第84話これは予感ではなく確信だ
「はっ?」
「死ね」
「――ナイフッ!!」
ヘルヴェールと名乗った青年が帯刀する剣を鞘から抜き放ち、問答無用で振り落としてくる。困惑する俺は咄嗟にナイフを纏い、剣を受け止めるが――、
「ぐっ!!?」
力負けし、弾き飛ばされてしまった。
くっそ……街中でいきなり斬り掛かってきやがって、何がどうなってんだ!?
頭おかしいんじゃねえのかあの野郎!?
「私の一撃を防ぐか……やはり貴様は」
というかこいつ、今本気で俺を……。
「生かしてはおけんな」
――殺しに来やがったッ!
「ま、待って下さい!何かの間違いです!どうして突然こんな事をするんですか!?」
必死な形相で委員長がヘルヴェールに問いかける。すると彼は人差し指を自分の右目に向けて、
「私の右目に宿る神眼は、其の者の内に潜む心の闇を暴く。その神眼が勝手に発動したのだ、貴様を視界に捉えた瞬間にな」
「そんな……そんなのって!」
「糞みてーな言いがかりだな。テメェの右眼にどんな能力があるのか知ったこっちゃねえが、例え本当だとしても俺は何も悪い事なんかしてねーぞ。テメェは罪の無い一般人を平気で殺そうってのかよ」
怒気を孕んだ声音で告げると、奴は真顔で口を開いた。
「これは予感ではなく確信だ。貴様の心は今まで視たこともない程強大で禍々しい。貴様はいずれ、この国に厄災をもたらす。厄災の種は早い内に摘み取らなければならん」
「…………」
……駄目だな。今の会話ではっきり理解した。
この糞野郎には、何を言っても無駄だってことを。
第六騎士団だかなんだか知らねーが、殺しに来るってんならこっちも抵抗させて貰うぜ。
俺は両腕にナイフを纏い構える。
「戦る気か?愚かだな、抵抗しないなら楽に死なせたものを」
「ぶっ殺す」
お互い戦闘態勢に入った瞬間、同時に間合いを詰めた。
「オラァァ!」
「ハッ!」
ナイフと剣が交差する。
力押ししようとしたが、岩のようにピクリとも動かない。俺はそのたった一合で悟る。悟ってしまった。
(こいつ……俺より糞強ぇ!)
力量の差が判然と分かってしまった。
純粋な力勝負では負ける。小細工や絡め手、不意打ちを仕掛けないと敵わない。
俺は接近戦を諦め、一度距離を取る。
「
「フンッ」
「くっ!」
背中から生やした触手も、高速の斬撃によって斬り刻まれてしまう。今度は弩級を身に纏い、地面に落ちている岩を圧縮しながら人外の力で限界まで弓引き、
「アロー!」
「ハッ」
「くっそ、これでも駄目か!」
解き放った弾丸は、振り払われた剣に受け流されてしまった。
……どう戦う、どの戦法なら奴に通用するのか。考えろ、考えるんだ。
「おぞましい能力だ……まるで悪魔のようだな。本性を表したな、悪党め」
「本物の殺人鬼に悪党呼ばわりされる謂れはねーんだよタコ」
変則的な戦い方をしても、全て去なされてしまっている。攻撃が一向に通らない。
駄目だ、素のままじゃ勝てねぇ。
昨日の戦いで消耗し過ぎてまともに使えるか怪しい所だが、ここは無理をしてでもやらなくちゃならない。
俺は身体の内側から無理矢理力を引っ張り出し、全身に解き放った。
「スキル解放・モード【Beelzebub】」
「……さらに凶悪化したな。ならば私も悪を討つ為に使わせて貰おう」
スキルを解放した姿の俺を睥睨するヘルヴェールは、突如剣を掲げて言い放つ。
「聖剣解放・輝け、【クライブソリシュ】」
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