第94話嬉しくねぇよ
――ダンジョン45階層。
この階層で出現するモンスターは同時に3体で、新たにスカルドラゴンが出現する。ドロップアイテムは『スカルドラゴンの骨』だ。
「カタカタ」
「「ブフゥ」」
スカルドラゴン1体とボアソルジャー2体と遭遇する。
スカルドラゴンの外見は、二足歩行の骨竜だ。体格もボアソルジャーと大して変わらないし、ドラゴンが醸し出すプレッシャーも感じられない。こう言っちゃ何だが相手にならないだろう。
「蜘蛛糸」
「フリーズ」
「ガルァ!」
俺はスカルドラゴンに黒糸を付着させ、佐倉がボアソルジャーの足場を凍らせる。俺とブラックウルフキングのクロが、同時にモンスターへ肉薄した。
「ハンマー」
「カッ!?」
「ガルゥ!!」
「「ブゥゥ!!」」
俺は黒スライムをハンマーの形にさせ、スカルドラゴンの顎をかち上げる。
外見からして硬そうな奴にはナイフが効かないから、こういったタイプは打撃が有効だと流石に学習済みだ。
クロも、身動きが上手く取れないボアソルジャー達を鋭爪と能力による影爪で首を刎ねたいた。まぁあいつの攻撃力なら一撃でも妥当だろう。
俺も負けていられない。
「カァ!」
「フィーラーハンマー」
スカルドラゴンによる拳打の反撃をバックステップで躱すと、先端をハンマーの形にした触手を4本生やし、タコ殴りを開始した。
「オラァア!」
「ガ、ギ、ガァ……ッ……」
触手ハンマーによる連続打撃によって、スカルドラゴンを粉微塵に粉砕する。
『スカルドラゴンの骨』がドロップしたが、俺は興味を示す事なく周りに注意を払った。
戦闘が終わったのに何故警戒を解かないのか。それは――
「ブモォォォオオオオオ!!」
ここが4“5”階層だからだ。
「出やがったな」
「二足歩行の牛……ファンタジーで定番のミノタウロスかな?」
「あの牛、中々手強いですわよ」
「何だあのモンスターは?」
俺達の眼前に現れたのは二本の足で立つ牛だった。
勿論只の牛ではなく、全身は鋼の筋肉で覆われており、体長も優に2メートルを越している。右手には骨切り包丁のような得物を携えていた。
(あのモンスターはミノタウロスでいいのか?)
『アア、アレはミノタウロスで合ってる』
意外と博識なベルゼブブ先生に脳内で確認を取ると、どうやら間違いではないらしい。
にしてもあの牛野郎、雰囲気出てるじゃねえか。階層主にも劣らぬ強者のオーラが伝わってきやがる。
「どういう事だ……俺はあんなモンスター知らないぞ」
困惑する神崎。
そりゃそうだろうな、どうせお前も今まで中ボスと出会わなかったって口だろ。
俺なんかこれでコンプリートだぞ、全く嬉しくないけどな。
「神崎、アレは中ボスだ。階層主よりは弱ぇけど、普通のモンスターよりは断然強ぇ。油断すると一瞬で殺されるぞ」
「噂には聞いていたが……アレがそうなのか。確かに、雰囲気出てるな」
流石神崎……あれほどのプレッシャーを放っているミノタウルスを見ても全く臆さない。
まぁ俺も、相対しても怖気付かなくったけどな。今までは膝が震えてた癖によ。
さて、どう戦うか。
全員で戦うのがベストなんだろうが……。
「丁度良い相手じゃないか。階層主と戦う前に、この相手でボク達の連携を試してみよう」
「それは良い案ですわ。普通のモンスターでしたら、連携する間もなく瞬殺ですから」
佐倉の案に麗華が賛成する。
そうだな……ぶっつけ本番より、ここで少しでも息を合わせた方がいいか。
「構わねえけど、油断して死ぬんじゃねえぞ」
「分かってるさ!行こう皆!」
「ブモォォォオオオオオオオオ!!」
開戦する。
まずは神崎と黒騎士が前に出た。黄金の剣と漆黒の剣を携えた二人の剣士が鋭い斬撃を放つ。しかし、ミノタウルスは巨大包丁を薙ぐことで斬撃を無効化した。いや、それどころか神崎とデュランを押し返している。
「この衝撃……重いッ!」
「ヌゥン、牛の癖に我輩の一太刀に反応するとは生意気な」
前衛が一瞬下がると、今度は後衛の佐倉が氷魔術を使用して足場を凍らせ、俺がアローで岩石を撃ち放つ。
だがこれも通用しない。ミノタウルスは自力で凍結した足場を粉砕し、岩石は包丁によって真っ二つに斬り裂かれた。
「馬鹿力め!」
「やっぱ駄目か」
今現在の俺のアローは砲撃並みの破壊力があると思うのだが、それでもミノタウルスには効かないか。やっぱり化物は化物だな。
「ガルゥ!」
「ブモォ!」
クロが俊足を生かしてミノタウルスの両足を切り刻んでいく。流石の奴も、ブラックウルフキングのスピードには翻弄されてしまうか。でもクロの攻撃力をもってしても、ミノタウルスの硬い皮膚に傷を付けるのがやっとみたいだ。
あの筋肉はどんだけ硬いんだよ。
「佐倉殿、もう一度彼奴の足を凍らせて貰えないであろうか!?」
「一瞬でも隙を作れば行ける筈だ!」
「了解!フリ――」
「ブモォォォオオ!」
「――ッ!?」
佐倉が氷魔術を発動しようとした刹那、ミノタウルスが突如振りかぶって包丁を投げ飛ばした。己の武器を投げるという予想外の行動に誰も反応出来ず、巨大包丁は佐倉を真っ二つに――
「フィーラー」
なる前に、4本を纏めて強化した触手で、佐倉の目の前に迫った包丁を弾き飛ばした。
「ブモォ……」
どうして分かった?
