第76話私達なら

 




「影山、武器だけを見るな!敵の全体を見て攻撃を予測するんだ!」

「ぐぉ……んな事言ったって、そんな芸当直ぐに出来るかよ!」


 戦いながら剣凪が助言してくる。が、俺は大声で不満を垂らした。


 俺は戦いの素人だ、剣技もヘッタクレもない。だから剣を交える際、つい武器に目がいってしまうのだろう。

 剣凪はその行為が駄目だと言うが、いきなり敵全体を見て戦えって言われても無理がある。そんなもの二日三日で出来る訳が無いのに、彼女は今やれと無茶を言うんだ。


「お前ならやれる!」

「無理だって!」

「これまで影山の戦いを見てきた!お前には戦いの才能がある!高校日本一の剣士が断言してるんだ、自分を信じろ!!」

「ッ!?」


 ……クソったれッ。

 あー分かったよ!

 そこまで言われて男が黙っていられるか!!


「俺は俺を信じちゃいねーけど、剣凪テメェが信じる俺を信じてやるよ!!」

「……ああ!!」


 女に尻を蹴られて泣き言なんか吐いていられるか。

 集中しろ。神経を研ぎ澄ませ。

 視界を一点から全体に広げるんだ。


「カァアア!」

「ぐぅぅ!?」


 やはり上手くいかずビビってしまう。

 刃を恐れるのは人間としての本能だ。

 小さな子供に本気でカッターを向けらても恐いものは恐い。当たりどころが悪い場所に刺されたら、死ぬと頭が理解しているからだ。

 さらに今の敵は、子供の比では無い。達人級の化物だ。奴の振るう刀に脅え、どうしても目が奪われてしまう。


 その本能に打ち克つには、並大抵の努力では済まないだろう。一朝一夕で克服する程甘いものではない。だったら俺は、その努力を“体験”で塗り潰す。


 ゴブリン、ブラックオークキング、黒騎士。

 俺は何度も戦いに敗れて死の体験をしてきた。ベルゼブブのお陰で生きているが、本来ならばとっくにあの世行きだ。

 そしてその体験があるからこそ俺は、俺だけはきょうふに立ち向かえる。


「カァ」

「ぉぉおおお!!」


 集中しろ。敵の挙動を見極めるんだ。

 恐れるな。神経を極限まで研ぎ澄ませ。


 アシュラが腕を上げる。俺は身体を半身にして紙一重で躱した。

 今度は身体を屈ませた。俺と剣凪は、縄跳びを跳ぶように足を屈めながら同時にジャンプし下段斬りを躱す。


「そうだ影山、やれば出来るじゃないか!」

「五月蝿ぇ!今話しかけんじゃねえよ集中出来ねぇだろ!!」


 やられっぱなしだった俺と剣凪が押し返しす。

 しかし視界を広げながらの戦闘は難しく、アシュラの刃は何度も俺の肌を裂いている。いや、視線を向ければ剣凪も刀傷を増やしていた。


 解せないのは――彼女が刀を振り回しながら愉しそうに嗤っている事だ。


「ハハハハハハハハハハハハハハハッ!!」

(何でこいつ急に嗤ってんだ!?気持ち悪いぞ!!)


 戦いながら嗤い声を上げる剣凪にドン引きする。何だこいつ、とうとう頭がイカれちまったのか?

 でも気の所為か、段々と剣速が上がってるぞ。


「これだ、これだったのだ!私が求めていたものは!!血が沸騰するような熱き闘い。一つのミスで首を取られる緊張感!地球では味わえなかった本当の死闘!これこそが私が求めていた戦いだ!!」


 おいやべぇって……急に恥ずかしい台詞吐き出したぞ。そんな事言叫んでる余裕なんかこっちには無いってのによ!!


「私に合わせろ!影山!」

「無茶言うんじゃねえよ!」

「うるさい!“私達”ならやれる!!」

「その根拠はどこから来るんだ!?」


 俺と剣凪は一度距離を置いて、同時にアシュラの懐へ踏み込んだ。


「「ぁぁああああああ」」

「カァァァァァァァァアアアアアアアア!!」


 自分でもどうしてなのか理解出来ないが、剣凪が考えている事が読める。次に繰り出す攻撃の意図が導き出される。


「「ぉぉぉぉおおおおおおおお!!」」

「カァァァァァアアアアアアアア!!」


 今までに無い感覚だ。

 身体が勝手に動く。いつもは思考をフル回転させ、様々な技を組み合わせて戦うのに。

 今はただ、本能のままに刃を振るっている。


「「ぉぉぉぉおおおおおおおおアアアアアアアアアアアアッ!!!」」

「クカッ――ァァアアアア……ッ」


 俺と剣凪の斬撃がアシュラの二本の刀をかち上げた。これで奴の正面はガラ空き、決めるならここしかないッ!

 そう考えたのは剣凪も同様で、俺達は渾身の一撃を放った。


「クタバレェェェエエエエエ!!」

「剣凪流・伍ノ型・疾風迅雷!!」

「ク……カカ……カッ……ミゴト」


 俺と剣凪による斬撃はアシュラの身体に×を刻み込んだ。階層主は背中から崩れ落ちると、聞き取れない小さな呟きをしながら粒子になって消えていく。

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