第87話ため息吐いちゃうぜ
『ヒハハ――ヒハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!!!』
『アキラ、お前はホントに面白い人間だぜ!!』
『オレ様の力に呑み込まれて尚、僅かな理性が残ってやがる。怒りと憎しみに囚われて尚、自分を抑えつけようとしてやがる!!』
『壊しちまえよ、そんな下らねぇ理性!喰っちまえよ、目の前にある全てを!!』
『オレ様に委ねろアキラ。テメェの気に入らねぇもン、全部喰らってやるからよ!!』
『――ベルゼブブさん』
『――ッ。そうか、そうだったな。現世から離れる寸前に喰らったンだ。そりゃテメェの魂はここにいるわな』
『お願いがあるの』
『願い、だと?』
『うん、一つだけ。アキラ君を守ってあげて』
『……チッ。言いたいこと言って消えちまった。いや、驚いたぜ。まさか人間の魂如きが、オレ様の世界に入ってこれたのがよ』
『しかも、自分が死んだことを理解してやがった。自分の現状を把握してやがった。その上でアキラの心配をしていやがったぜ。ヒハハ、やはり人間ってのは面白ぇ生き物だな』
『アア、いいだろうテラベシズカ。テメェの想いに免じて、今回も糞弱ぇご主人様を助けてやろうじゃねえか』
『さて、それじゃあ久しぶりに暴れてやるか』
◇
「ヒハハ、久しぶりのご登場だなァ」
「少年が……醜い化物に変化した……?」
「ほら言ったではないですか。あの悍しい姿、悪魔の他に何があるのです」
晃の肉体の主導権を乗っ取った暴食の魔王ベルゼゼブブは、ブラックオークキングと戦った時と同じように魔王の姿へと変貌していた。
しかし前回と違うのは、晃の意識が完全に眠っておらず身体の主導権を渡しただけで、意識は微かに残っている。
2メートル超を優に越し、不気味なフォルムの
「ヒハハ、まずは散々いたぶってくれた糞野郎を捻り潰してやるか」
「手出しは無用ですよジャンヌ殿。あの悪魔は私が滅する」
魔王と騎士、お互い戦闘体勢を取った瞬間、ヘルヴェールが光の速さで猛進した。
勢いを乗せた渾身の刺突。この一撃で化物を灰塵に帰す――筈の未来は、容易に打ち砕かられてしまう。
「ンな生温い攻撃でオレ様を仕留められると本気で思ったのか?」
「――ッ!?」
ヘルヴェールのレイピアの刀身がベルゼゼブブの右手によって掴まれていた。驚愕に染まる騎士を、魔王はレイピアごと投げ飛ばす。
「弱ぇ攻撃だな、蚊に刺されたかと思ったぜ」
「化物風情が……調子に乗るなよッ!」
ベルゼゼブブの安い挑発に乗ったヘルヴェールが、もう一段速度を上げて連撃を繰り出す。
四方八方から、フェイントを混ぜての超高速刺突。
だがその剣先は、一度たりとて魔王に届かなかった。
(馬鹿なッ……何故聖剣を解放している私のスピードに反応出来るのだ!?)
「――とか思ってそうだな。オラァァ!」
「うごッ!」
思考を読まれた上、いつの間にか背後に回っていたベルゼゼブブに上方へ蹴り飛ばされる。
さらに追撃するべく、暴食の魔王は全身から10本の触手を放った。
触手は不規則な動きで上空に吹っ飛ばされたヘルヴェールに襲いかかる。ヘルヴェールは触手を撒くべく、空中を蹴る事で高速で移動し追尾から逃れようとするが全く振り切れない。
「このぉぉぉ!!」
回避を諦め、聖剣で振り払おうとするが彼の膂力では逆に弾き飛ばされてしまった。
その結果――、
「がッ……ぁが、うご、がぁぁぁああぁぁああああああ!!」
触手の殴打が打ち込まれる。
一発二発と数は増え続け、ヘルヴェールは数十発の殴打によってタコ殴りにされた。
が、それで終わりではない。跳躍していたベルゼゼブブが、組んだ両手をおもいっきり振り下ろし、ヘルヴェールの背中にズドンと叩きつけた。
「オラァ!!」
「ぁがッ!!」
弾丸の如く叩き飛ばされ、ヘルヴェールは空から地面に激突する。
と同時にベルゼゼブブも落下しており、魔王は再び触手を伸ばすと容赦なく乱撃の嵐を繰り出した。
「ヒハハハハハハハ!!」
ズ――ドッドッドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドッ!!
