第83話そういうところあるよね

 




「ねぇ聞いた?生徒が国から出て行ったんだって」


「ああ、聞いたぜ。B組だけじゃなく、俺達A組からも数人いなくなっちまったんだよな」


「ええ!?それは知らなかったよ」


「ったくアイツ等、国から出てってこの世界で生きていけると思ってんのかよ、馬鹿野郎……」



 ……何だか騒がしいな。何かあったのか?

 朝食を取りに食堂に来たら、あちらこちらで生徒達の会話が聞こえてくる。それも何故か、皆んなが険しい表情を浮かべていた。


『おいアキラ、腹が減ったぞ。何でもいいから早く食おうぜ』


 ベルゼゼブブが脳内で告げてくる。

 そうだな、俺も腹ペコだし。

 昨日夕食をたらふく食ったが、今朝起きたら冗談じゃないレベルで腹が減っていた。やはり階層主との戦いはエネルギーの消費量が激しいからな。傷の回復にもエネルギーを使っちまうし。

 本当に燃費の悪い身体だわ。


「影山君、ちょっといい?」

「何だ委員長か、どうした?」


 注文の列に並ぼうとしたら、突然委員長が声をかけてきた。

 珍しく眉間にシワを寄せている彼女は、小声で聞いてくる。


「ここじゃあれだから場所を移したいんだけど……平気?」

「平気っちゃ平気だぜ。今日はダンジョンに潜る予定もないからな」


 階層主と戦った次の日は基本休暇を取っている。身体を休めて万全の状態にするのも大事だからな。


「じゃあ、一緒に来て」

「お、おう」


 腕を掴まれて引っ張られる。

 何だか今日の委員長は、少し強引ですね。





 ――俺と委員長は前回訪れた喫茶店に来ていた。

 委員長はコーヒーを、俺は片っ端から腹に溜まりそうなご飯を頼んだ。その時、店員から「何だコイツ……」という冷たい目線を貰ったが、既に慣れてしまっている俺は澄ました態度で注文してやった。


「モグモグ……で、話しって?」


 早速委員長に催促すると、彼女は険しい表情で話を切り出した。


「九頭原君のグループ、黒沢さんのグループ、それと秋津君がアウローラ王国から出て行ったの」

「は……?出て行ったって……どこに?」

「ごめんなさい、そこまでは……」


 マジか……。

 九頭原達は兎も角、黒沢達や秋津まで出て行っちまったのか。

 まぁそういう考え方もありかもしれない。異世界での生き方は自由だもんな。俺だってダンジョン制覇した後の今後を考えなくちゃならんし。九頭原達の意思も間違ってはないと思う。

 それで生きていけるかは知らないが。


「実は私達のグループも誘われたんだけど、断っちゃった」

「へー、委員長達も誘われたのか」


 ……あれ、おかしいな。

 俺は誰にも声をかけてもらってないぞ。誘われても絶対に行かないけど。

 心の中で涙を流しながら、委員長に問いかける。


「何で断ったんだ?」

「突然だったっていうのもあるけど、王国の外で生きていく覚悟がなかったの。勿論、皆んなと相談して出した答えよ」

「そっか……俺はいいと思うぜ」

「ありがとう。それと、佐倉さんのことなんだけど……」


 あー、うん。やっぱりするよね、その話。


「出来るだけ影山君がフォローして欲しいの。今の佐倉さん……人が変わったみたいに様子がおかしいし、どこか危なっかしい雰囲気だから」

「分かった、気をつけるよ」

「佐倉さんもだけど、西園寺さんの方もお願い。ショックが大きいのは、きっと彼女の方だから」

「麗華なら平気だと思うぜ。父親の話も、最後にはちゃんと受け止めていたし、あいつから佐倉をパーティーに入れようって言ってきたからな」

「そうなんだ……それなら安心だね」


 ホッと安堵の息を吐く委員長。

 そんな彼女に、俺は気になった事を尋ねる。


「委員長は大丈夫か?」

「えっ……?」


 呆然とする委員長に俺は続けて、


「人のことを心配するのはいいけどよ、自分は大丈夫なのかって聞いてんだよ。委員長だって、他の女子を一人で纏めてるんだろ?俺で良ければ弱音とか愚痴とか聞くぜ」

「……」

「ほ、ほら……俺は愚痴とか漏らす友達とかいねぇから……」


 しばらく口を開けたまま黙っていた委員長は、突然「ふ、ふふふっ!」と堪えるような笑い声を漏らす。

 目蓋から溢れる滴を人差し指で拭う彼女に、俺は後頭部をポリポリと書きながら、


「な、何だよ……変なこと言ったか」

「うん、言った。影山君って、そういうところあるよね」

「どういうところだよ……」

「無意識というか、天然なところかな。打算もなく、本心で言ってるの。そこは神崎君にも負けてないかも」


 えぇ……よく分からんけど、神崎と一緒ってのは何か嫌だな。

 まぁそれは置いといて、話を元に戻そう。


「委員長は気を使い過ぎだ。人のことを心配する前に、自分の事ももっと大切にしろよ」

「あはは、まさか影山君から注意されるとは思わなかったよ」


 うぐっ……それを言われると何も言い返せねえな。いつも無茶無謀をしてるのは俺だし。


「じゃあ影山君は、私のことを心配してくれた訳だ」

「当たり前だ」

「……」


 何を言ってんだ。

 心配するに決まってんだろ。他の奴は知らんが、委員長にはいつも助けて貰ってるし、気を使わせちまってる。そんな委員長を心配しない訳ないじゃねえか。


 間髪入れずに告げると、委員長は淡く微笑んで、


「そういう事をサラッと言っちゃう所が、影山君らしいよね」

「そうか?」

「じゃあ、困った時にはちゃんと影山君を頼ります。その時はよろしくね」

「ああ、大船に乗ったつもりでいてくれ」





 ――その後も会話を続け、大量の朝食を平らげると俺達は喫茶店を出た。


「ありがとう影山君、話を聞いてくれて。お陰でスッキリしました。またご馳走して貰っちゃったし」

「こっちこそ、いつもフォローありがとな」


 久しぶりに楽しく感じた一時だった。

 こんなに誰かと喋ったのもこの世界に来て初めてかもしれない。やっぱり委員長は聞き上手だよなぁと再確認する。


 良い気分で、王宮に帰ろうと踵を返した――その時だった。


「我が名はアウローラ王国第六騎士団団長ヘルヴェール。そこの貴様、訳あって今から貴様を殺す」


 眼前に現れた白銀の鎧を纏った青年が、突然そんな事を言ってきた。

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