第92話王としての器

 



 ――ダンジョン41階層。

 この階層で出現するモンスターは、ボアソルジャーだ。ドロップするアイテムは『ボアソルジャーの中肉』である。


「ブフッ!」

「厳ついな……」


 鼻息が荒いボアソルジャーの外見は、斧を携えた二足歩行の猪だ。戦意迸る鋭い眼光に、はち切れんばかりの肉体。

 正に猪の戦士と言えよう。


「誰が行く?」

「ボクがやろう」


 周りに確認すると、名乗りを上げたのは佐倉だった。ブラックワイトキングを殺れる実力があると承知しているが、念の為聞いておこう。


「一人でやれるか?」

「ボクの強さを信じられないなら、今見せてやろう」


 堂々と言いのける佐倉は、ボアソルジャーと対峙する。


「ブッフォォオオ!!」

フリーズれ」


 地面を踏み鳴らしながら猪突猛進するボアソルジャーに対し、佐倉は魔言を唱えた。

 ――刹那、彼女の足先からピキピキと氷が張っていき、津波のようにボアソルジャーを飲み込む。


「……ッ……」

ブレイクけろ」


 氷漬けにされた猪戦士は必死にもがこうとするがビクともしない。動きを封じた敵を、佐倉は再び魔言を唱えることでトドメを刺した。


 ガッシャーンと轟音を響かせ、ボアソルジャーが氷と共に決壊した。残るのは、『ボアソルジャーの中肉』のみ。

 彼女は振り返ると、どんなもんだいと言わんばかりの勝ち気な表情で、


「どうだ影山、ボクの力は」

「ああ……本当に強くなったな」


 佐倉は強くなった。

 41階層のモンスターを瞬殺可能な程に。彼女は一体、どんな高い壁を越えてこの力に辿り着いたのだろうか。想像もつかんな……。


「どんどん行こうか」

「ああ」




 ――ダンジョン42階層。

 この階層では出現するモンスターはボアソルジャーだけだが、モンスターの数が同時に2体出現する。


「「ブフゥ!」」

「俺がいく」


 ボアソルジャー2体と遭遇すると、今度は神崎が声を上げた。

 おお……ついに拝めるのか。【勇者】スキルに選ばれ、転生した生徒の中でも最強の神崎勇人の実力を。


「……」


 神崎は右手を柔らかく広げる。すると光が収束していき、白銀の剣が現れた。

 おいおい何だその出し方……カッコ良くないか?


 武器の出し方に驚いている間に、彼の姿が消える――程の移動速度でボアソルジャーに肉薄すると、閃光の斬撃を浴びせた。


「「ブッ……!!?」」


 ボアソルジャーの身体から鮮血が噴き出ると、モンスターは燐光となって消滅する。白銀の剣が再び消えると、神崎は振り返りイケメンスマイルを浮かべた。


「さぁ、行こうか」

(この野郎……とんでもねぇ強さだな)


 圧巻の戦いぶりに戦慄する。

 ボスモンスターで無いとはいえ、40階層のモンスター2体を瞬殺かよ……。

 敵との距離を瞬時に潰す移動速度、そしてあの凄まじい剣技。

 黒騎士デュラン、アシュラ、剣凪と化物染みた剣技を実際に体感してきたから分かる。神崎の剣技は、そいつ等と全く遜色ない。


(これが神崎勇人か……)


 だが、これほど強い神崎ですら敵わなかった50階層の階層主は、どれだけ化物なんだよ。




 ――ダンジョン43階層。

 この階層は同時に2体出現し、ボアソルジャーに加え新たにキラーマンティスが出現する。ドロップするアイテムは『キラーマンティスの羽根』だ。


「ブフゥ!」

「キシシシシシ!」


 ボアソルジャー1体とキラーマンティス1体と遭遇する。キラーマンティスの外見は、ぶっちゃけ巨大化したカマキリだった。


 地球でも見慣れたカマキリが自分の倍の高さというだけで、不気味というか生々しい。それも鎌の部分が本気で人を殺しに来てるぐらい鋭かった。油断して一撃貰ったらアウトだな。


