第80話泥棒猫!?

 



「んふふふ」

「なあ佐倉さん、ちょっとくっ付き過ぎやしませんかね」

「いいじゃないか。君も嬉しいだろ?」


 いやまあね、佐倉の爆乳を堪能できるこちらの身としてはありがとうございますだけど、腕に抱き付かれるとご飯が喰いずらいのよ。

 それに……。


「ぐぬぬ……」

(うわぁ……)


 対面に座っている麗華が、視線で人を殺せそうなほどの眼差しを送ってくる。そして彼女の隣では、委員長こと寺部 静香が呑気に紅茶を飲んでいた。

 ……何なんだこのカオスな空間は。


『ヒハハ、面白くなってきたじゃねえか』

(おいベルゼゼブブ、お前絶対楽しんでるだろ)


 表には出さず、俺は心の中で深いため息を吐く。チラリと横目で佐倉を覗くと、普段クールな彼女が子猫のように幸せそうな表情を浮かべていた。

 正直言うとクッソ可愛い。普段とのギャップがあるから余計に可愛いく思える。


『やっと君の隣に立てるよ、影山』


 40階層の真の階層主、ブラックワイトキングにトドメを刺した佐倉。俺が半殺しにしたとはいえ、一撃で階層主を消し去る程の攻撃力。というか、どうやって一人で40階層まで辿り着いたのかが気になる。あと、髪の色やめっちゃエロい服のことも。


 問い質したいことは山ほどあった。

 だけど俺は、一旦王国に帰還しようと提案したのだ。


 理由としては、めちゃくちゃ疲れたし腹減ったし眠かったのもあるが、一度帰って冷静な状態で話をしたかったからだ。

 麗華は無傷だが、俺も剣凪もアシュラとの闘いで疲労困憊だったから回復したかったし。


 俺達四人は王国へ帰還した。

 それからシャワー浴びたり仮眠を取ってから、食堂に集まって夕飯を食べている。

 食べてるのは俺だけだけど。


「とりあえず佐倉に聞きたいことがあるんだけど、多過ぎてどれから聞いたらいいか迷うな」

「ふふふ、何でも聞いてくれたまえ」

「じゃあ……その髪の色どうしたんだよ。染めたのか?」

「……まず聞きたいことが髪の色の事か」


 呆れた風に言う佐倉。

 いやだって、銀髪だぜ銀髪。めっちゃ気になっちゃうよ。

 今の佐倉は黒髪ではなく綺麗な銀髪になっている。それがまた彼女に似合ってるんだよな。俺が銀髪なんてしたら絶対似合わねぇのに。というかキモい。


「これはスキルを解放した時に染まってしまったんだ。何故かスキル解放を解いても元には戻らなくてね。まぁ、直す必要もないしこのままにしてる訳さ」

「お前……スキル解放したのか……」


 佐倉の話を聞いて驚愕する。

 まさか彼女が既にスキルを解放しているとは思わなかった。

 ではあのエロい魔女みたいな格好は、スキル解放時の姿だったのか。

 昨日の事を思い出しながら、俺は続けて佐倉に質問する。


「まさかとは思うけど、40階層までは一人で来たのか?」

「そうだよ」

「一人で階層主を倒してきたってのか?キラーアントクイーンやアースドラゴンも」

「そうだとも。アースドラゴンには少し手こずってしまったが、さして苦労はしなかったね」


 何事も無かったかのように喋る佐倉。

 マ……マジかよ。キラーアントクイーンは兎も角、アースドラゴンを一人で倒したのか。それも接戦とかではなく、余裕で。

 スキル解放時の力は絶大だ。それはよく理解出来る。だがスキル解放は常時発動できる訳ではない。

 それなのに、佐倉はたった一人で40階層まで踏破したのか……。

 どれだけ強くなってんだよ。


「じゃあ最後に……いつまで腕を離さないんだ?」

「ふふふ、ボクの気が済むまでだよ」


 小悪魔のように微笑む佐倉。

 ちょっと佐倉さん、アナタそんなキャラだったっけか。少し合わない内に変わり過ぎじゃない?


「俺が聞きたい事は終わったから、後はお二人さんが聞いてくれ」


 対面に座る麗華と委員長にパスする。

 するとまず委員長が手に持っていたカップを置いて、佐倉に話しかけた。


「私達のパーティーを抜けるって言っていたけど、本当なの?」

「本当さ。委員長には悪いと思ってるけど、ボクは影山のパーティーに入る」

「え……」

「はぁぁぁあああああ!?」


 前者は俺で、後者は麗華だ。

 俺のパーティーに入るって……そんな話始めて聞いたぞ。驚きようからして、麗華も耳にはしていないだろうし。


「そっか……佐倉さんが抜けるのは心情的にも戦力的にも痛いけど、貴女が決めたことなら仕方ないね。応援してる、頑張ってね」

「ありがとう、委員長」


 綺麗な友情空間を構築している彼女達に、麗華が慌てて待ったを申しでた。


「ま、待って下さいまし。突然パーティーに入るって……わたくしは聞いておりませんわ!というか、いつまで晃にべったりくっついているのですか!?早く離れなさい!!」

「断る。そもそも突然やってきた泥棒猫は君の方じゃないか」

「泥棒猫!?それってわたくしの事ですか!?」

「影山の隣にはボクがいるから君はもう用済みだ。勇者君の所に戻りたまえ」

「用済みって……。晃、そろそろわたくし怒ってもいいですわよね」


 えっ…………なにこれ。

 知らない間に昼ドラ並みの修羅場になってんだけど。

 どうしたらいいの?教えてベルぜもん。


『ヒハハハハハ!面白ぇ!!』


 おい笑ってんじゃねえよ助けろよ。


「なあ佐倉、本気で言ってる?」

「当たり前さ、君は前にこう言ったね。【共存】スキル者は試練を与えられる運命にある、だからボク等を巻き込めないって。だがボクは強くなった。たった一人で40階層に辿り着くほどの強さを手に入れた。ならば、ボクは君の隣に立てる資格があるはずだよ。少なくとも、そこにいる彼女よりはボクの方が強い」

「何ですって……」


 ガチで切れそうになる麗華を宥める。こんな所で喧嘩なんて洒落にならないからな。

 俺は佐倉に、今まで気になっていた問題を尋ねた。


「パーティーの事は一先ず置いておこう。それよりも佐倉、一つ聞かせてくれ」

「何だい?」

「お前はどうして麗華を邪険にする?麗華が佐倉に何かしたのなら分からなくもないが、お前等には接点も無さそうだし」

「私も気になるな。前にも聞いた時は何でもないって言われたけど、やっぱり佐倉さんは西園寺さんを嫌ってるように見える。どうして?」


 俺と委員長が同じ疑問を佐倉にぶつける。

 そうか……委員長は佐倉に聞いてくれてたんだな。だがその時は、はぐらかされてしまったのだろう。


 一拍間を置いた佐倉は短いため息を吐くと、


「分かった。だけどこの場で話すのもなんだから場所を変えよう。そうだね……影山の部屋なんてどうだい?」

「お、俺の部屋?」


 別に平気だけど……やっべ、臭くないかな。

 部屋は片付けていたと思うが……。

 佐倉の意見に納得したのか、麗華と委員長が頷いた。


「いいでしょう」

「佐倉さん、私も聞いていい?」

「勿論。委員長がいてくれた方がボクも冷静になれる」

「じゃあ、行くか」


 俺達四人は、食堂を後にして俺の部屋へと向かったのだった。

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