第60話スキル解放

 




 焦った親玉が名前を叫ぶ。すると、また部屋の奥から40代ほどの屈強そうな男が現れた。


 ちっ、まだ仲間がいたのか。


「ふぁ〜ぁ、折角気持ち良く寝てたのによー、どったんばったん五月蝿くて眠れねーつーの」

「寝てる場合じゃない!ガズとバリアンがやられたんだぞ!!」

「はぁ〜本当か〜?あの二人がやられたのかよ」


 眠そうに欠伸をしながら後頭部を掻くそいつは、この部屋の惨状を見渡し、気絶しているガズとバリアンを一瞥した後、最後に俺を見抜いた。


『おいアキラ』

(分かってる)


 ガズとバリアンの実力は、遠藤や田中達と比べてもそう大差なかったので余裕を持って戦っていたが、この男は違う。


 醸し出している雰囲気が強者のソレだ。今まで戦ってきた階層主達と同等の重圧を感じる。


『良い目になってきたじゃねーか、アキラ。敵の実力を瞬時に判断する力は戦いにおいて重要なスキルだぜ』

「褒めて貰えるのは有り難いけどよ、素直に嬉しがってる場合じゃねーよな」


 ダリルと呼ばれた男が俺を観察していると、痺れを切らした親玉ゴルドが怒鳴り散らす。


「お前の部下が不甲斐ないからだぞ!さっさとあの変な奴をぶち殺せ!」

「わーったよ。やるから早く下がってな、巻き添え喰らって死んでも知らねーぞ」

「ぐっ……絶対に負けるんじゃないぞ!!」


 ゴルドはそう言うと、ドッタドッタと部屋の奥に隠れてしまう。ダリルはコキコキッと首を鳴らすと、俺に忠告してきた。


「テメェもそこのガキを下がらせな。戦いの邪魔だろ」

「……」

「心配すんな、ガキを人質にするつもりはねーから。俺は紳士なんだ」

「……リミ、危ないから下がってるんだ」

「うん」


 リミを下がらせた刹那、眼前に剣が迫っていた。俺は咄嗟にナイフを纏い、ギリギリのタイミングで受け止める。


 疾い……重いッ!!


「ほう、今のを受けるか。これは楽しめそーだ」


 何が紳士だ、不意打ちして来やがって。

 そっちが不意打ちならこっちは奇襲だ。


「ハリセンボン」

「おっと」


 楽しそうに笑みを浮かべるダリルに向けて身体の前面から針を出して奇襲を仕掛けたのだが、察知され躱されてしまった。


 ……危なかった。黒騎士デュランの剣技を体験していなかったら、初撃で終わっていたかもしれない。

 やっぱりコイツ、クソ強えぞ。


「その格好といい、変な力を使うなお前」

「アロー」

「おっと、危ねー危ねー」


 顔面を狙ったアローも、首を動かすだけで避けらてしまう。この野郎、余裕かましやがって。

 俺は両腕にナイフを纏い、疾駆する。肉薄し、ナイフによる斬撃を繰り出した。


「そうくなよ。久し振りに面白い戦いになりそーなんだ。じっくり楽しもうぜ」

「気持ち悪ぃー奴だな。戦闘バトルジャンキーきなら戦場にでも行ってろよ」

「ヒュー、ハッキリ言うねぇ。確かにその通りなんだが、戦場あそこは血生臭ぇんだよ。それに、お国の為に戦うってのも柄じゃねーしな」

「だからってこんな糞な仕事をしてる脳味噌は理解出来ねーな」

「金も良いし適度に遊べるしな。偶にお前みてーなそこそこ強い奴とも戦えるし」


 ナイフによる連撃を繰り出したが、全て受け流されてしまう。実力の差は如実に現れていた。

 仕切り直す為、腰から蜘蛛糸を背後に向けて射出し、伸縮移動で距離を離す。


「何だソレ、やっぱ面白ぇーな。魔族の男共よりも楽しいぜ、お前」

「……お前が、リミの村を襲ったのか」

「ん?ああそうだな。魔族だから多少はやると思ったが、どいつもこいつも雑魚ばっかりだったぜ。ぶっちゃけ拍子抜けだったな」


 …………。


 拳を強く握り、奥歯をキツく噛み締める。


『おいアキラ、冷静になれ』


 冷静だよ。


 だから俺とあのクソッタレな男との実力に差があるのも理解出来る。なら、現状の限界を超えるしかねーだろ。


『使うのか』


 ああ、出し惜しみしている余裕はねぇ。

 ダメージもなく、体力も残っている内に使わねーと。


『そうか、お前が決めたンなら、オレ様はもう何も言わねぇ。やっちまえ』

「ああ、行くぜ」

「おっ、雰囲気が変わったな。今度は何を見せてくれるんだ?」


 俺は一つ深呼吸すると、腹の底から力を引っ張り出す。


 そして――



「スキル解放・モード【Beelzebub】」



 スキルを解放した刹那、全身に力が漲ってくる。さらに両手から獣爪が、腰から4本の尻尾が生えた。

 ウルフキングをイメージした黒鎧。アースドラゴンを圧倒した、新たな力。

 スキルの解放。使用する時間制限はあるが、これであのクソッタレなオッサンとも十分戦える。


「鎧の形が犬に変わったが、力も随分上がったな。これで俺も本気が出せそう――ぐぉ!?」

「ォォォオオオ!!」


 呑気に喋っている間に接近し、獣爪で切り裂く。肉には届かなかったが、薄皮一枚は削れた。

 畳み掛ける。

 4本の尻尾を縦横無尽に動かし、あらゆる角度から刺突した。


「ちっ!!」


 ダリルは尻尾の数に対応しきれず、何発か良いのを与えた。俺は懐に入り込み、下段から顎目掛けて蹴りを放つ。

 間一髪剣の腹で防がれてしまったが、奴は逃げ場のない空中だ。


「スゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ」


 俺は大気を喰らい、口腔にエネルギーを充填する。

 喰らいやがれッ。


狼王ウルフェン咆哮ハウル!!」


 凝縮したエネルギーを、口腔から一気に解き放つ。

 解放されたエネルギーは怒涛の衝撃波となって、空中にいるダリルに襲いかかった。


「はぁ……はぁ……」


 屋根は消し飛び、ダリルの気配はどこにもない。奥から一部始終を眺めていたゴルドが、呆けたまま口を開く。


「そ、そんな……馬鹿な。今は傭兵と言えども、ダリルは二つ名持ちの元A級冒険者だぞ。こんな得体の知れない奴に負ける筈が……」

「おい」

「ひぃぃぃぃぃぃ!!?」

「さっさと魔族達を解放し――」


 ――ヒュンッと風切り音が鳴り響いた刹那、尻尾の先が2本斬り裂かれた。


「……なっ」


 今、何が起きた?

 斬られたのか?だが、一体どこから。

 不意の攻撃に困惑していると、屋根から上半身裸の男が荒々しく降りてくる。

 その男は、吹っ飛ばした筈のダリルだった。


「ふぅー、ヒヤリとしたぜ。まともに喰らってたら死んでたな」

「おーダリル!生きていたか!!」


 こいつ、逃げ場のない空中で咆哮を受け切ったのかよッ。

 しかも今の攻撃、全く察知出来なかった。

 この野郎……。


「今まで手加減してやがったなッ」

「身体も温ったまった……て言うにはちょっとダメージを受け過ぎたが、まぁボチボチ行くか」


 奴がそう口にした寸毫――、幾多もの斬撃が飛来してきた。


「くっ!」


 さっきの攻撃の正体は斬撃だったのか。

 だがスキルも魔法も使ってないのに斬撃って飛ばせるのかよ!?

 斬撃を紙一重で躱すと、目の前には剣を振り上げたダリルがいて、


「おらぁぁぁぁああああ!!」

「ぐぉ……!!」


 脳天目掛けて振り下ろしてきた剣を獣爪で受け止める。が、重い衝撃に耐え切れず弾き飛ばされてしまった。

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