第45話考え事ですか?
――ダンジョン19階層。
敵モンスターはグリズリー2体、ギガントホーン3体。
「ベルゼブブ、交代だ。喰っていいぞ」
『ほう、いいのか?』
「ああ。お前最近喰って無かったろ。俺も飢餓感が出てきたし、新階層に行く前に準備を十全にしておきたい」
『イイだろう』
ベルゼブブに告げて、身体の支配を交換する。
グツグツと煮えるような熱が沸き立ち、ブクブクと黒スライムが身体を覆い尽くしていく。
手足の感覚が消え失せ、俺は意識だけの存在となった。
「ヒハハ、身体が変わったのは久々だな」
「……やはり美しいですわ」
2メートル超の巨漢になった漆黒の肉体。
ベルゼブブはボキッボキッと首の骨を鳴らしながら、状態を確かめるように身体を動かす。
そんな化物を、何故か西園寺が恍惚とした表情で眺めていた。
やっぱりこいつ、どっか頭おかしいんじゃねえか?
「グガァ!!」
「ブルル!!」
「ヒハハ、オレ様に正面から来るなンて良い度胸じゃねえか」
グリズリーとギガントホーンの2体が猛然と突進してくる。対しベルゼブブは、避ける手段を取らず真っ向から受け止めた。
「グル!?」
「ブル!?」
「ヒハハ、こんなものか!オラァ!!」
グリズリーとギガントホーンの頭を両手で鷲掴んだベルゼブブは、めり込むような勢いで強く地面に叩きつけた。
『何やってんだ、お前ッ!!』
『ひっ……!!』
『死んでるわ、全員」』
『貴様がやったのか……』
『お前……影山君?影山君なのか?お前がクラスメイトを殺したのか!?なあ“影山”、答えろ!!』
『――ああ、俺がやった』
地を蹴り上げ突撃してきたギガントホーンの両角を掴んだベルゼブブは、数百kgはあろう巨体を悠々と持ち上げ。
裂けた口を限界まで広げ、ギガントホーンの頭を角ごと頬張り、首を喰い千切った。
「バリバリ、ガリガリ、ゴクン。ウメェ」
咀嚼を終え、千切られた首から垂れる鮮血をジュース代わりに飲み、モンスターの血肉を味わう。
『なっ……!?本当にお前がやったっていうのか』
『酷い……』
『誤解されるのも癪だから、起こった事をありのまま話す。最初に襲ってきたのは遠藤達の方だ。俺は話し合いを求めたが、奴等は聞く耳を持たず問答無用で攻撃してきた。
だから仕方なく戦闘に発展した。俺も無抵抗のまま殺されたくなかったからな。
その後、突然遠藤が化物になり、そこにいる三人……野間と川口と田中を殺し始めたんだ。最後に俺が化物になった遠藤を殺した。実質俺が殺したのは遠藤だけだな。
話は終わりだ、これ以上も以下もない』
絶命したギガントホーンを用無しと言わんばかりに放り捨てる暴食の魔王は、次の餌へと視線を向ける。
「「――ッ……」」
ベルゼブブに見られた2体のモンスターは、ぐっと息を呑んだ。きっと、自分達も同じ末路を辿るのだろうと本能が悟ったのだろう。
それはきっと、間違いではない。
「突っ込むしか脳が無ぇ獣がビビっちまったか?ちっ、ツマンネェな」
「グルゥ……」
「ブルル……」
興が冷めたように舌打ちするベルゼブブは、脅えているグリズリーとギガントホーンへと足を踏み込む。
『……話は分かった。分かったけど、それを信じろっていうのか?』
『間に受けちゃ駄目よ勇人。きっとこいつは其の場凌ぎの嘘を付いているわ』
『そうですぅ。だって……だって人を殺してる人があんな……あんな顔してる訳ないですぅ』
『……あんな顔?あんな顔って何だ?なぁ、俺は今どんな顔してんだ。なぁ、教えてくれよ』
『――ひっ!?』
ドッドッドッと地を鳴らし、ベルゼブブが瞬く間に距離を詰める。腕を引き、凶悪な拳をグリズリーの鼻っ柱に叩きつけた。
――グギャ……鈍い音が響き渡り、脳天が粉々に粉砕し吹っ飛んだ。
ベルゼブブは残った胴体を余すことなく蹂躙していった。
『か、影山……この状況を見て俺はお前を信じきれない。だから俺達と一緒に王宮に戻ってくれないか。王宮には嘘を見抜くスキル者がいる。その人に見て貰ってもいいだろうか』
『……ああ、それで構わない。それで俺の疑いが晴れるなら、言う通りにしよう』
「……ブルルル」
「アー、お前まだいたのか」
戦意喪失しているギガントホーンを見据えたベルゼブブは、静かに獲物へ近づいていく。
結局、ベルゼブブはあっという間に5体のモンスターを蹂躙してしまった。
「フー、ゴチソウサマ。もういいぜ、アキラ」
『なんだ、もういいのか?』
「アア、新鮮な肉も鱈腹喰えたし、満足だ。お前もそうだろ?」
『まぁな。飢餓感も無くなった』
「考え事は纏まったか?オレ様の食事中は、上の空って感じだったけどよ」
『ああ、大体わな』
「そうか……じゃあ替わるぞ」
身体の支配が俺に戻り、外見も元通りになる。
首をコキコキと鳴らすと、俺はふぅーと短く息を吐いた。
「……」
あの後、俺は神崎とハーレムグループに監視されながら――遠藤達の死体はアイテムポーチに仕舞った――王宮へと帰り着いた。
そして、嘘を見抜くスキル者とやらに尋問された後、無実が証明され疑いが晴れて無事返される。
たがそれでも、神崎以外のハーレムメンバーは俺の事を最後まで怪しんでいたけど。
まぁいいか、これで心置きなく出歩けるのだから。
「考え事ですか?」
「……いや、大丈夫だ。先に進むぞ」
「はい」
西園寺の問いに短く返した俺は、新階層に足を運ぶ。
(待ってろ、嫉妬の魔王)
当初の目的は、俺に【共存】スキルなんかを与えやがった神って奴に一発ぶん殴ることだった。
だがその前に、別の目的が出来た。
遠藤達を嗾しかけた嫉妬の魔王を。
必ず探し出して、ぶち殺してやる。
その為に、俺はもっと強くならなきゃならない。
「まずはダンジョン制覇だ」
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