第53話力が欲しいか
「ゴォ――――――」
大気が唸り、風が地竜の口腔に収縮していく。
……何だアレは。突然アースドラゴンが大きく息を吸いだしたぞ。
「影山さん!ブレスが来ますわ!アレを撃たせてはいけません!!」
「マジかよッ!?」
遠くから西園寺が警告してくる。
その攻撃により、神崎達はかなり追い込まれたらしい。
だが撃たせてはいけないと言われても、一体どうすればいい。奴はもう吐き出す寸前だ。迂闊に近づけない。射線の軌道を読んで避ける準備をしておくのが賢明な判断じゃないのか?
『もう間に合わねぇ。奴の挙動に注意しろ』
「分かった」
と返事をした刹那、アースドラゴンが凝縮した大気を一気に解き放った。
ッ――ォォォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!
爆音が轟き、凶悪的な暴風が地の表面を削り取りながら、俺を殺そうと向かって来る。
が、既に俺はブレスの射線から回避していた。
その筈だったんたが――、
「ゴォァァアアアアアアアア!!」
「クソったれぇ!!」
俺を捉えようとアースドラゴンが首を振ることで、
ヤバい……このままじゃ追いつかれる!!
蜘蛛糸で必死に逃げるが、ブレスの方が僅かに疾い。
……クソ、逃げ切れねぇ!!
『チッ』
「ぁぁぁぁああああああああああああ!!」
咄嗟にベルゼブブが全身を黒スライムで覆うも、ブレスの衝撃波は凄まじく、肉体を粉々に砕かれ、内臓をぐちゃぐちゃに掻き回されながら吹っ飛ばされ、ズドンと壁に叩きつけられた。
「ごはッ……」
口から鮮血をぶち撒け、俺は前のめりに倒れる。
(痛ぇ……力が入らねぇ……)
立って直ぐに戦わなきゃならないのに……。
立ち上がろうとしても全身が悲鳴を上げるばかりで、全然力が入らねぇ。
……クソったれ。
分かっていた、予測していた筈なんだ。
アースドラゴンが最大級の攻撃を仕掛けてくる事を。
いつでも対応出来るよう、万全の準備を整えていたんだ。
なのに、このザマかよッ!!
(西園寺は……)
目だけを動かし、西園寺の安否を確認しようと周囲の状況を把握する。
西園寺は無事ではなかった。
レッドバードとギガントホーンの姿はなく、倒れているウルフキングに傷だらけの西園寺が寄り添っている。
恐らくだが、モンスター達がその身を盾に主を守ったのだろう。
そしてアースドラゴンは――
「……コォォォォ」
「……クソったれ」
奴も全身刀傷まみれで満身創痍だが、それでも俺に顔を向け、ブレスの二発目を充填していた。
アレを喰らったら、今度こそ確実に死ぬ。回避する力も、もう残っていない。
(死ぬのか、俺は。負けるのか……またッ)
ガリっと奥歯を噛み締める。
己の不甲斐無さに、無力さに嫌気がさす。
ゴブリンに負けて。
ブラックオークキングに負けて。
黒騎士のデュランに負けて。
負けてばっかりじゃねえか。
ベルゼブブに寄生されていなかったら、本当なら3回以上は軽く死んでいるぞ。
どれだけ弱いんだ、俺はッ。
『アキラ、周りの目を気にするな。己が信じることを成せ』
クソったれな親父。
『アキラ、人を助けられる人になりなさい』
尊敬できる母さん。
(ははっ、走馬灯かよ)
こんな時に両親を思い出すなんてな。
何回も死んでる俺も、流石に今回は助からねぇか。
…………。
…………。
………いや、
諦めてどうする。
諦めてどうすんだよ。
何を勝手に諦めてるんだ、俺はッ!
まだ神を殴ってない。嫉妬の魔王に落とし前を付けていねぇじゃねえか。
何よりここで俺が死んだら西園寺はどうなる?
死ぬ。死ぬぞ、確実に。付いてきたのは彼女の意思かもしれない。だけど、ここまで付いてきてくれた西園寺を死なせてしまっていいのか?
(言い訳ないだろーが!!)
立ち上がれ、影山 晃。
お前がやらなきゃ、誰がアイツを倒すんだ!!!
『力が欲しいか、アキラ』
(欲しい!)
『もう戻れなくなるぜ』
(構わねぇ!!)
『ハッ良い度胸だ……ならくれてやるよ。と言っても、もう力は既にお前の手の平にあるンだけどな』
「何でもいい、力を寄越しやがれ、ベルゼブブ!!!」
◇
「ゴァアアアアアアアアアアア!!」
30階層の階層主、
己を苦しめた
そう確信した――刹那だった。
「ゴァ!?」
影山 晃から漆黒の閃光が迸り、突然姿をくらませる。直ぐに気配を探ろうと周囲を見回そうとした瞬間、獣の爪に裂かれるような斬撃の衝撃が全身を駆け巡った。
「ゴ――ゥゥァァアアアア!!」
堪らず悲鳴を上げるアースドラゴン。
己の周りを駆け回ってるのは把握出来る。だが移動速度が速過ぎて視界に捉えきれなかった。
どこだ。どこにいる!?
「スゥゥゥゥウウウウッ!!」
鬱陶しく感じたアースドラゴンは、全て薙ぎ払えばいいと大きく息を吸い込む。
その思惑を抱いた直後、思いっきり顎を蹴り飛ばされた。
「グ……ゥゥゥ」
「これぐらいで怒んなよ。これからだぜ」
見つけた。
瀕死寸前だった死に損ないが、己の眼前に悠然と立っていた。そしてその姿は今までと違い、禍々しい鎧を身に纏っている。
影山 晃の姿は変貌していた。
全身を漆黒の鎧で包み、両腕には鋭い爪が生え、腰の辺りからは四本の尻尾が揺らめいている。
頭部は狼の顔を模した兜に覆われており、その奥から紅蓮の眼光が煌めいて。
人とはかけ離れた異形な彼はまるで、黒狼が人化したような姿であった。
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