第93話我輩登場
――ダンジョン44階層。
この階層で出現するモンスターは43階層と同じだが、一度に出現するモンスターが3体となる。
早速ボアソルジャー1体とキラーマンティス2体と遭遇し、さて今度は誰が戦うという空気になった瞬間、今まで忘れていた奴が突然現れた。
「ホッホ、我輩登場である!」
「「……」」
黒馬に乗って派手に登場したのは、漆黒の鎧を全身に身に纏った騎士風の男。だが奴は人間でない。何故なら頭部が骸骨で、既に死んでいるからだ。
死霊騎士デュラン。
25階層の中ボスであり、何故か麗華の配下となったモンスターである。
目覚めたばかりで本調子に程遠いからと、闘いの勘を取り戻す為に一時離れていたんだが……。
今の今まで存在を忘れてたわ……。
「何だこの人語を喋るモンスターは!?」
「ただのモンスターじゃない、気をつけろ」
あーそうか、佐倉と神崎からしてみれば得体の知れないモンスターだもんな。そりゃ警戒するわ。
俺が「こいつは敵じゃない」と二人に説明していると、黒騎士は馬から颯爽と降りて麗華の眼前に跪く。
「長らく待たせてしまい申し訳無かった。これよりデュラン、麗華殿の配下として粉骨砕身の思いで戦いましょうぞ」
「戦いの勘は取り戻せたのですか?」
「勿論でございます」
「なら、あのモンスターを相手に貴方の力をわたくしに示して下さいます?」
麗華が3体のモンスターを指し示す。
するとデュランはクカカッと笑うかのように顎を震わせ、
「我輩の物差しがあの畜生共で測れる訳がないと思われますが、主の命令とならば喜んで戦いましょうぞ」
声は重く、総身からは重厚なプレッシャーが溢れ出していた。
……やっぱりこの骸骨爺ぃ、クソ強ぇ。スキルを解放した状態でも勝つのは困難だろうな。
黒騎士は静かにモンスターに歩み寄ると、鞘から黒剣を抜き放った。
「ブフ……」
「「キシッ……」」
今までモンスター達が攻撃して来なかったのは、黒騎士という存在に怯えていたからだ。モンスターとしての格が違うと本能で感じ取ったのだろう。
その時点で、もう勝負は決していた。
「ガルル……」
「クロ、出てきたのですか」
麗華の影からブラックウルフキングが現れる。奴は真剣な眼差しで黒騎士の戦いを眺めようとしていた。
……というか、
「クロって?」
「いつまでも駄犬と呼ぶのも可哀想でしたので、クロと名付ける事にしたのですわ」
『ヒハハ、今更だな』
脳内でベルゼブブが笑う。
うん、俺もそう思ってた。それにクロって……安直過ぎないか?
いやまぁブラックウルフキングがそれで良ければいいんだけどね。
「参ろうぞ」
デュランが敵に目掛けて駆け出す。
数秒でボアソルジャーに詰め寄ると、デュランはただの袈裟斬りを放った。その変哲の無い斬撃を、ボアソルジャーは成す術なく浴びてしまう。
「ブ……ヒッ」
「畜生が戦士の真似事をしても所詮は畜生よ」
ボアソルジャーを屠った後、黒騎士は2体のキラーマンティスにヒタヒタと静かに歩み寄った。余りにも無防備……と、奴等はそう感じてるだろう。
だが俺には、死神が這い寄ってようにしか見えなかった。
「「キシャァアアア!!」」
「フン」
「「キッ!?」」
振り下ろされた鎌を黒剣で弾き飛ばす。いや、受け流したのか?
キラーマンティスの体勢が崩れたと同時に、黒騎士はすかさず奴等の胴体を真っ二つに切断した。
「ホッホ、主が前だからとちと張り切り過ぎてしまったわい」
(何でこの骸骨が25階層の中ボスなんだよ、有り得ねぇだろ。最終階層の階層主でもいいくらいだわ)
反則染みた力を持つ黒騎士に、内心で悪態を吐く。
(化物め……)
今だからこそ理解出来た。
以前までは黒騎士も剣凪も神崎も肩を並べるくらい剣術が優れていると判断していた。
しかし、神崎も剣凪も化物レベルだが、黒騎士の剣技は次元が違うように思える。
力と速さだけなら、スキルを得た二人は負けないだろう。しかし奴の剣は極限まで研ぎ澄まされているんだ。
一切無駄の無い動き、一撃が必殺となる“最適解”の斬撃。
一体どれほどの修練を積めば、この境地に至るのだろうか……皆目見当もつかない。
「影山、あの巫山戯た強さのモンスターは本当に西園寺の配下なのかい?それとあの黒狼も」
「ああ」
「麗華はあんな強いモンスターを仲間にしていたのか……やっぱり麗華は凄いな」
二人が黒騎士の強さに脱帽する中、本人は悠々と主人である麗華の下に戻ってくる。
「我輩の実力、いかがでしたかな?」
「十分ですわ。これから頼りにさせて貰いますわよ」
「ガルル」
「おおー、あの灰狼が上位種に進化したであるか。よくぞここまで麗華殿を守り抜いた、我輩は其方を認めよう。よろしく頼むぞい」
「ガル!」
デュランとブラックウルフキングが互いを認め合っていると、黒騎士は次に俺達に視線を向けた。
「……驚いたぞ、小僧生きておったのか」
「おかげ様でな、ピンピンしてるぜ」
俺の姿を確認して驚愕する黒騎士にドヤ顔で答える。
死んだと思っていても無理はないだろう。片腕を斬り飛ばされた上にあの出血量。普通の人間ならば確実に死んでるしな。
「瞳の奥に棲まう狂気が増しているな。小僧、修羅にでもなるつもりであるか」
「知らねーよ、俺は俺だ」
「「……」」
俺とデュランの視線が交差する。お互い譲らないでいると、神崎が軽く挨拶をした。
「俺は神崎勇人、よろしく頼むよ」
「中々の好青年ではないか、まるで若い頃の我輩のようであるな」
嘘こけよ、お前が神崎レベルのイケメンな訳ねーだろーが。
それにしても神崎は本当に空気が読めるな。俺とデュランが作ってしまった不穏な空気を一瞬にして変えてしまった。こういう所がモテるんだろーなと感心してしまう。
「一応ボクも自己紹介しておくよ。佐倉詩織だ、よろしく」
「うむ、よろしく頼むぞい」
「顔合わせも済んだし、そろそろ行くか」
ふと思ったんだが、このパーティー強過ぎないか?
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