放させた。


 “――スキル解放!!”


「モード【Beelzebub】」

「モード【Princess】」

「モード【Fake Leviathan】」

「モード【Brave Hero】」


 ――刹那、其々の姿が一変する。


 俺は黒狼の鎧を纏った獣に。

 麗華は純白の王衣を纏った王女に。

 佐倉は漆黒の衣装を纏った魔女に。

 神崎は黄金の鎧を纏い、赤いマントを翻す勇者に。


 絶大なスキルを解放し、何倍にも強さを増した俺達。

 更に麗華のバフ能力で力が最大以上に上がっている。

 この万全な状態で、最初ファースト攻撃アタックに全力を注ぎ込んでやる。


「一斉に行くぞ!」


 俺は全員に合図を送ると、両腕に漆黒のオーラを纏いながら地を駆ける。それに神崎とデュランとクロが追随。背後では佐倉が詠唱を開始していた。


「ウルフェンバイト!!」

「ブレイブソード!!」

「死黒氷塊!!」

「猪突一牙!!」

「ガルァァ!!」


 漆黒の顎が、輝く一閃が、闇の氷塊が、迸る刺突が、影の鋭爪がベヒモスの頭部に直撃する。

 エネルギーの拡散による爆発が起こり、轟音が鳴り響く。煙で様子を窺えないが、俺は手応えを感じていた。


(スキルを解放させた全力の一斉攻撃。これで無傷だったら殺す手段なんか無いぞ)


 手応えと言うより、願望なのかもしれない。

 今の攻撃が通用しなかったとしたら、ベヒモスを突破する事はほぼ0%だ。


 煙が晴れる。

 ――ベヒモスの頭部は、半壊していた。


「効いていたか……」


 殺し切るまでには至らなかったが、致命傷は与えられている。もう一度やれば、奴の頭部は今度こそ消し飛ぶだろう。


「ムウウ、イタイナァ……」

「は……?」

「聞き間違いでしょうか、今ベヒモスが……」

「喋った?」


 俺達は全員、鳩が豆鉄砲をくらったかのような顔を浮かべる。

 それも無理無いだろう……何故なら頭部が半壊しているベヒモスが言語を放ったのだから。聞き間違いではなく、確かに聞こえた。


「セッカクネムッテタノニ……オコサナイデヨ」

「おい神崎、ベヒモスが喋るなんて情報は聞いてねーぞ」

「俺も……知らなかったッ」


 神崎に確認すると、彼は歯を食い縛りながら答えた。どうやら前回戦った時は喋らなかったようだな。

 だが驚くべき事はそれだけでは無かった。半壊したベヒモスの頭部が、みるみる復元はされていく。


「おいおいおい……回復持ちとか聞いてねーぞ!?」

「これは倒すのに骨が折れますな」


 冗談だと言ってくれ。

 階層主が回復するとか卑怯にも程があるだろう。どうやって倒しゃいいんだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る