第42話すまない

 




『あの甘ちゃンなアキラがここまで怒りの感情を出すとはな……』


『意識が繋がってるオレ様には分かる』


『外面には出してねぇが、アキラの心は今、途方も無い怒りで埋め尽くされてやがる』


『憤怒の熱が、激流となってオレ様を焼き尽くそうとしてやがる』


「ナイフ」

「カゲ……ヤマ、嫉妬……しネ』


『もう、あのガキを殺すまでオレ様の声も聞こえねぇだろうな。本当に、お前は面白い主人様だぜ、アキラ』


 俺の所為じゃないのかもしれない。

 でも、野間、川口、田中、そして遠藤。

 一応謝っておく。


「すまない」


 俺は“化物”に向かって駆け出した。



 ◇



 地面を蹴り、全速力で遠藤との距離を潰す。

 纏ったナイフを上段から叩きつけるように振り下ろした。


 ――ガキンッと金属音が木霊し、俺が繰り出した斬撃を受け止められた。

 遠藤の左腕は、俺のナイフと同じ形をしている。

 勝手にパクってんじゃねーぞ。


「ギヒャア』

「ぐっ!!」


 胸から射出された数本の触手による奇襲。

 咄嗟に黒スライムを纏って胴体を貫かれることは免れたが、衝撃によって強引に弾き飛ばされてしまう。

 態勢を立て直そうとすると、間髪入れずに触手による追撃が襲いかかってきた。


 俺は触手の軌道を見極め、躱し、斬り裂いてゆく。だが如何せん、触手の手数が多過ぎる。斬っても斬っても止まる気配が無く、防戦一方を強いられてしまっていた。

 スタミナの消費が激しく、このままでは先にガス欠するのは俺の方だ。


「はぁ……はぁ……クソッタレッ」

『オレ様が手を貸してやろうか?』

「いらねぇよ。遠藤は俺の手で殺す。例えそれで俺が死ぬ羽目になってもな!!」

『ハッ!言うじゃねえか!!』


 と強がりを言ってみるが、まずはこの状況を打破しなければならない。

 俺は腰から蜘蛛糸を後方の地面に付着させ、伸縮移動で一気に距離を取る。


 追尾してくる触手。

 俺は蜘蛛糸による伸縮移動を駆使し、上下左右複雑に移動することで、遠藤の触手をギリギリで躱してゆく。


 そして――


「ナイフ」

「――ギィィヤァァァァアアアアッ!!!』


 遠藤の背後を取り、残っている片腕をナイフで斬り落とした。

 たまらず呻き、絶叫を上げる遠藤。

 のたうち回る彼の周りで、触手が暴れ出す。


 俺も無事ではない。

 触手を躱しきれず、身体の至る所から血が出ている。額や頬からも血が流れているのが分かる。


「イタイ……イダィ、イダァィィィィイイイイ!!』

「……」

「イヤ、だ……シニたく、ない。ナンでオレが、ナンで影やま……が。シネ、シネェ』

「遠藤……」


 俺はお前の事が好きでも嫌いでもない。

 “迷惑な奴”、ただそれだけだった。

 殺したいなんて露程も思っちゃいなかった。


 だが、今は違う。

 “俺の為に”、そして“遠藤の為に”。

 俺はお前を殺そう。


「蜘蛛糸」

「やめろ、ヤメロォォォオオオッ!!』


 濁声を喚き散らしながら、遠藤の黒い身体から無数の触手が強襲してくる。

 俺は蜘蛛糸で躱し、距離を詰めていく。

 上空から蜘蛛糸を遠藤の頭に付着させ、肉薄した。


「カゲヤマァァァァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!』


「ニードル」


 貫く。

 黒い長針を纏った右腕で、遠藤の胸元を刺突した。


「がはっ……』


 大量の血を吐いた遠藤が、背中からドサリと倒れ、徐々に身体が人間に戻っていく。

 俺も彼に馬乗りになって長針を貫いた状態のままで……。


「影……山……」

「何だ」

「謝って、済む話じゃ、ねえが……」

「……」

「悪……かっ……」


 言葉は終わらず。

 涙を流す遠藤の身体から力が抜け、瞳から生気が失った。


 …………。


「謝罪の言葉くらい、最後まで言えよ……馬鹿野郎ッ」


 文句を告げる。

 これぐらいは、言ってもいいよな。

 そして、俺が遠藤の身体から退こうしたその時――


「何やってんだ、お前ッ!!」

「!?」


 怒声がした方角へ顔を向ける。

 するとそこには【勇者】神崎勇人とハーレムグループがいて、戦慄した表情で俺を、この惨状を見つめていた。


「ひっ……!!」

「死んでるわ、全員」

「貴様がやったのか……」

「お前……影山君?影山君なのか?お前がクラスメイトを殺したのか!?なあ“影山”、答えろ!!」


 見たことない剣幕の神崎の問いに、俺が出した答えは――。

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