第97話ようやくここまでたどり着きましたわ
――ダンジョン48階層。
この階層では一度に出現するモンスターが5体となる。
敵が5体にもなると一人二人の時は倒すのに時間も掛かったし苦戦もしたが、今は頼りになるメンバーが多く個人の負担が少ない。
特に神崎の躍動っぷりは半端無く、この階層は楽に突破した。
――ダンジョン49階層。
この階層では新たにヴァンパイアが現れる。アイテムはドロップせず代わりに金貨がドロップされる。
吸血鬼といっても、ベルゼブブ曰く魔族にも至っていない魔族モドキだそうだ。だが今までのモンスターより知能はかなり高いらしい。
「「フッフ」」
「カカカ」
「「ギギ」」
ヴァンパイア2体、スカルドラゴン1体、メタルスコーピオン2体と遭遇する。
「ヴァンパイアに噛まれないよう気をつけるんだ!」
事前に聞いていたが、神崎が再び全員に忠告する。
どうやらヴァンパイアに噛まれると少しの間身体が麻痺するらしい。
説明された時は、いや普通噛まれねーだろと鼻で笑ったがどうやらヴァンパイアは周囲を暗闇にする魔術を使ってくるそうだ。そして音も無く近付いてくるんだと。
その状況なら不覚を取る可能性もあるな。
「「フフフ」」
「早速きたか」
先手を打つ間も無くヴァンパイアが魔術を発動。周囲が一瞬で暗闇に包まれてしまう。
(何も見えねえ……)
確かにこの状況は厳しい。
視覚を奪われた状態で、敵はヴァンパイアだけではなく他にもいる。無闇矢鱈に攻撃して同士討ちするのも嫌だし……困ったな。
「シャ――」
「ハリセンボン」
「――ァァアア■■■■ッ!!」
背中から無数の黒棘を伸ばす。
すると案の定背後で襲いかかろうとしていたヴァンパイアが絶叫を上げた。
筒抜けなんだよ、お前等のやろうとしてる事はよ。
暗闇にして視界を潰し、気配を消して獲物に近付き、背後から首筋に歯を突き立てる。
以前の俺ならば華麗に喰らっていたであろうその攻撃手段は、今の俺には通用しない。
何故なら気配を消しきれていないからだ。
――貴様の首筋を貰うぞ。
殺気が漏れてんだよ。
そんだけダダ漏れしていたら嫌でも察知するわ。
「ジャアァァアア!!?」
残るヴァンパイアの悲鳴が上がる。
その瞬間、包まれていた暗闇が解けて視界が回復した。辺りを見回して状況を確認すると、麗華の背後でヴァンパイアがクロに噛み付かれていた。
恐らく無防備な麗華を襲おうとしたヴァンパイアが、彼女を守護していたクロに逆襲されたのだろう。襲う相手が悪かったな。
佐倉はスカルドラゴンの全身を凍らせ、神崎とデュランは2体のメタルスコーピオンと戦っていた。
おいちょっと待てお二人さん、何で暗闇の中で剣振り回して戦えんだよ。おかしいだろ。
「
「ブレイブソード!」
「
佐倉が右手を掌握すると共に、凍結させたスカルドラゴンを粉砕。閃光を放つ剣で神崎が、漆黒に染まる巨剣でデュランがメタスコーピオンを断ち切った。
戦闘が一区切りついた所で、俺は剣士の二人に質問する。
「何で暗闇の中で戦えんだよ」
「ホッホ、そりゃ経験というものである」
「えっと……何となく?」
(化物共が……)
強くなっている気がしたが、改めて考え直す。こいつ等の強さに比べたら俺なんか生まれたての子鹿に過ぎない。
「よし、それじゃあ皆……行こうか」
「ついに来たね……」
「ええ、ようやくここまでたどり着い着きましたわ」
最終階層に向けて闘志を奮い立たせる。
そうだ、ようやく来たんだ……。
ここにたどり着くまでに長く、色んな出来事があった。
『オレ様は暴食の魔王――ベルゼブブだ』
『貴方……突然何をしてますの、ハレンチな!!』
『な、何で……君が、ここに』
『俺はお前の正義面が、見てて吐き気がするんだよ』
『うるさい!“私達”ならやれる!!』
『そういう事をサラッと言っちゃう所が、影山君らしいよね』
「……」
一瞬だけ過去を振り返り、終わりへと続く道に視線を向ける。
「明日香と理花を助ける……絶対に!」
「この先に何が待っていようと、ボクは影山の隣を行く」
「行きますわよ。クロ、デュラン」
「ガルッ!」
「どこまでも着いて行きますぞ、我が主殿」
終わらせよう、全てを。
「行くぞ」
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