第61話本当に人間か?

 



 それからダリルの猛攻が始まった。

 疾く鋭い斬撃が、息継ぎする間も無く襲いかかってくる。

 俺も隙を窺って反撃しているが、ダリルは回避も防御もせず、ダメージを受けながらも構う事なく剣を振るってきた。


「クソったれぇッ」

「そらそらどうしたぁ!!そんなもんかーお前の力はよぉ!?」

「――くっ」


 ――ガクッと足にキテしまった俺は、背後に向かって蜘蛛糸を放ち大きく距離を取った。

 シュー……と身体から蒸気が立ち上がり、徐々に力が抜けていく。

 そしてついに、【Beelzebub】モードが解除されてしまった。


「はぁ……はぁ……」

「あらら、戻っちまったか。時間制限があるパワーアップだったのかよ。ちっ……これからが良いところだってのによぉ」

『おいアキラ、大丈夫か』

「……ああ」


 それほど絶望的じゃない。

 確かに倦怠感はあるが、アースドラゴンの時と比べて動けない程でもなかった。

 まだ戦えるし、ダリルもダメージがキテいる筈だ。自分では分かっていないようだが、明らかに動きが鈍く大雑把になっている。

 まだ勝機はあるさ。


「イイね〜その眼。諦めるどころか、俺を倒そうって眼だ。だけどよ、そろそろ終いの時間だぜ」


 そう言うと、ダリルは初めて構えらしい構えを取った。空気が一変し、奴の目付きが鋭くなる。


 ――来る!!


 そう予感した刹那だった。

 何かが空から降り落ちてきたのは。



 ――ズゥゥゥゥゥウウウウウウウウウンンッ!!!



 落下した衝撃で轟音が鳴り響き、爆風が吹き荒れる。


「な、何なんだ一体ッ!?」


 舞い散る砂煙が晴れると、そこには紅髪の女性が毅然と佇んでいた。

 黒衣を纏った女性は状況を把握しようと周りを見渡していると、顔から冷や汗を噴き出したダリルが声を漏らす。


「おいおい、ちょっとばかしヤベー奴が来ちまったぞ。次から次へと、今日は何て日だよ」

「貴様が我の同胞を殺し、攫った人間か?」

「おう、そうだ。俺が魔族の男共を殺した」

「そうか――では」


 その瞬間、ダリルの姿が消える。

 いや、既に女性の背後に回り込み、光り輝く剣による斬撃を繰り出していた。

 だが――


「死ね」

「――ぉぼおおおおおお!!?」


 ダリルの奇襲を予知していたかのように、女性は振り向き様に正拳を繰り出す。拳は剣を木っ端微塵に粉砕しながらダリルの顔面を射抜いた。

 冗談とも言える速度でダリルは吹っ飛ばされ、屋敷の壁を突き抜けてしまった。どこまで飛ばされてしまったのかは、皆目見当もつかない。


「な……」


 あのダリルを一撃で倒した女性に、俺は驚愕していた。それと同時に彼女の存在に恐怖し、畏れを抱く。

 まるでアースドラゴンと初めて対峙した時のように、存在の格の違いをはっきりと体感してしまっている。


 とりあえず、一歩でも動いたら死ぬ気がしたのだ。


「あとは……貴様か」

「――ッ!?」


 煌めく金眼が俺を捉える。

 その瞳に射竦められただけで、全身が勝手に震えてしまった。

 ヤバい……何だアレは。本当に同じ生物なのか?


「魔王様ーー!!」

「おう、リミではないか!無事だったか!」

「うん、アキラが助けてくれたの!」

「アキラ?アキラとは誰だ?」

「あの人!」


 隠れていたリミが女性に抱き着くと、彼女も笑顔を浮かべてリミを優しく抱擁する。まるで仲の良い姉妹のような光景だった。

 リミが俺を指差すと、再度女性が一瞥してくる。怪訝そうな表情を作ると、疑問気に口を開いた。


「貴様……人間だな」

「あ……ああ」

「理解出来ん……何故人間が魔族であるリミを助ける。理由を言え」

「理由って言われてもな……リミに助けを求められたからそうしたまでだ」

「信じられん、たったそれだけの理由で人間が魔族を……」

「あのね、アキラはリミを助けてくれて、悪い人たちもやっつけてくれたんだよ!!」


 嬉しそうにリミが告げると、女性は納得のいかない顔で「ぬ……そうか」と呟いた。


「人間にも可笑しな奴がいるのか。ならば礼を言わねばならんな、感謝する」

「有り難く受け取っておく」

「ヌッ……待て、貴様本当に人間か?微かに我等と同じ気配も感じるな」

「うん、アキラは魔王様と同じ匂いがするの!」

「やはりな……もしや貴様、【共存】スキル者か」

「な……ッ!?」


 彼女の口から出て来た言葉に喫驚する。

 この人、王国の人間が誰も知らない【共存】スキルの存在を知っているのか!?


『間違いない、彼奴は【共存】スキル者だ』

「おいサタン、勝手に出てくるなといつも言っておるだろう」

『フハハ、たまには良いではないか』

「マジ……かよ」


 開いた口が塞がらないとは正にこの事だった。

 女性の肩あたりから、突然竜の顔が生えた。その顔には意思があり、普通に女性と会話を行なっている。それはまるで、俺とベルゼブブのようで……。

 まさか……まさかこいつもッ。


「アンタも【共存】スキル者なのか!?」

「そうだ。我も【共存】スキル者だ。寄生された魔王は『憤怒』のサタン。貴様は?」

「『暴食』のベルゼブブだ……」


 ベルゼブブの名前を告げると、俺と同じ【共存】スキル者の女性は突然「ふははははははははははっ!!」と盛大に笑い飛ばして、


「貴様、よく喰われなかったな!サタンの話しでは、暴食の魔王は狂気的で暴力的で、自分よりも喧嘩っ早いと言っていたぞ。気に入られず喰われた寄生者は数知れないそうだ。そうだろサタン?」

『アア、奴と馬が合う奴なんてワレも知らない。というか、いい加減黙ってないで出てきたらどうだ、ベルゼブブ』

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