第91話派手に喰い散らかすぜ
――ダンジョン一階層。
「そんな……委員長が死んだのか……」
「騎士団に捕まって、晃はこの二日間牢屋に閉じ込められてたんですの!?」
「……残念だったな」
ダンジョンに潜ると、俺は麗華と佐倉、ついでに神崎にも自分の身に起きた事を簡単に説明する。
突然俺が騎士団に襲われたこと。
委員長が俺を庇って死んでしまったこと。
暴走した俺が、騎士団に捕まって牢屋にぶち込まれていたこと。
三人の反応は様々だ。
驚いたり、怒ったり、悲しんだり、惜しんだり。
その後、佐倉が心配そうな表情で聞いてくる。
「それで……君は大丈夫なのか。身体の問題じゃないぞ、心がだ」
「正直な所、自分でも大丈夫なのか大丈夫じゃないのかよく分かってないんだけどな……ただ今は、さっさとダンジョンを制覇したいと思ってる」
今の気持ちをはっきり伝えると、佐倉は「そうか……」と呟いた後に短く息を吐いた。
「晃は強いですわ。それはわたくしがよく知っています。ですが貴方だって一人の人間、辛い時は頼っていいんですのよ」
「ありがとう、泣きそうになったら胸を借りるよ」
暖かい言葉を送ってくれる麗華に感謝を述べた。
「影山……」
「神崎、同情はいらねぇよ。お前は自分の仲間の事だけ考えてろ。早く助けてーんだろ?」
「……ああ」
暗い顔で口を開こうとする神崎の言葉を被せ、発破をかけるように告げる。すると彼は、決意を抱いた男の顔をした。それが何とも様になっていて、やっぱりコイツは糞カッケェなと素直に感心してしまう。
「俺からの提案なんだが、四十階層までは俺に任せてくれ。時間も惜しいし一気に進む」
そう言うと、三人は疑問気に首を捻った。
まぁそうだろうな、幾ら強くなったって言っても一人で四十階層までを短時間で到達するのは客観的に考えて無理だと思う。俺自身でもそう思うし。
だけどそこまで進むのは、“俺じゃない”。
「こう見えて今死ぬほど飢えてるんだ。だからベルゼブブに身体を渡して一気に進む」
「なるほど、ベルゼブブ君なら……」
「そうですわね……あのお方の力なら造作も無いでしょう」
「おい皆、一体誰の話をしているんだ?」
『おいアキラ、オレ様はそンな話し一言も聞いてねぇぞ』
脳内でベルゼブブが文句を言ってくる。
俺はまぁまぁと宥めつつ、
(最近モンスターを喰ってなかっただろ?だからお前にとっても美味い話だと思うんだけどな)
『ヒハハ、とか言ってコキ使おうとしてるのが見え見えなンだよ!』
バレてたか。
けどそこを何とか頼むよ。
『仕方ねぇ、やってやるよ』
(サンキュー!!)
頼み込んだ結果、ベルゼブブは嫌々ながら引き受けてくれた。すげー助かるな、これで俺も回復出来るし、新階層まで三人の負担を減らしてやれる。
『その変わり、派手に喰い散らかすぜ』
(ああ、やってくれ)
暴食の魔王の了承を得ると、俺は早速三人に伝える。
「今からベルゼブブと変わるから、後はよろしく。邪魔せずに見てるだけでいいから」
「分かった」
「はい」
「変わるって……何とだよ」
俺はベルゼブブと肉体の主導権を入れ替える。
すると、グツグツと身体が熱した鉄のように熱く煮え滾り、身体から溢れ出す黒スライムが全身に纏わり付いてゆく。
筋肉が膨張し、身体が肥大化し、視線も変わった。
「何だ……この化物は!?」
狼狽した神崎が下から見上げてくる。
彼が驚くのも無理は無い。ベルゼブブの姿は誰がどう見ても醜悪な化物にしか見えないからな。
「ヒハハ、腹減って頭オカシクなっちまいそうだぜ」
「久しぶりだね、ベルゼブブ君」
「ご無沙汰ですわ」
「サクラシオリにサイオンジレイカか。アア、オマエ等も元気そうじゃねえか」
魔王に向かって気軽に話しかける佐倉と麗華。
今更なんだが、こいつ等よくビビらないよな。ほら見てみろ、神崎なんか警戒心丸出しじゃねえか。普通だったらこういう反応だよな。
「影山……なのか?」
「チッ……勇者か。胸糞悪ぃ」
神崎に対するベルゼブブの反応が強い。苦虫を噛んだような負の感情がバシバシ伝わってくる。
何で神崎を嫌うのか不思議に思ったが、そう言えばベルゼブブは昔、勇者にぶっ殺されたんだっけ。だから【勇者】スキルの神崎が苦手なのか。腑に落ちると、麗華が警戒する神崎に事情を説明する。
「この方はベルゼブブ様、晃のスキルに宿る意思のあるスキルですわ。こんな外見ですが、敵ではありません」
「そうか……凄いな、意思のあるスキルか。身構えて済まなかった。俺は神崎勇人、よろしく」
「……フン」
丁寧に挨拶をしてくれたにも関わらず、ベルゼブブは鼻を鳴らすだけで応えなかった。
『お前も意外とガキっぽい所あるんだな』
(五月蝿ぇ)
「ゴタゴタ言ってねぇで行くぞ、オレ様は腹減ってンだよ。着いて来れなかったら置いてくからな」
「ああ、その点は心配しないで欲しい。ボクを含めこのメンツなら、君に置いていかれる事はないだろう」
ベルゼブブの挑発に、佐倉がニヤリと口角を上げて自信気に返した。
やっぱり佐倉……少し変わったな。
「イくぞ」
――ダンジョン8階層。
「ヒハハハハハハッ!!」
「ぶ、ブヒャァアアア■■■■■ッ!!」
悲鳴が胃袋の中へ吸い込まれる。
この階層まで、ゴブリンやウルフのような雑魚モンスターは見向きもせず蹴散らし、8階層から出現するオークを喰い散らかしていた。
「相変わらず豪快だね」
「素敵ですわ……」
「モンスターを喰っているのか……!?」
暴食の魔王の食事を見学する三人の反応は様々だ。だが麗華、このグロテスクを目にして恍惚するのはおかしいと思うぞ……。
「やっぱり喰うなら肉のモンスターだな。他は不味い」
完食してご満悦の魔王は、長い舌でペロリと口の周りを舐め取ると、次の階層に足を進めた。
「ツギ」
――ダンジョン19階層。
「ヒハハハハ!」
「ブモォォ!?」
ギガントホーンを喰い尽くし、
――ダンジョン29階層。
「オラオラァ!」
「ゲ……ァ……」
トロールの腹に齧り付き、
――ダンジョン39階層。
「シ……」
「ふぅー喰った喰った」
オロトロスを丸呑みした。
――ダンジョン40階層。
そして現在は、最高到達層の40階層。セーフティーエリアであるこの階層で、俺達は一息つく事にした。
「凄まじかったね」
「怒涛の勢いでしたわ」
「スキルも使わず単純な膂力だけでモンスターを蹂躙していくなんて……まるで怪獣映画を見ているようだったな」
「体力も十分回復した事だし、行くか」
因みに、40階層に入ってから身体の主導権は元に戻っている。空腹感も満たされ、肉体は十全だ。
ここまで来るのに半日も掛かってないだろう。恐るべきハイペースだった。マジでベルゼブブには感謝だな。
後は最終階層までノンストップだ。
俺は己自身に喝を入れると、三人と共に新階層を目指した。
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