第85話絶対に嫌です

 




 言葉を発した刹那、突如剣が光り輝く。閃光を放つ剣の形が長剣から細剣レイピアに変化した。


「……」


 よく分からないが、十中八九パワーアップだろう。だが関係ない、力で押し通す。

 俺は地面を強く踏み締め、奴に向かって突進した。


「ハァァ!」

「近づくな、下郎」

「がっ!?」


 ヘルヴェールが連続で刺突した刹那、光る弾丸のようなモノが光速で飛来してくる。

 反応が遅れてしまい、俺は躱すことが出来ずに直撃してしまった。


 さらに奴は、間髪入れず同じ攻撃を繰り出してくる。回避するのが精一杯で、中々間合いに近づけない。

 ……クソったれ、なんて速い攻撃だ。

 スキル解放した俺の移動速度より速いなんて冗談じゃねえぞ。


 こうなったら、こちらも遠距離攻撃で対応してやる。

 俺は大地を蹴り上げ、大きく跳躍した。空気を喰らい、エネルギーを充填する。


狼王ウルフェン咆哮ハウル!!」

「――!?」


 貯めたエネルギーを、ヘルヴェールが立つ真下に解き放った。


 唸りを上げる衝撃波が轟音と共に地面に降り立つ。地面が割れ、砂煙が宙を舞った。

 直撃していればダメージは大きいが、ヘルヴェールはその場にいなかった。


「どこを見ている」

「ぐぉ!?」


 奴の声が鼓膜を震わした途端、背中に斬撃を浴びせられる。すぐに奴の気配を追うが、ヘルヴェールの動きが早過ぎて捉え切れない。


 というかあの野郎、空中を移動してるぞ。どうなってやがる!?


「ぁ、ぁぁぁぁああああッ!!」


 空中でヘルヴェールの斬撃が絶え間なく襲いかかる。反撃が難しい状況だったので、俺は身体を丸くし、黒スライムで全身を覆って耐えることにした。


「小賢しい……シャインブレイク!!」

「あが……ッ!」


 全身が眩い光に包まれたヘルヴェールが、真っ直ぐ俺に飛んで来る。凄まじい威力の刺突が俺の中心に打ち込まれ、防御壁を貫通させられてしまった。

 衝撃と共に俺は吹っ飛ばされ、地面に激突する。


「ぐっ……おっ……」

「力尽きたか」


 打ちのめされた肉体が悲鳴を上げ、解放したスキルも強制的に解除されてしまった。解除時間が早い……やはり昨日のダメージが残っていたか。


 ……ヤバいぞ、これ。

 あの野郎、冗談じゃないレベルで強い。今まで戦ってきた、誰よりも。

 加えて俺の身体は、満足に動くこともままならない。

 どうする……どうしたらこの状況を打開出来るんだ。このままじゃ本当に殺されちまうぞ!!


「悪魔め、王国の塵となれ」

「――!?」


 ヘルヴェールが構え、トドメを刺すべく俺に接近した――その時。


「サンクチュアリ!」

「「――!?」」


 ヘルヴェールのレイピアが俺を刺し貫く寸前、目の前に光の壁が現れた。己の一撃を阻まれ驚愕するヘルヴェール。それは俺も同じで……。


 この光の壁、まさか委員長のスキルか?

 そう判断した俺が委員長がいる方向に顔を向けると、


「何でこんな酷いことするんですか!?影山君が何かしたっていうですか!?」

「これから起こすのだ。だから今始末しなければならない」

「そんな……そんなの分からないじゃないですか!!」

「私には分かる」


 大声で訴える委員長だが、彼女の言葉は騎士の男には届かない。

 ふざけんなよサイコ野郎が。テメェの自己満で殺されてたまるかよ。


「この障壁は貴様の仕業だな?今すぐ解け、解除しなければ貴様も斬る。女とて容赦はせんぞ」

「絶対に嫌です」

「……そうか、ならば仕方ない」


 短くため息を吐いたヘルヴェールは、レイピアの先端を委員長に向ける。


 おい、待て……何しようとしてやがるッ!

 奴が次に行う最悪な行動を想像した俺は、慌てて絶叫する。


「待ちやがれ!委員長は何も関係ないだろ!!」

「私の正義の邪魔をした。ならば消すまでだ」

「――ッ!?」


 やめろ、やめてくれッ。




「やめろぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」




 ヘルヴェールの姿が光と共に消える。



 ――刹那、



「――ぁ」



 委員長の身体から、鮮血が飛び散っていた。

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