第72話黙れゴリラ
――ダンジョン36階層。
この階層は出現するモンスターは変わらないが、同時に4体まで出現する。
「「ゥー」」
「ガルル」
「キシャァ」
キラーアーマー2体、スノータイガー1体、デススパイダー1体と遭遇する。
ナイフを纏いながら意気揚々と倒しに行こうとするが、剣凪が無言のまま俺の眼前に躍り出た。
「見ていてくれ」
静かな声音で一言放つと、彼女は小走りでモンスターへと向かってしまう。
「グルゥア!」
「ふっ!」
「グ……ル」
飛び掛かってきたスノータイガーを、横に躱しなが鞘から抜き放った刀で一刀両断にした。
「キシャア!」
「ッ!」
デススパイダーが放出した糸を、剣凪は刀で切って防御する。その間も、彼女の進行は止まらない。瞬く間にデススパイダーとの距離を詰めると、斬撃によって彼奴の首を刎ねた。
「「ゥー!」」
「剣凪流・弐ノ型」
2体のキラーアーマーが剣凪に押し寄せる。
しかし彼女は一切慌てることなく、腰を低く落とし、刀の切っ先を下に向けた。
すると驚く事に刀を中心に風が渦巻く。まるで、刀が風を纏っているかのようだった。
「
刹那、暴風が巻き起こった。
剣凪が放った一閃。刀が振るわれたと同時に、剣に纏っていた風が解き放たれ、2体のキラーアーマーをバラバラに吹っ飛ばした。
「ふぅ……どうだ影山、私の戦いは」
「……」
呼吸を整え、チャキンと刀を鞘に納めた剣凪が突然質問してくる。
その声音は落ち着いていて自慢してる風でもなく、淡々と答えを望んでいるようだった。
なので俺は彼女に、嘘偽りの無い感じたままを伝える。
「普通にスゲーよ。強ぇなお前」
スノータイガーとデススパイダーを一刀で倒す攻撃力。攻撃されても落ち着いて対処する判断力。敵との距離を潰す移動速度も申し分ない。
何より、2体のキラーアーマーを一変にぶっ飛ばした暴風だ。カッコいい上に、防御力の高いキラーアーマーの鎧装をバラバラにする程の威力は凄まじい。
あと思ったのは、剣凪の戦い方は無駄が一切無かった。流水の如く動きが滑らかで、美しさすら感じる。
「ふ、ふん!そんなに褒めたって何もやらんぞ!」
素直な感想を伝えると、剣凪はそっぽを向いてしまう。
やっぱりこいつ、面倒臭ぇー性格だな……。
「ん?」
剣凪に呆れていると、麗華が俺の服の裾をちょんと摘んでいる。
俺は首を傾げながら、
「どうした」
「いえ……何でもないですわ」
と言うが、麗華は少しの間手を離さなかった。
――ダンジョン37階層。
この階層では一度に現れるモンスターが4体で、新たにリッチというモンスターが追加される。ドロップされるアイテムは『リッチのマント』だ。
「「「ガルルル」」」
「ケケケ」
スノータイガー3体とリッチ1体と遭遇する。
リッチは、ボーンナイトから剣を取ってマントを被せたような外見をしていた。
武器も持ってないし、恐らくゴーストと同じように精神的な攻撃を仕掛けてくるのだろう。
「「ガァァ!」」
「グルァァ!」
後方から2体のスノータイガーが吹雪を放ってくるのに対し、麗華の配下であるブラックウルフキングが咆哮によって掻き消した。
よし、俺も出遅れる前に行くか。
さっきは剣凪に出番を全部持ってかれたからな。
――と、気合いを入れた時だった。
(何だこれッ……身体が重いぞ)
突然身体に異変が起きる。
吐き気と寒気、全身が気怠く感じる。
『気持ち悪ぃ……なンとかしろ、アキラ』
(分かってる)
珍しく弱音を吐くベルゼブブ。そういえばコイツは、俺と感覚がリンクしてるから今の状態異常を受けているのか。
こんな面倒な攻撃をしてくるモンスターは1体しかいない。俺は原因である敵を睥睨した。
「ケケケケケ」
「カタカタ笑ってんじゃねぇぞ、アロー」
「ケケ……ェ!?」
右腕に弩級を纏い、落ちている岩石を黒糸で装填。捻りを加えながら弓引き――発射。
ドパンッと空気を爆ぜさせ、岩石は螺旋回転でリッチの頭部を粉砕した。
「ふぅ……」
リッチをぶっ殺した瞬間、身体を蝕んでいた症状が治まる。呼吸を整えている間に、ブラックウルフキングと剣凪がスノータイガー共を片付けていた。
「大丈夫ですか?」
「ああ。だけど、リッチが一度に多く出現すると厄介だな。結構キツいし、もし状態異常の重ね掛けがあったらぶっ倒れるかもしれん」
「では、倒す優先度はリッチが先ですわね」
そうだなと頷いていると、剣凪が真顔で脳筋なことを言ってきやがった。
「あんなもの、根性でどうにかすればよいのだ」
「黙れゴリラ」
「ご、ゴリラ!?」
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