第62話アルスレイア
竜の顔――憤怒の魔王サタンが俺を見ながら言うと、肩からベルゼブブが生えてくる。
『おいサタン、テメェ性格変わり過ぎだろ。無口なテメェがベラベラと喋りやがって。女の尻に敷かれてオカシクなっちまったか』
『それは貴様も同じだろう。何でも食い散らかす貴様がやけに大人しいじゃないか』
『五月蝿ぇよ』
『嫉妬は相変わらずだが、他の魔王も目覚め始めている。ついに訪れたのだ、“選定の時代”が。貴様が選んだ“王候補”はその貧弱そうな人間で良いのか?』
『……』
……王候補?
さっきからベルゼブブとサタンは何を話しているんだ?
疑問を抱いていると、女性が魔王の会話を遮る。
「サタン、旧友と盛り上がる所すまないが、急がねばならん。おい人間、貴様名前は」
「……アキラだ」
「アキラ、我はアルスレイア。魔族を束ねる現魔王であり、憤怒の魔王に選ばれた【共存】スキル者である」
「ま、魔王!?」
こいつマジで言ってんのか!?
アルスレイアと名乗った女性の話が本当なら、人間が敵対する魔族の大将である魔王自ら、しかもたった一人で敵である人間の王都に乗り込んできたって事だぞ。頭おかしいだろ。
「じゃあこのまま、人間を滅ぼすのか」
こんな奴に暴れられたら、この辺一帯消し飛ぶぞ。王国にいる佐倉達も危ない。そう危惧していると、アルスレイアは失敬なと言わんばかりの態度で、
「我はそんな卑怯な真似はしない。正々堂々戦場で戦う。それに、流石に我一人で落とせる程人間共を甘く見ておらんわ。今日は卑劣な人間から同胞を救いに来ただけだ」
「そ、そうか……」
「アキラ、【共存】スキル者は試練を巡る運命にある。再び我と出会うまで、死ぬでないぞ」
俺にそう忠告すると、アルスレイアはリミを抱えて突然地面に拳を叩きつけた。
ズドンッと床が抜け、アルスレイアが地下に落ちていく。それから2〜3分後、地下から途轍もなく大きなモノが飛び立っていった。
視界に捉えたのは、巨大な紅き竜。
その背には、囚われていたであろう魔族達が乗っていた。気の所為かもしれないが、リミが「ありがとー!!」と叫んでいた。
瞬く間に遠く彼方に消えていく竜を眺めながら、俺はベルゼブブに尋ねる。
「なあベルゼブブ、あの竜ってアルスレイアだよな」
『アア』
……マジかよ、あんなデカいドラゴンにもなれんのか。
それにしても……。
「あいつ、よく魔族が地下に捕まっていた事が分かったな」
『魔族の気配を探れンだろ。初めにピンポイントでこの場所に落ちてきたのも、偶然じゃねえだろうしな』
すっげーなあいつ。
と感心していると、部屋の奥からオッサンの泣き声が聞こえてくる。
「私の配下が……私の屋敷が……私の商品が……ぅぐ、何故私ばっかりこんな……ッ!!」
「そう言えば親玉がまだ残ってたな。フィーラー」
「うがっ!」
号泣しているゴルドを触手で叩き潰す。
ぶん殴っても良かったが、なんか触りたくない気分だったので触手にしておいた。
「帰るか」
『そうだな』
良いとこ取りされた感じは否めないが、あのままダリルと戦っても勝てたか分からないし、無事に魔族も助かったのだから良しとしよう。
力を使って腹も減った俺は、半壊の屋敷を後にしたのだった。
◇
「ゴルド商人店長ゴルド!貴様を違法人身売買で連行する!!……ぬぅ?」
――晃がゴルドの屋敷を去ったすぐ後。
王国第四騎士団がゴルドの屋敷へと訪れていた。第四騎士団は、特別法務官ロウリーからの要請で出動している。
普段ならば、貴族の存在が邪魔で奴隷商を検挙出来ないのだが、今回はロウリーの要請もあり堂々と検挙出来るので意気揚々と現場に向かった。
向かったのだったが……。
「何だこれは……既に屋敷が半壊しておるではないか」
「それに、あそこでノビているのは恐らくゴルド本人ですね」
「なにぃぃ〜〜〜?」
第四騎士団団長のガッツは屋敷の半壊した有様を目にして驚愕し、副団長のクラリスは気絶しているゴルドを本人だと断定した。
それから団員総出で屋敷を捜査すると、囚われている奴隷は見つかったが、ロウリーから伝えられていた魔族は一人もいない。
居るのはゴルドと、彼が雇った傭兵である。全員気絶しているが。
捜査した屋敷の状況を判断すると、
「私達の前に誰かが来ていますね。それで盛大に暴れ回って、魔族を連れ去ったと思われます」
「うーむ、出し抜かれてしまったか……」
肩を落として気落ちする団長に、クラリスは淡々とした声音で「いんじゃないでしょうか」と軽く言うと、
「掃討とか面倒な手間が省けますし」
「お前さんはまたそうやる気のない事を言う」
「基本汗かきたくないですから」
ため息を吐くガッツに、飄々と部下に指示を出すクラリス。
こんな感じで第四騎士団が、事後処理に励むのだった。
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