第47話黒騎士

 





 ――ダンジョン24階層。

 この階層で出現するモンスターは変わらず、一度に遭遇する数が3体となる。


 サクッと攻略し、俺と西園寺は次の階層へと足早に進んだ。



 ――ダンジョン25回階層。

 この階層では新たにゴーレムという岩石人が現れる。動きは鈍いが防御力が異常に高く、恐らくだが攻撃力も高いだろう。一発には気をつけなければならない。

 ドロップするアイテムは『ゴーレムの欠片』だ。


「ゴー」

「「グァァ」」


 ゴーレム1体とガーゴイル2体と遭遇する。

 三叉槍を持って突っ込んで来るしか脳の無いガーゴイルは触手フィーラーで瞬殺して、改めてゴーレムと対峙した。


「ゴー」

「うーん、どこを攻撃するか」


 肉体が完全に岩石で構成されたゴーレム。

 ぱっと見では弱点が見当たらず、何処から攻めたらいいか迷ってしまう。

 まぁいい、とりあえずナイフが通るか試してみるか。


「ナイフ、蜘蛛糸」


 腰から黒糸を射出してゴーレムに付着。伸縮移動で肉薄し、ナイフを一閃。

 だが――


「ゴー」

「やっぱり駄目か、硬い」


 ガキンッ……と鈍い音が鳴っただけで、大してダメージを与えられない。辛うじて擦り傷ぐらいか。

 やはりこの手のモンスターは斬撃系ではなく打撃系の攻撃じゃなきゃ無理だな。

 少し悔しい気持ちが湧き上がるが、割り切っていこう。


「ハンマー」

「ゴー」

「よっ」


 野球バットを握る手の形を作り、黒スライムを操ってハンマーを纏う。

 蜘蛛糸の伸縮移動による勢いを乗せて、ハンマーをゴーレムの土手っ腹に叩き込む。

 一度だけでは粉砕出来ず、二度三度ぶっ叩いて漸く倒し切る。


 それにしても、ゴーレムは本当にトロイな。

 反撃してきたが、速度が遅すぎて問題無く躱せる。

 確かに高い防御力は厄介だが、それだけで脅威ではない。


「よし、次に行くか」


 26階層へと向かう為に、踵を返した――その時。


「ホッホッホ、目覚めてから初めての冒険者てきがお主等か」

「何だこいつ……」


 突然背後から声を掛けてきたのは、人では無かった。


 漆黒の鎧を全身に身に纏った、騎士風の男。だが人間でないと判断し得るのは、奴の頭部が骸骨だからだ。

 明らかに人間ではない。まぁ十中八九モンスターだろうな。

 黒鎧の骸骨騎士は背中に巨剣を背負っており、黒い馬に跨りながら俺達を見下ろしていた。


「なあ西園寺、あのモンスターの情報ってあるか?」

「いえ、ありませんわ。わたくしも初めて目にしましたので。恐らく稀に現れる中ボスモンスターかと」

「中ボスモンスターか……よく遭うな」


 既に30階層に到達している西園寺に黒騎士の情報を求めるが、彼女も知らなかったようだ。

 どうやらダンジョンに現れる中ボスのモンスターらしい。5階層で遭遇したアーマードグリズリーや、15階層で戦ったウルフキングのような存在。

 本来ならば滅多に出会うことは無いのだが、【共存】スキルの所為で俺はそういった類のモノを引き寄せてしまう。

 ベルゼブブ曰く、これは試練なのだとか。

 こっちとしては巫山戯んなって話だけどな。


「ホッホ、久方ぶりの戦闘。準備運動ぐらいの相手になるとよいのだがな」


 どっこいしょ……と黒馬から降りて屈伸を始めるモンスター。

 一々人間臭いモンスターだな。普通に人間の言葉を話せるのも不思議だし……。

 だが、戦う気は満々なようだ。


『油断するなよアキラ。舐めてかかると負けるぞ』

(分かってる。ポンコツそうだが中ボスだからな。最初から全力で殺しにいく)


 ベルゼブブの忠告に、俺は気を引き締める。

 21階層からここまでは淡々と戦ってきたが、この相手には意識を切り替えなければならない。

 神経を研ぎ澄まし、集中する。


「ヌ……良い殺気である。これは意外と楽しめそうであるな。来い、冒険者」

「言われなくてもぶっ殺してやる。フィーラー」


 先手必勝。

 俺は背中から4本の触手を生やし、黒騎士に襲いかかる。

 黒騎士は背中から巨剣を抜刀すると、流麗な剣捌きで全ての触手をいとも容易く斬り飛ばした。


「……ッ!?」

「フム、異様な力を使う小僧である。だがこんな虚仮威こけおどしは我輩には通用せんぞ」

「ナイフ」


 右手にナイフを纏い、体勢を低くしたまま疾駆。勢い殺さぬまま、ナイフを一閃した。

 だが――


「粗暴な太刀筋であるな」

「ぐっ……」


 目の前で残念そうにため息をつくモンスター。

 俺が繰り出した斬撃は、巨剣で容易に受け止められてしまった。それに力で強引に押し込もうとも、丸でビクともしない。

 その一合で俺は悟った。悟ってしまった。

 黒騎士の剣術は俺を遥かに上回り、無暗に斬り合っても絶対に勝てない、と。


 ならば――。


「ハリセンボン」

「ヌッ」


 身体の前面から、黒スライムで構成された棘を飛び出す。惜しくも察知されて躱されてしまったが、これで奴との距離を離せた。

 畳み掛けてやる。


「アロー」


 長弓を纏い、地面に落ちている岩石を装填して撃ち放つ。

 バンッと空気を裂く轟音が木霊し、岩石が黒騎士に飛来する。しかしこの奇襲も、黒騎士が半身になる事で紙一重で躱されてしまった。

 まだまだ。


「蟻地獄」

「ヌオッ!?」


 密かに足元から黒スライムを伸ばしていた俺は、黒騎士の足場を泥沼に変えて身動きを封じる。

 両手を広げ、必殺のコンボを繰り出した。


「くたばれ、アイアンメイデンッ!!」


 パンッと両手を叩き、泥沼から中身が鋭い棘しかない女神像の拷問器具を出現させ、両側から一気に挟み込む。

 ズンッ!!と、ウルフキングを追い詰めた最大の技が決まる。これならば、あの黒騎士もひとたまりではないだろう。


 そう思いたいのだが……。

 手応えが、一切感じられなかった。

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