そんな意思が含まれた視線で俺を睥睨するミノタウルスに、笑みを返してやった。
お前等モンスターが突飛な攻撃をするのは経験済みなんだよ。ブラックオークキングもギガンテスも平気で武器をぶん投げてきたからな。だから俺は一瞬足りとも警戒を怠らなかった。
「ありがとう影山、まさか躊躇無く武器を放ってくるなんてね。少し肝が冷えたよ」
「礼を言うのはまだ早いぞ、あいつ等にとって武器なんかオモチャ程度しか思ってねぇからな」
ボスモンスターにとって武器は単なる付属品だ。躊躇無く投合するのは、武器など持たずとも俺達を殺せるという自信の表れである。
その自信は決して間違いじゃない。奴等は武器が無くとも肉体だけで十分強い。
「ブモォォォオオオオオ!!」
咆哮を上げたミノタウルスが地面を激しく蹴りながら俺に向かって猛進してくる。神崎と黒騎士がすれ違い様に斬撃を浴びせるが、奴の突進は一向に止まらない。
「避けろ影山!」
「言われずともそのつもりだ」
こんな暴走列車に真正面からぶつかる馬鹿じゃないぞ。こんなのマトモに喰らったら身体がバラバラに吹っ飛ばされちまう。
なので俺は蜘蛛糸を側面に放出し、伸縮移動で突進を躱した。
「ブモォォォオオ!」
「影山、また行ったぞ!」
「晃を狙っているんですの……?」
突進を回避した後も、ミノタウルスは再び俺に狙いを定めて猛進して来る。佐倉やクロによる遠距離攻撃を受けて尚、それでも構わうもんかと言わんばかりに俺を標的にしていた。
何なんだあの牛、俺に恨みでもあんのか。
『モンスターに好かれちまったな』
「嬉しくねぇよ」
脳内で茶化してくるベルゼブブに文句を言いながら、俺はミノタウルスの攻撃に備える。
「ブモォォォオオッ!」
「くっ」
上から振り下ろされる拳打の嵐。一発一発が肉体を木っ端微塵にする程の威力を誇っている。だが俺は全ての攻撃を見極めて躱していた。
「凄い……」
「ほほう……あの小僧、この短期間で修羅場をくぐってきたか」
見える……ミノタウルスの一挙手一投足が。
アシュラとの戦いが俺を一段上へと押し上げた。
本物の剣士と戦い、恐怖に打ち克つ心を手に入れた。あの鋭く巧みな斬撃に比べれば、ミノタウルスの拳打はただ力任せに殴るだけのパンチに過ぎない。
「ブモォォォオオ!」
「そんなに俺と戦いたいか」
奴はまだ俺に拘っている。
背後で神崎や黒騎士が斬撃を浴びせ、血飛沫が飛び散っているのにだ。
どうして俺を見る。何故俺に固執する。
分からない……けど、そこまで戦いたいなら受けて立とう。
俺以外の攻撃を無視するなら、今更連携を組んでも何の練習にもならない。
ならば、
「こっから先は俺一人で戦う、手出しすんじゃねえぞ!」
「そんな……時間と体力が勿体ない、そんなの無意味だ!」
「そうですわ、皆で戦えばよろしいではありませんか!」
「影山一人で戦うって……そんな事はさせられない!」
と人間組は断固反対するが、
「ほっほ、良いではないか。麗華殿、これは矜恃と矜恃を賭した闘い。それに水を差すのは無粋ですぞ」
「ガルゥ!!」
と何故か人外組は賛成してくれている。
ハハッ、分かってるじゃねえか。俺はお前等との方が気が合いそうだぜ。
俺とミノタウルスの黒い瞳が交差する。
お互いに、意思の確認は取れた。さぁ、第2ラウンドの始まりだ。
「来い牛野郎、喰らってやるよ」
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