第75話誰に言ってる

 




「剣凪、少し強引に行く。やれるか?」

「ッ!?……ああ、問題ない!!」


 大声で返事をする剣凪に、俺はよしっと頷いた。深呼吸をして心を落ち着かせると、俺は両腕にナイフを纏う。


「行くぞ!」

「ああ!」

「クカカカカカ!!」


 俺と剣凪が同時に仕掛ける。

 斬撃を繰り出すが、当たり前のように防がれてしまった。だが、俺の幼稚な剣技では歯が立たないのは百も承知だ。


「蟻地獄」

「クカッ!?」


 足下から黒スライムを伸ばし、アシュラの足場を侵食する。困惑している内に、黒沼からニードルを真上に向かって伸ばした。

 が、不意をついた一撃は紙一重で躱されてしまう。でも体勢は崩せた。狙うならここだ。


「クカァァ!!」

「ぐっ……ぉぉぉぉぉぉおおおお!!」

「クカ!?」


 左腕を斬られながらも構わず前進した俺は、ナイフによる一太刀によってアシュラの腕を一本刎ね飛ばした。


「クククカカ!!」

「あっぶねッ」


 俺達を離れさせたかったのか、奴は大回転斬りをしてくる。俺と剣凪は咄嗟に後ろに下がって回避した。


「影山、平気か!?」

「大丈夫だ」


 左腕を浅く斬られたが、俺ならこの程度の傷はすぐに治る。

 危険だが、多少のリスクを背負ってでも奴の腕を一本ずつ斬り飛ばしてやる。


「俺のことは気にするな、お前は奴だけに集中しろ」

「……分かった」

「俺が強引に隙を作る、剣凪はいけるタイミングがあったらアシュラの腕を切れ。やれるか……?」

「……ふん、誰に言ってる。任せろ!!」


 はっ、頼もしいこって。

 んじゃまぁ、一丁腹くくりますか。


「グロウニードル!」

「はぁぁあああ!」

「クカカカカカ!」


 接近した俺は、斜め下から突き上げるように長針をアシュラの顔面目掛けて刺突する。と同時に、剣凪が正面から斬撃を繰り出した。

 アシュラは二本の刀で剣凪で斬り結び、一本の刀で刺突を受け流し、残りの二本の刀で俺を殺しに来た。


 俺は黒スライムを操って二刀の斬撃を防ぐが、威力に耐えられず身体を斬られてしまう。歯を食い縛って痛みを堪え、俺は黒スライムでアシュラの二本の腕を侵食した。


「ぅぐ……捕まえた!」

「クカッ!?」


 黒スライムを凝固し、アシュラの腕を拘束する。これで奴の腕を二本封じた。この好機を見逃す訳にはいかない。

 俺が両腕にナイフ纏うと、剣凪も技の動作に入った。


「ぁぁぁぁあああああッ!!!」

「剣凪流・壱ノ型・疾風ッ!!」

「グガァァァァアアアッ!!?」


 俺がナイフで二本の腕を、剣凪が風を纏った一太刀で一本の腕を断ち切った。

 よし、これで残りは二本だ。このままぶっ殺してやる。


 ――そう意気込んだ刹那だった。


「――ッ!?離れろ剣凪ぃぃぃ!!」

「ッ!?」


 背筋に悪寒が走った俺は、剣凪に警告しながら後退する。すると、眼前でハラハラと髪の毛が舞っていた。


(前髪を斬られた?おい待て、だとしたら疾すぎるだろッ)


 危なかった……。もし僅かでも下がるのが遅れていたら、俺の首は既に真っ二つだっただろう。

 アシュラはその場に留まったまま、残った二本の腕をブランと下げている。

 その物静かな姿が不気味で、俺は攻撃しに行く事が出来なかった。奴のヤバい雰囲気を感じ取っているのは剣凪も一緒で、注意深くアシュラを観察している。


「「クカ……クキキキ……キィ」」


 アシュラの三つある顔の内、突如二つが砕け散った。残った最後の顔が上がると、憤怒の表情に変貌している。

 そして――


「カァァァァァァァァァァアアアアアッ!!!」

「「――ッ!?」」


 丹田まで響くような、重厚な咆哮を上げた。

 纏う雰囲気も一変し、二本の刀をぶら下げたアシュラは戦国時代の剣客を思わせる。

 今まで無機質だったのに突然人間味が増し、階層主特有の厳格な雰囲気オーラが身体から滲み出ていた。


「ボーっとするな影山、来るぞ!」

「ッ!?」


 前傾姿勢で迫ってくるアシュラは、顔が割れる前よりも移動速度が増している。いや、増しているのは速度だけではなかった。


「カァァアアアアア!!」

「ぐっ!」

「うぉぉ!?」


 寸毫の間で肉薄してきたアシュラの斬撃を両腕に纏ったナイフで受けるも、軽く跳ね飛ばされてしまった。

 ……重い、強い!!腕が2本の筈なのに、6本の時より威力が上がってやがる!


 このままじゃ簡単に弾かれて対応しきれない。俺は力負けしない為に、刀を持つ動作をしてから両腕で一本のナイフを纏った。力を集約させた事で、対等に渡り合える。


「ぉぉぉぉおおおお!」

「はぁぁぁああああ!」

「カァァァアアアア!」


 俺と剣凪は、咆声を上げながら全身全霊でアシュラと剣戟を繰り広げた。

 剣凪はアシュラと互角に渡り合えているが、我流のズタボロ剣技である俺は直ぐに押され始めてしまう。


 しかし、ここで俺が距離を取ると二つの刃が剣凪に襲いかかってしまう。他の技を使う暇もないし、ナイフを解いた瞬間に殺されるビジョンが想像できる。

 正に八方塞がりの状況だった。

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