第33話怖い怖い怖い怖い
二十階層の階層主、キラーアントクイーンを倒した俺と西園寺は王宮に帰還し、ドロップアイテムを換金した後、それぞれ自分の部屋に戻った。
俺は体を洗い流し、食堂へ向かうと周りがヒくぐらいご飯をたらふく食べる。
度重なる戦闘と、命懸けの階層主との戦いで体力を消費しきっていてすげー腹減ってたからな。皿の山を積み重ねて完食すると、部屋に戻って死んだように眠った。
そして次の日。
昨日の疲労が回復しきってなかったのか、昼まで爆睡していた俺は腹が減って目が醒める。昨日の晩御飯であれだけ食ったのに、もう腹が空いていた。
キラーアントクイーンに負わされた傷が全快している事から、もしかすると飯のエネルギーが全てそちらに回ってるかもしれない。
飯食って怪我が治るって……俺の身体はギャグ漫画かよっと胸中でため息をついた。もう確実に人間の身体じゃねえな。
真っ直ぐに食堂に向かう。
食堂のおばちゃんに会うと、「また来やがったよこいつ」みたいな視線を送られてしまった。今までと、昨日の件で面倒臭い客認定されちまったようだ。俺の食う量は半端ないから、作る方も大変なんだよな。
すいません。
申し訳ないと思いながら、やはり大量に注文を頼む。
「毎度毎度、すいません」
「作るのは大変だけど、ちゃんとお金も払って貰ってるからね。文句なんて言わないよ。それに、アンタの食いっぷりは見ていて気持ちいいからね」
「そう言ってもらえると、ありがたいです」
仕方ないね~という風に笑顔を浮かべるおばちゃん。懐が大きくてマジ感謝。今度おばちゃんを含めた厨房の皆さんに差し入れを送ろうと心に決める。
「ここ、いいかい?」
「おう、いいよ」
とりあえず出来た分だけトレーに乗せ、席に座って食べていると佐倉が声を掛けてきた。彼女は俺の前の席に座ると、気軽に話しかけてくる。
「調子はどうだい?」
「モグモグ、昨日二十階層の階層主を倒してきた」
「に、二十階層の階層主!?幾らなんでも早すぎないか!?」
驚愕する佐倉に、俺は口の中の食べ物を水で流し込んでから内容を付け足す。
「俺一人だけじゃないけどな。西園寺も一緒だったし」
「…………何で彼女と君が一緒なんだ?」
(……怖っ!!)
西園寺の名前を出しただけで、佐倉の表情が一瞬で『無』になる。声色も、底冷えるような低いものだった。
以前にも違和感を覚えたが、こいつ西園寺のこと露骨に敵視してるだろ。二人の間に何の因縁があるのか気になるが、怖くて聞けない……。
「俺も理由は知らないけど、あいつが勝手に付いてきたんだ。まぁ、二十階層の階層主に勝てたのは西園寺の力だから、結果的に付いてきてくれて良かったけどよ」
「何故あの女が影山と……」
怖い怖い怖い怖い……。
小さい声音でブツブツ言うの怖いよ佐倉さん。表情には出てないけど、背後にゴゴゴゴゴッ!!って効果音が見えてるよ。
このままではマズい。俺に飛び火が来る前に話題を変えよう。
「さ、佐倉はどうなんだ?委員長達と上手くいってるのか」
「ボク等は十二階層を攻略している最中だ。ブラックオークキングの件があったからね。慎重に慎重を重ねているよ。たった数日で二十階層を制覇する君が常軌を逸しているんだ」
ジロリと睨むように見てくる佐倉に、あははと笑って誤魔化す。
「そうか……戦いたくないって奴は出なかったか?」
「最初はいたけど、委員長が説得したら少しずつまた参加し出したよ。あの化物と会って、戦意を削がれる気持ちは良く分かる。ボクだってダンジョンに入るのが恐かった。でも、王宮に引きこもっても仕方ないからね」
「それなら安心だ」
『男より女の方が気が強いのはどの世界でも一緒か』
頭の中に響いてくるベルゼブブの言葉に、違いないと胸中で頷く。
それにしても、委員長は本当に凄いな。心に植えられたブラックオークキングの恐怖と立ち向かうのは相当難しかっただろう。なのに全員復帰させてしまうなんて……彼女は【神官】というより、【聖母】の方が似合うんじゃないか?
と、委員長の事を考えていたら再び佐倉がメガネ越しに厳しい目線を送ってくる。
「今、誰のことを考えていたんだい?」
「別に、ダレノコトモカンガエテナイヨ……」
『どの世界の女も勘は鋭いンだな』
ああ、俺もそう思うよ。
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