第41話ぶっ殺してやる

 




「おい……遠藤……」

「お前、どうなっちまったんだよ……」

「ギヒ?』

「ひっ!?」


 田中、川口、野間の三人が、変わり果てた遠藤ともの姿を見て絶句する。

 彼等が茫然としていると、化物と変貌した遠藤が野間を視界に捉えた。


「ギヒッ!!』

「――うご!!」

「「野間ぁぁ!!」」

「遠藤……なん……で……」


 反応する間もない出来事だった。

 黒い身体から触手のようなモノがギュンっと4本伸び、一瞬で野間の身体を串刺しにしてしまった。

 確認しなくても理解できた。

 野間はもう、死んでいる。


 おいおい……今の攻撃といい、あの禍々しい風貌といい、魔王の力と似てるじゃねえかッ。


「おい遠藤、テメェ!!」

「嫌だ……死にたくねぇ、俺は死にたくねぇ!!」

「ギヒヒヒヒヒッ』

『動けアキラ。あの二人が死ぬぞ』

「言われなくても分かってるッ!!」


 野間の死に田中は激昂し、川口は怯えてしまっている。

 二人は俺が戦闘不能にしたので、戦うことも逃げることも厳しい。

 化物となった遠藤はその二人を標的にしている。見過ごすことは出来ない、俺が遠藤を止めなくては。


「ナイフ、蜘蛛糸」

「ギヒッ』

「――ッ!?」


 右腕にナイフを纏い、蜘蛛糸の伸縮移動で接近を計るが、黒い触手が唸りを上げて迫って来る。

 咄嗟にナイフで断ち切るが、接近を阻まれてしまった。

 その隙に、遠藤が前傾姿勢のまま川口に向かって行く。


「ひぃぃぃ!!」

「やめろ遠藤ぉぉおおお!!」

「蜘蛛糸」


 田中が両手を掲げ、スキルを発動する。

 石飛礫の嵐が遠藤を強襲。その間に、俺もすかさず距離を詰めた。

 だが――遠藤は止まらない。


「ギヒャャ!!』

「遠藤、やめ――!!」


 石飛礫を受けているにも関わらず、遠藤は静止しなかった。迫る勢いのまま拳を振り上げ、川口の悲鳴を黙らせる。


 グシャリ……と。


 川口の顔が潰された。


「――川口ぃぃぃッ!!」

「ここッ」

「ギヒッ!?』


 川口に意識が向いている隙に肉薄し、ナイフを振るって遠藤の右腕を肩から斬り落とす。

 だがここで安堵してはいけない。畳み掛ける。


「ハンマー!!」

「ウゴッ』


 十指を組み、ハンマーを纏う。

 野球バットを振るように、身体を回転させて遠藤の横っ腹を打ち抜いた。

 奴は吹っ飛ぶと、ゴロゴロと地面を横転する。


「そんな……川口まで……」

「立て田中!立って構えるか、それが出来なきゃ逃げろ!」

「うるせぇ!大体テメェの所為じゃねえか……影山がいなかったら遠藤もおかしくならなかった、あんな化物にならなかったッ。野間も川口も死なずに済んだんだ!全部テメェが悪ぃんだよッ!!」


 おいマジかよ。

 ここで俺の所為にするのか?

 どっちかって言うと俺はお前等に因縁を付けられて殺されそうになった被害者なんだけどな。

 でもポロポロと涙を流して慟哭する田中を見ていると、とてもそんな言葉は言えない。


「なぁ遠藤……もうこんな奴放って置いてよ、早く帰ろうぜ。今ならまだ野間も川口も助かるかもしれねぇじゃねえか……」

「ギヒ』

「なぁ、遠藤……」

「それ以上近付くな、田中!!」


 田中がヨロヨロと遠藤に歩んで行く。

 呼び止めるが、彼は耳を貸さない。


 あの化物じょうたいの遠藤になっても声を掛け続ける田中。

 そうか……田中は遠藤と同じ野球部。奴との繋がりも深いのかもしれない。

 だから、元に戻って欲しいんだ。

 帰ってきて欲しいんだ。


「タ……ナカ……』

「俺が分かるのか!?遠藤……俺だよ……!!」


 虫の顔から遠藤の顔が浮かび上がり、苦しそうに田中の名を呼ぶ。

 もしかして、意識が戻ったのか?


「なぁ……遠藤ぅ――ガハッ……」

「ギヒ、ギヒヒ、ギヒヒヒヒヒヒ』


 遠藤の手刀が、田中の腹部を貫く。


「え……ん藤……」


 ドサリと、吐血する田中は遠藤にもたれるように倒れた。

 友をその手で殺した遠藤は、友の亡骸を、纏わりつく蝿の如く振り払った。


「シネ……シネ……ミンナ、カゲヤマ……シネ』

「…………」


 ギリっと、強く拳を握り締める。


「なぁベルゼブブ」


 遠藤の姿を見て薄々は勘付いてるんだが、アレはおまつの大罪えらが絡んでるよな。


『アア。この臭い、間違いねぇ、これは大罪が関わってるぜ。今回みたいなタチが悪ぃ遊びをするのは、嫉妬レヴィアタンだろうな』


 嫉妬の魔王……絵本にあった人魚か。

 どうしてレヴィアタンって魔王が遠藤に関わってんだよ。


『さあな。アイツは大罪おれらの中でも一番面倒で狂ってる。何故奴がこんな真似をしたかまでは推測できねぇが、遊びたかったんだろうよ、アキラと』


 遊び?遊びだとッ?

 ……まあいい。

 何故俺なんだ。俺は嫉妬の魔王なんかと会った覚えなんて一度も無いぞ。


『いや、ある。巨乳チビと買い物した時、魔女の格好をしている女と話したろ。恐らくアイツがレヴィアタンだ』


 あの女か……何故その時教えなかった。


『オレ様も久しぶり過ぎてその時は気付かなかっただけだ。ただヤベェ奴って事だけはハッキリ分かったがな。あのガキから漂ってくる悪臭で、ようやく今思い出した』


 そうか。


『アア』


 血が滴る。

 拳を握る力が、無意識に強くなっていた。


「じゃあ遠藤は俺の所為で化物にされて、野間と川口と田中も俺の所為で死んだのか」


『それは違うぜ、アキラ。あのガキは最初からお前を目の敵にしていた。その感情に目を付けられてレヴィアタンに唆されたのかもしれねぇが、実行に移したのはガキの意思だ。他の三人も、それに簡単に乗っかった。お前はただの被害者だろーが』


「……まぁいい。とりあえずこの状況をどうにかする」


『どうにかするって、どうすンだ?』


「遠藤を殺す」


 そして、


「レヴィアタンって奴にも落とし前を付ける。次に会ったらぶっ殺してやる」

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