第96話馬鹿か俺は
――ダンジョン46階層。
この階層で出現するモンスターは今までと変わらないが、同時に4体まで出現する。
キラーマンティス2体、スカルドラゴン2体と遭遇する。
ここは特に語る事もなく、神崎と黒騎士が無双してあっという間に蹴散らした。
――ダンジョン47階層。
この階層では同時に4体まで出現し、新たにメタルスコーピオンが追加される。ドロップするアイテムは『メタルスコーピオンの鋼』である。
「「ブゴォ!」」
「「ギギギ!」」
ボアソルジャー2体とメタルスコーピオン2体が現れる。
メタルスコーピオンの外見は銀の鎧を纏ったサソリだ。ただキラーマンティスと同じぐらい巨大で、見るからに防御に特化している事が窺える。倒すのは骨が折れそうだ。
「猪は任されよ」
「じゃあ俺はメタルスコーピオンを倒すよ」
「ガルァア!」
デュランがボアソルジャーに、神崎とクロがメタルスコーピオンにそれぞれ迎え撃つ。
黒騎士は苦戦する事なく2体のボアソルジャーを蹴散らす。
一方神崎とクロの方は……。
「はぁああ!」
「ガルァア!」
「「ギィ!」」
やはり堅牢だな。
神崎が繰り出す斬撃やクロの鋭爪ですら鋼の鎧を断つのは困難。ならばやはり、有効なのは打撃だろう。
「佐倉、行けるか」
「勿論だとも」
俺はハンマーを纏って蜘蛛糸を放出する。
神崎達の隣に近付くと彼等に後退を促した。
「俺と佐倉がやる。離れてろ」
「……すまない、任せた」
「ガル……」
神崎とクロが下がり、俺と佐倉が前衛に出る。
俺はハンマーを振り上げ、佐倉は右腕を翳した。
「オラァァア!」
「プリズムショット」
メタルスコーピオンの側面を力の限り叩く。しかし鎧が凹むだけでダメージは少ないようだ。佐倉が放った氷の礫もメタルスコーピオンを襲うが、致命傷には足りてない。
どんだけ硬いんだこのサソリ……倒せない事はないが時間喰っちまうぞ。
「「ギィア!」」
「ちっ……」
2体のメタルスコーピオンが尻尾による刺突を放ってくる。避けれない事は無いが、手数も多いし挙動も少ないから攻撃の出だしが読み辛ぇ。
(考えろ……)
俺には純粋な攻撃力が足りて無い。
スキルを解放すればこの問題点は解決されるが、階層主でもないただのモンスター相手に一々解放するのは勿体ねぇ。
ならどうすればいいか……。
(馬鹿か俺は……)
攻撃を躱しながら思考を巡らせていると、不意に過去の映像が脳裏を過る。
俺ではない、獲物を見下ろす高い視点。
黒く巨大な豪腕から繰り出される理不尽なまでの暴力。
階層主だろうが何だろうが、たった一発で敵の心をへし折った拳。
『ヒハハハハハハハ!!』
灯台下暗しとはこの事で。
イメージすべき存在は最も近くにあったんだ。
俺は黒スライムを右腕に纏わせ、限界まで凝縮。紅い脈が走った、黒く禍々しい怪物の腕が完成された。
「
この巨大な腕では走りにくい。
なので腰から蜘蛛糸を放出し、メタルスコーピオンとの間合いを詰める。
小細工はいらない。真正面からぶっ潰す!
「ォォォォオオオオオオオオオッ!!」
「――ギ――」
――ドンッと鈍く重低音が鳴り響いた。
怪物の右腕から放たれた一撃は防御をしようと交差させたメタルスコーピオンの両鋏を粉砕し、その総身を軽々と吹っ飛ばす。
壁に激突したメタルスコーピオンは微動だにせず、直ぐに粒子となって消え失せた。
「なんてパワーだ……」
「あァ……素晴らしいですわ」
「……」
「ホッホ、正に怪腕じゃったの」
「ガル!」
佐倉は驚愕し、麗華は恍惚な表情を浮かばせ、神崎は眉間に皺を寄せ、黒騎士は関心し、クロは悔しさに唸った。
そして俺自身も、今の一撃に手応えを感じている。
魔王ベルゼブブをイメージした黒く巨大な腕は、想像以上の破壊力だった。
『ヒハハ、オレ様を真似したのか』
(んだよ、別にいいだろ)
『アア、構わねぇぜ。アキラがしたいようにすればいい』
ベルゼブブの了解も得たし、ちゃっちゃと残るメタルスコーピオンも料理してやるか。
――そう意気込んでいた刹那、眩い閃光が俺の横を通り過ぎていった。
「ブレイブソード」
「ギギィィヤアアアア!!」
劈くような悲鳴が上がった。
悲鳴の発生源であるメタルスコーピオンの胴体は縦に真っ二つに断絶され、死体の眼前には光り輝く剣を握っている神崎がいた。
「さぁ、先を急ごう」
「……ああ」
……あんにゃろう。
見せつけて来やがったな。
――自分だってメタルスコーピオンを倒すなど造作も無いってことか。
流石勇者様は違うね。
天晴れだわ。
『ヒハハ!とか言って内心は気に入らないんだろ』
当たり前だボケ。
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