触手が地面を破壊する轟音が鳴り響く。
その嵐の中心にいるヘルヴェールは最早満身創痍。肉は潰れ、骨は打ち砕かれる。意識を保つのがやっとであった。
ドスン!と、重音を轟かせ、ベルゼゼブブが地面に着地する。のそりのそりと歩むと、倒れているヘルヴェールの頭を鷲掴み、グッと持ち上げた。
「ぐっがっ……汚い手で私に触れるな……悪魔がッ」
「ヒハハ、まだ減らず口が叩けるとはな。意外と元気じゃねえか。じゃあ……」
頭を掴んでいる逆の手で、ベルゼゼブブはヘルヴェールの左腕を掴んだ。そして――
「おい、何をしようと――」
「テメェの左腕、貰うぜ」
「ぎぃぃやぁぁぁぁぁあああああああアアアアアアアアアアア■■■■■■■■■■ッ!!!」
おもいっきり引っ張り、グチグチャグチャッと左腕を引き千切ったのだった。
「おーおー良い声で哭くじゃねーか」
這いずり回る虫を見るような視線でヘルヴェールを見下すベルゼゼブブは、引き千切った左腕を美味そうに咀嚼し、飲み下した。
「ガツガツ、ゴクン。そろそろメインディッシュといこうじゃねーか」
「貴様、貴様ぁぁ!よくも私の腕を……悪魔の分際でぇぇぇ!!」
不細工になった顔で絶叫を上げるヘルヴェールに、暴食の魔王が舌舐めずりをしながら近付く。
が、突然横から食事の邪魔をする女が現れた。
「ぐっ……これ以上好きにはさせないぞ!」
「ジ、ジャンヌ殿!?」
「オウ、邪魔するならテメェも喰っちまうぞ」
背後から奇襲してきた斬撃を、振り返ることなく触手で防御する。攻撃してきたのは第二騎士団団長のジャンヌだった。
「実力の差を理解してるから今まで黙って見てたンだろ?だったら最後まで大人しくしてろや」
「私がいても邪魔になるだけだから見守っていただけだ。だがこれ以上は、貴様の好きにはさせない」
「ウゼーな。じゃあテメェから喰ってやるよ」
ベルゼゼブブが触手の数を増やし、一斉にジャンヌへと放たれる――その時だった。
「今一状況が飲み込めんが、その辺にしといてくれないか、化物さんよ」
重厚な声音がこの場に轟いた。
「ぶ、ブラッド殿……」
「何故、オジ様がここに……?」
「バーカ、それはこっちの台詞だ。お前等がいてこの
「ちっ……」
突如現れ、この場の空気を一変させたこの偉丈夫な男の名はブラッド。
アウローラ王国第一騎士団団長であり、王国最強の男であった。
そんな彼を一目見た瞬間、ベルゼゼブブを大きく舌打ちした。
「事情は分からんが、これ以上俺の部下を虐めないでやってくれるか。でないと、俺が相手をしなくちゃならん」
「遊びは終わりか……まぁ十分楽しめたし良しとするか」
ブラッドが全身から戦意を迸らせると、ベルゼゼブブの肉体が頭部からドロドロと溶けていく。溶け切った後に残ったのは、意識を失った晃だった。
突然化物が消え、現れた少年を見て後頭部を掻くブラッドは、長いため息を吐いた後にジャンヌに問いを投げる。
「事情は説明してくれんだろうな」
「はい……勿論です」
「とりあえず、そのガキを拾って王宮に戻るか」
気絶している晃を担ぐと、ブラッドが歩き出す。そんな彼の背中に、死体寸前のヘルヴェールが絶叫をぶつけた。
「待って下さいブラッド殿!その少年は今殺さなければなりません!!でないと王国の未来が」
「うぜぇ、黙ってろ」
「――ッ……」
ブラッドに睨まれたヘルヴェールが悔しそうに口を閉ざす。ブラッドはジャンヌにこの場の後始末を任せると、晃を担ぎながら王宮を目指したのだった。
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