第65話目障りだ

 




 魔族のリミを助け、奴隷商にカチコミし、戦闘狂のオッサンと戦い、同じ【共存】スキル者であり現魔王のアルスレイアと邂逅した――翌日。


 俺は仲間パーティーの西園寺 麗華と共にダンジョンを探索していた。


 奴隷商が雇ったダリルという傭兵との戦闘で体力を著しく消耗した俺は、肉が上手いモンスターが出現する階層で時々ベルゼブブと交代して貰う。モンスターを喰い漁って体力と飢餓感を回復させた後、最高到達階層の30階層に訪れた。


 するとそこには、一人の女子生徒が剣呑な雰囲気を醸し出しながら仁王立ちで待ち構えていたのだ。


「影山 晃!」

「何ですか」

「貴様に決闘を申し込む!」

「……」


 …………。


 …………。


 ………はぁ?


 意味が分からな過ぎて変な声が出てしまった。

 決闘って何だよ。というかアイツ一体誰なんだよ。

 突然の事態に困惑していると、眉間を摘みながらため息を吐く西園寺が説明してくれる。


「彼女はわたくしと同じクラスで、元パーティーの剣凪 郁乃さんですわ」

「……ああ、神崎ハーレムの一人か」

「当たってますけど、その呼び方は癪に触りますわね」

「すまん、気をつける」


 失言だったので、不機嫌になる前に素直に謝った。

 で、神崎ハーレムの彼女が一体何故俺なんかに決闘を申し込んできたのだろうか。関わりなんて全く無く、喋ったことすら無いのに。


「返事がないな、聞こえなかったのか?まあいい、もう一度言うぞ。私と戦え、影山 晃」

「どうして俺がお前と戦う必要がある。理由を言ってくれ」

「私がお前という人間を知りたいからだ。そして、私は剣を交えばその人間がどんな奴か大体把握出来るのだ」

「意味が分からない」


 何だあいつ、急にバトル漫画みたいな事言いやがったぞ。頭おかしいんじゃないか?

 どうしようベルゼブブ、変な奴に絡まれて困ってるんだ、ちょっと助けてくれないか。


『ヒハハ……無理』


 ですよね。

 そもそも、何故彼女は俺の人間性を知りたいのかも不明だし。

 まぁいいか、考えても無駄だ。答えは最初から決まってるし、さっさとこの不毛な時間を終わらせよう。

 こっちは早くダンジョンを進みたいんだ。


 返事を待ってる彼女に、俺は一言。


「断る」

「何っ!? 何故だ、理由を言え!」

「俺達は今、地球にいた頃とは違って凶悪なモンスターを簡単に殺せるぐらい強くなった。そんな俺達が戦ったとする。それはもう喧嘩という範囲じゃなく、単なる殺し合いだ。お前は殺し合いがしたいのか?」

「なっ……そんな訳がないだろう!」

「だがきっとそうなってしまう。そんな事も考えられないほど馬鹿なのか」

「なら、スキル無しで戦えば……」

くどい。目障りだ、今すぐ消えろ」

「……ッ」


 固まって茫然とする剣凪の横を通り過ぎ、俺は先へ進む。すると、ベルゼブブが脳内で話しかけてきた。


『珍しいじゃねえか、アキラが女を邪険にするなんてよ』


 そうか?

 俺はただ、男女関係無くああいう馬鹿な人間が嫌いなだけだ。





 ――ダンジョン31階層。

 この階層には、スノータイガーというモンスターが一体出現する。ドロップするアイテムは『スノータイガーの牙』だ。

 因みにモンスターの情報源は西園寺ではない。彼女も俺と同様、新階層に進むのでこれから先の情報は知らないからだ。


 では何故モンスターの情報を俺が手に入れているのかというと、A組の神崎が生徒達に向けて情報を公開しているからだった。

 彼曰く、生徒達が死ぬ確率が少しでも減ればいいとの事。そういう事をスンナリやってしまうのが、凄いというかイケメンだよな。素直に尊敬してしまう。


「ガルル」

「早速お出ましか」


 唸りがら現れたスノータイガー。

 見た目はホワイトタイガーを更にデカくした感じだ。


「俺がやる」

「ええ、任せましたわ」

「見させてもらおう」


「「…………」」


 俺と西園寺は揃って同じ方向に首を向ける。


 何で剣凪こいつがいるんだ?


 疑問気な眼差しを送ると、察した剣凪は淡々とした声音で口を開く。


「お前が決闘を承諾してくれるまで、私はどこまでもついて行くぞ」

「何だこいつ」


 またバトル漫画みたいな台詞を吐いてきたぞ。怒りを通り越して最早呆れてきたわ。

 どうにかしてくれよと西園寺に目線で頼むが、彼女は「この人はこういう人ですわ。一度言ったら曲げません」と言わんばかりに首を横に振った。

 駄目だこりゃ。


「ガルァァ!」


 無視すんなよ、とスノータイガーが口腔から吹雪を放ってくる。俺は蜘蛛糸で回避し、西園寺は配下のウルフキングに乗ってその場から離脱。剣凪は知らん。


「ガァァ!」

「ニードル」

「ガッ!?」


 飛び掛かってきたスノータイガーにカウンターを喰らわせる。

 鼻先まで迫ったタイミングで前方真下から長針を突き上げ、スノータイガーの土手っ腹を貫いた。まだ息があったので、右腕に纏ったナイフで首を刎ねる。

 残念ながら、ドロップは出ていない。


「見た事もない力だが……スノータイガーを瞬殺か、やるな影山。ところでお前はどんなスキルなんだ?」

「……」

「あっ、おい待て!」


 驚愕しながらも褒めてくる剣凪を無視して、俺は先へ進み出す。

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