第48話仲間じゃありませんか
キィンッと、甲高い音が響いた刹那、拷問器具がズタズタに切り裂かれてしまう。
その中には、無傷の黒騎士が悠然と佇んでいた。
「攻撃のれぱーとりーは多彩であるが、残念ながら威力が伴ってないの」
「……ッ」
「一太刀合わせただけで瞬時に分が悪いと判断し、遠距離からの攻撃に切り替えたのは良い判断じゃった。状況判断に戦闘能力は光るモノがあるのぉ」
――じゃが、と続けて、
「準備運動程度の実力じゃ。我輩の敵となるには時期尚早じゃったな」
冷や汗が頬を伝う
……どうする。どうすればいい。
全身全霊を込めたアイアンメイデンが通用しない相手にどう戦えって言うんだッ。
「怖じ気たか……まぁ無理も無い。終わらせよう」
来る――疾いッ!!
黒騎士は瞬く間に俺との間合いを潰し、巨剣による斬撃を浴びせてくる。反射速度を超える攻撃に反応出来ず、反撃する暇もなく右腕を斬り飛ばされてしまった。
「――ァ――」
死ぬ?
俺は負けるのか?死ぬのか?こんな所で、こんな奴に。まだ何も成し遂げていないのに。神を殴るどころか嫉妬の糞魔王もぶち殺していないのに。今までの死闘が無になる努力が無になる嫌だそんなのは嫌だ俺はまだ死にたくないそうだまだ負けてない右腕を斬られただけじゃないか俺はまだ生きているまだ左腕が残っているじゃないか――
「ナイフッ!」
「遅い」
「ぁがッ!?」
残った左腕にナイフを纏い、彼奴の首筋を狙った一閃は、切っ先が届く前に俺の左手が根本から斬り裂かれた。
追撃の峰打ちを腹にもらい、俺は血反吐を吐きながら俯せに倒れ伏す。
「ぁ……ぃ……が」
「片腕を失いながらも、勝利を諦めぬその心意気や良し。僅かに狂気が入り混じっていたが、お主は確かに戦士の目をしておった。敵ながら天晴れである」
ダメだ……体に力が入らねぇ。
満足に立つ事すら、出来ねぇ……。
「小僧は放って置いても死ぬじゃろう。さて、残るは可憐な少女と畜生共か」
「よくも影山さんを……!!この愚かな行いは万死に値しますわ!待ってて下さいまし、影山さん。一瞬でこの骨屑を平伏し、必ず貴方を助けますわ」
「ホッホッホ、少女の方も可憐な外見と違って相当なじゃじゃ馬と見える。こちらも案外楽しめそうじゃな」
「何をゴタゴタ言ってますの?“さっさと跪きなさい”」
「ん?……んんんんんんん!!?」
何か違和感を感じ取ったのか、黒騎士の様子がおかしい。
首を傾げて、じっくりと西園寺の姿を凝視する。
「なっ!?わたくしのスキルが……効かない!?」
「縦巻く金の髪に、天上の存在から放たれるこの威光……もしや貴女様は、ユーフォリア殿下ではないでしょうか!?」
どうやら西園寺が【支配者】スキルによる強制テイムを行使したようだが、黒騎士に通じなかったらしい。
何故か黒騎士の方は彼女の見て酷く驚愕している。一体どうなってんだ?
「わたくしは西園寺麗華。ユーフォリアなどという名前ではありませんわよ」
「そうか……そうであるな。あれから幾年も経った……殿下が生きている訳もないのぉ。じゃが、“王の威光”に殿下の生き写しのようなお姿。これも何かの因果かの……よし、決めましたぞ!!」
「な、何ですの急に!?」
黒騎士は突然大きな声を張り上げると、西園寺の眼前に
それは王に使える騎士のように洗練であり、威風堂々たる姿であった。
「我輩は
「え?……い、いいですわよ」
「有難き幸せ。ですが我輩は久し振りに目覚めたばかり。本調子には程遠い故、闘いの勘を取り戻してから麗華殿のお側に参りましてもよろしいであるか?」
「か、構いませんわ」
「御意。では我輩はもう行きます。くれぐれもお気を付け下され。おいそこの畜生共、しっかりと麗華殿をお守りするんじゃぞ!!」
「ガウッ!!」
おかしい。
【支配者】スキルの影響を受けてないのに、何故か黒騎士――ナイトキングのデュランが西園寺の配下になってしまった。
デュランはウルフキングに申し付けると、黒馬に乗って颯爽と去ってしまった。
何だったんだ、あの骸骨爺ぃは。
「はっ!?大丈夫ですか、影山さん」
「ああ、大丈夫だ」
「そんな!両腕を斬り飛ばされて大丈夫な訳が――って……腕がありますわ!?」
心配そうな表情を浮かべている西園寺が倒れている俺に近づくと、目を見開いて驚愕していた。
そりゃそうだ。
ぶった斬られた筈の両腕が元通りになってるんだからな。それも、斬られた断面からピッ○ロのようにニョキッと新しく生えている。
なんか気持ち悪ぃな……。
そう。
俺の身体は既に化物と化している。
ゴブリン共に喰い千切られた四肢も、ブラックオークキングに喰い飛ばされた右腕も気が付いたら治っていた。というか生えていた。
それ以外にも、死に直結するような致命傷も次の日には完治に近い状態になっている。
原理は俺にも分からない。だが恐らくは、ベルゼブブの力によるものだろう。
回復の代償というか弊害というか、治った後は異常に腹が減るけどな。
――ドンッ。
俺は生えたばかりの右手で、力の限り地面を殴った。
地にヒビが広がり、僅かに陥没する。
「と、突然どうしましたの……?」
「大丈夫だ、問題ない」
『悔しいンだろ?』
ああ。
ベルゼブブには気持ちを隠せないか……。
ああ、悔しい。死ぬ程悔しいさ。
強くなると決意したばかりで、日も経たぬうちに負けたんだからな。しかも、手も足も出ない完敗っぷり。自分が情けなくてしょうがねぇ。
事情は詳しく知らないが、もしデュランが西園寺の配下にならなかったら俺も西園寺も死んでいた。
死んでいたんだ。
『その悔しさを忘れンじゃねえぞ』
「ああ」
『まぁ、オレ様ならあンな骨野郎如き一撃で粉砕だがな』
……五月蝿いよ。
「西園寺、ありがとう」
「な、何ですか突然ッ?」
「いや、お前が居なかったら死んでかもしれないし……助かったな、と」
「べ、別に礼なんていりませんわ!“仲間じゃありませんか”!!」
「ッ……」
「な、何ですかその顔はッ!?」
「何でもねぇよ。行こうぜ」
踵を返して先へと進む。
――俺は今、どんな顔をしているのだろうか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます