第74話アシュラ

 




 ――ダンジョン40階層。

 今までと同様、室内は円形で横にも縦にも広い。至る所に松明が設置されて明るく、重厚な雰囲気を醸し出している。


 出現するモンスターは階層主であるアシュラ。ドロップするアイテムは『アシュラの欠片』と『アシュラの宝玉』の二つ。


「「「クカカカカカッ」」」

「気味が悪いですわね」

「……ああ」


 三つの顔がケタケタ嗤っている。

 アシュラは三つの顔と六本の腕が生えた銅像という外見だった。高さは2メートル程で、少し見上げるくらい。今まで戦った階層主の中で、一番小ぶりだ。

 いや……と俺は違和感を感じる。小ぶりなだけじゃなく、この階層主アシュラからは今まで戦った階層主と比べて威圧感が足りない。

 身の毛がよだつような、絶望感が伝わって来ないんだ。


「剣凪、お前が戦った階層主はアレだったんだよな」

「そうだ、間違いない。私達と戦った時と全く一緒だ」


 剣凪に確認した後、今度はベルゼブブに問いかける。


(ベルゼブブ、あの階層主はブラックか?もしくは特別強い個体だったりしないか)

『イヤ、アレは普通のモンスターだぜ』


 ……おかしい。

 そう、“おかしい”んだ。

 試練を与えられる【共存】スキル者の俺は、今まで規格外に強敵な階層主と出会って来た。だから今回もそうだと読んでいたのだが、剣凪が戦った時と同個体が出現している。


 別にその問題については余り気にしていない。俺が違和感を覚えているのは、この階層に訪れる前から抱いていた嫌な予感の正体がアシュラではなかった事と、未だに拭われていないという事だった。


「どうした影山、怖気付いたか?」

「アキラ、どうしたんですの?」


 剣凪は馬鹿にするようにニヤリと口角を上げ、麗華は俺の様子に気づいて心配そうな声をかけてくる。


 考えていても分からないもんは分からない。

 この予感が的外れかもしれないしな。とりあえず、アシュラを倒す事にだけに集中しよう。


 俺は大きく呼吸を吸って、戦意を高める為に絶叫を上げた。


「うぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」


 よし、気合いが入った。

 普通の個体と言っても階層主だ。油断は出来ない、神経を尖らせるんだ。


「きゅ……急に大きな声を出してどうした、ビックリしたぞ」

「麗華、まずは俺と剣凪が出る、お前は一先ずアシュラを観察していてくれ。ブラックウルフキング、麗華を頼んだぞ」

「分かりましたわ」

「ガルル」


 俺は剣凪を横目に見て、


「剣凪、行くぞ」

「任せろ」


 俺達と階層主の戦いが、火蓋を切った。




「アロー」


 右腕に弩級を纏い、挨拶がわりに岩石を放つ。しかし、放った岩石はアシュラが携える刀によって断ち切られてしまった。


「クカカカ」

「こんなのじゃ効かねーってか」


 アシュラの六本腕には、大小、形が様々な刀が握られている。遠距離の武器が無さそうなので離れた場所から一方的にぶっ殺そうとしたのだが、流石に上手くはいかないか。


「クカカカカ!」

「来るぞ!」

「疾ぇ!?」


 奇声を発しながら突如アシュラが猛進してくる。意外に機敏な動きに驚愕しながらも、対応する為に両腕にナイフを纏った。

 剣凪も抜刀し、二人でアシュラを待ち構える。


「クカカッ!」

「ぐっ」

「重ッ……!?」


 キシリと身体が軋む。

 真上から振り下ろされた二刀を、俺達は得物を掲げて受け止めた。衝撃が重く弾き飛ばされてしまいそうになるが、なんとか耐える。

 だが、彼奴の腕はまだ存在し、更に斬撃を追加してきた。


「ハッ!」

「ぐぉ!?」


 剣凪は二刀目を受け流し攻撃に転じ、俺は後退させられてしまった。

 クソったれ。アシュラの剣技についていける程の技量が俺にはない。だったら、俺は俺の戦い方をしてやる。


「蜘蛛糸、フィーラー、ナイフ」


 黒糸の伸縮移動で奴の背後に回り込み、背中から生やした4本の触手ナイフで奇襲する。


「クカカカカカ!!」

「オラオラァァ!!」


 甲高い金属音が鳴り響いた。

 四方八方から攻撃を仕掛けるが、4本の刀によって全て弾かれてしまう。前面では二本の腕で剣凪を相手にしているのにも関わらず、何でこんなに対応可能なんだよ。一体どういう思考回路してんだ。


「剣凪流・壱ノ型」


 三歩距離を取り、腰を低く構える剣凪。

 刀身が薄っすらと白く発光する。

 何か仕掛けようとする彼女の邪魔をしないように、俺もその場から離れた。


疾風はやて


 目で追うのがやっとの速度で、剣凪が鋭い斬撃を放つ。アシュラはまとまに受けるが、奴は4本の刀を重ね合わせて防ぎ切っていた。


「クカカカカカ!!」

「ちっ」


 不発に終わり不服そうに舌を打つ剣凪と、高笑いするアシュラ。

 風を纏った一撃は凄まじい威力だったが、それでもアシュラは無傷だ。この銅像堅すぎんだろ。どうやってダメージを与えればいいんだよ。


「おい剣凪、お前等が戦った時はどうやって倒したんだ」

「私達の時は、仲間の二人が支援しながら私と勇人がゴリ押しで倒した。ほとんど勇人の技のお陰だったがな」


 アシュラを挟んで、俺は剣凪と会話を交わした。

 話を聞くとやはりキーパーソンは神崎だったか。一度も見た事は無いが、【勇者】スキルの攻撃性能って高そうだもんなぁ。


『スキルを解放すればいいだろ』

「そうなんだけど、出来る限り使わないで勝ちたいだ」

『ヒハハ、言うじゃねえか』


 ベルゼブブに余裕ぶっこんでじゃねーぞと笑われるが、俺自身は全く笑えないんだよな。

 胸の奥を騒つかせる嫌な予感が晴れるまでは、余力を残しておきたい。

 だが、俺の攻撃力じゃこのままでは通らないし、どうやって戦うか……。


「晃、この子を戦わせますか」

「……いや、もう少し待っていてくれ」


 麗華からブラックウルフキングの参戦を提案されたが、俺は首を横に振った。

 黒狼王アイツの力は喉から手が出る程欲しいけど、今麗華を一人にしておく訳にはいかない。他のテイムモンスターもいるが、それじゃ不安だからな。

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