『こンな虫にビビってンのか?』

(び、ビビってねぇよ)


 ベルゼブブに煽られたのが癪に触ったので、今回は俺が志願しよう。


「よし、俺がやる」

「大丈夫かい?手を貸そうか?」

「無理に一人で戦う事はないぞ。俺たちはパーティーなんだからな」

「そうですわ」

「五月蝿ぇ!黙って見てろ!」


 何で俺だけこんなに心配されるんだよ、おかしいだろ!!

 腹立つわー。こうなったら俺も瞬殺するしかないな。


「フィーラーナイフ」


 背中から触手ナイフを6本生み出し、ボアソルジャーとキラーマンティスに攻撃する。

 この一撃で串刺しにしてやる。

 と意気込んだ俺の思惑は――、


「ブッフゥウ!!」

「キシャァア!!」

「……」


 ボアソルジャーには斧で、キラーマンティスに鎌で全ての触手ナイフを簡単に弾かれてしまった。

 そうだよな……普通そうなんだよな。瞬殺した佐倉と神崎が異常であって、この結果が正常なんだよ。

 二人が余りにも容易にモンスターを倒したから俺も行けるだろうと勘違いしていた。なんと恥ずかしいことか。


「ふぅーー」

「「――!?」」


 一つ深呼吸。

 俺は強くない。が、弱くもない。

 集中して、油断なく、確実に、俺の戦いで奴等を屠ろう。


「ナイフ、蜘蛛糸」


 両腕にナイフを纏い、腰から射出した黒糸をボアソルジャーに付着させた。更に伸縮移動によって一気に間合いを詰める。


「ふっ!」

「ブフ!」


 斧と刃が交差する。

 火花が散り、鬩ぎ合う中で俺は畳み掛けるように足下から黒スライムを溢れさせる。


「ブヒ!?」


 下半身の身動きが取れなくてなったボアソルジャーにトドメを刺す瞬間、背後からキラーマンティスが強襲してきた。


「キシャアア!」

「――!」

「キッ……!?」


 ――お前の考えは読めているぞ。

 頭だけ振り返り、その意思を込めた目線を向けると、何故かキラーマンティスは怯えたように攻撃を中断した。

 理由は不明だが、この絶好の機会を見逃す訳にはいかない。


「ニードル、フィーラーナイフ」

「ブギィ■■」

「ギッ……」


 目の前のボアソルジャーを黒沼から伸ばした極太の長針で串刺しに、背中から生やした触手ナイフで硬直しているキラーマンティスの首を跳ねる。


「まぁ……こんなもんだろ」

『最初は傑作だったがな、ヒハハ!』


 やめろ、アレは本当に恥ずかしかったんだからな。

 馬鹿にして笑っているベルゼブブに内心でツッコミながら三人の下に戻ると、三人は化物を見てしまったような表情を浮かべていた。


「どうした」


 気になったので尋ねてみると、三人は恐る恐る呟く。


「いえ……最初の攻撃まではいつもの晃だったのですが、その後は雰囲気が一変したので少し驚いただけですわ」

「漫画みたいな表現になってしまうけど、静謐な殺気が漂っていたよ。正直に告げると、僅かだけど畏れを感じた」

「影山のスキルは事前に聞いていたが、実際に見ると暗殺者アサシンみたいな戦い方なんだな」


 殺気が漏れていた?それも佐倉や麗華が怯える程の殺気を?全然そんなつもりは無かった。

 そりゃ殺す気で戦ってたけどよ、自分的には今までと変わらず普段通り戦っただけなんだが。


『王としての器が芽生えてきたか……』

(あ?なんか言ったか?)

『ヒハハ、なンでもねぇ、気にすンな』


 ああそう。


「んじゃ、次行くか」

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