第30話当たり前ですわ

 




 ――ダンジョン十八階層。

 この階層は出現するモンスターの種類は同じで、一度に遭遇する数が五体に増える。

 大体は俺一人で戦い、梃子摺っているようだったら西園寺が加勢してくれる。あとはウルフキングが気紛れに狩っていた。


「「クエェ!」」

「グルル」

「クカカ」

「ゥゥゥ」


 レッドバードが二体、グリズリーが一体、キラーアントが一体、ゴーストが一体のモンスター達と遭遇する。

 横目で確認すると、西園寺は様子見をするみたいだ。ウルフキングは暇そうに欠伸をしている。

 よし、とりあえず一人で頑張ってみるか。


「グロウニードル」


 まずは邪魔なゴーストだ。右腕に長針を纏い、射出して浮いているゴーストの胸を穿つ。名前にグロウびるを付け加えたことで、よりイメージが洗練され射程距離と速度も格段に上昇した。


「蜘蛛糸、ナイフ」

「グルァ!?」


 左手から黒糸を発射し、空中移動しながら右腕にナイフを纏ってグリズリーの右脚を切断する。熊公は痛ましい悲鳴を上げながら、ガクンッと地面に崩れる。

 動きを止めたのでトドメを刺そうかと思案するが、その前に蟻を駆除しよう。


「ニードル」

「ク……カ……」


 右足からスルスルと影を伸ばすように黒スライムをキラーアントの真下に潜り込ませる。真下の位置からシュッと針を真上に向けて射出し、キラーアントの細い首を貫いた。

 蟻の頭と胴体を真っ二つにして屠ると、匍匐前進しながら迫ってくるグリズリーに肉薄し、ナイフで首を掻っ切った。



『ウマイ、今のは中々良かったンじゃねえか』

「ありがとよ」


 お褒めの言葉を頂いたので素直に受け取る。

 地面を這うように黒スライムを移動させ、相手に攻撃を悟られぬ内に急所を一突き。かなり繊細で集中力を使うが、力の扱いに慣れてきた今なら可能だと思い試してみらたら意外と出来た。


 それにベルゼブブ、新しい使い方はまだあるぞ。


「アロー」


 ブクブクと黒スライムを溢れさせ、凝固し、左腕に長弓を纏う。弓というよりは、パチンコ、又は弩弓に形が似ている。

 俺はそこら辺の拳大の石を拾い、弓に引っ掛けて狙いを絞った。


 弓矢のように右手で引かず、黒スライムを操って限界まで引き絞る。俺が人間の力で引くより、黒スライムの異形の力で引いた方が圧倒的に威力が増すからだ。

 西園寺に嫌がらせするように火球を放っているレッドバードの一体に向けて、射る。


 ヒュンッと、風を切る音が鳴り響き、空気を裂きながら飛来する石が火鳥の頭をパァンと木っ端微塵に粉砕した。

 続けて俺はもう一度石を拾い、長弓に再装填する。ギリギリと引き絞り、再び放つと最後のレッドバードも胴体が消し飛んだ。


 うん、中々の速度と破壊力だ。これなら十分遠距離の敵とも戦えるな。

 新しい技に満足していると、頭の中でベルゼブブがほう……と驚いている。


『弓か、それに威力もある。イイアイデアだ、アキラ』

「さっき散々駄目出しされたからな、ずっと何か良い方法がないか考えてたんだ」


 それで新しく生み出したのが、長弓である。黒スライムの性質上、伸ばすことは出来ても飛ばすことは不可能なので、ならばそれに代わる物を飛ばす武器は何だろうと戦いながら熟考して編み出したのだ。


「お見事ですわ、これからも頑張って下さいまし」

「おお」


 西園寺もご機嫌だ。側に控えているウルフキングも「まぁまぁだな……」という顔を浮かべているし、グリズリーはポムポムと拍手してくれている。


 何だお前ら可愛いとこあるじゃねえか。




 ――ダンジョン十九階層。

 この階層で出現するモンスターの数は前と同じく五体だが、新たにギガントホーンという二足歩行の牛が追加される。ドロップアイテムは『ギガントホーンの角』だ。


 このモンスターは物理攻撃力、俊敏力は高いが知能が低い。猪突猛進というか、敵を発見したら真っ直ぐに突進してくる。分かりやすいモンスターである。

 しかし、そんなモンスターも二体、三体いれば厄介なのは間違いない。というか、一気に迫ってくる絵面が迫力満点で怖すぎる。


「「「ブルルルルッ」」」

「「グルルルッ」」

「壮観だな」


 ギガントホーン三体にグリズリーが二体。

 これだけ巨体モンスターが並ぶと圧巻の光景だ。対面すると、圧が凄い。

 さて……どう戦うか。もし西園寺の方に向かっても側で控えているらウルフキングが蹴散らすのでそちらは無視しよう。俺は目の前敵だけに集中するだけだ。


「「ブルルル!」」

「グルァ!」


 ギガントホーン二体とグリズリー1体が俺の方へ、残りの2体は西園寺へ向かった。

 ドッドッドッドッドッと地鳴らしをしながら凄まじい勢いで突進してくるギガントホーン二体に、追随するグリズリー。

 俺は蜘蛛糸で、進路を大きく移動し突進を回避する。さらに蜘蛛糸をグリズリーの背中に付着させ、収縮移動で背中に乗った。


「グガ?」

「「ブル!!」」


 グリズリーは背中に乗っている俺を発見出来ずポカンと辺りを見回すが、ギガントホーンは俺の姿を捉えていた。そして、グリズリーへと猛進する。


「グガァ……」

「グリズリーがあんな吹っ飛ぶのか……」


 ギガントホーン二体の同時タックルが直撃し、グリズリーは衝撃で吹っ飛んだ。その威力は凄まじく、巨体なグリズリーが大きく吹っ飛ばされて意識を完全に失っている。

 勿論俺は、タックルされる前に蜘蛛糸で移動し回避していた。


「「ブルルル!!」」

「蜘蛛糸!」


 ギガントホーン達が再び鼻を鳴らしながら突っ込んでくる。奴等の機動力は素早く、突進している最中に攻撃するのは難しかった。というか、人間の本能的に怖がってしまう。

 ならば、動きそのものを止めてしまえばいい。


 俺は蜘蛛糸を発射する。ただしこれは移動用ではなく攻撃用の糸だ。黒糸を操り、眼前の足下にロープをピンと張る。

 ギガントホーンが接近する直前、俺は蜘蛛糸で回避した。だが奴等は急に止まることが出来ない。するとどうなるか……。


「「ブモッ!?」」


 ギガントホーン達はロープに脚が引っ掛かり、盛大に転げ回った。俺はすかさず黒糸で接近する。

 立ち上がろうする奴等の無防備な首を、右腕に纏ったナイフで掻っ切った。


「「ブモォォ……」」

「お、アイテムゲット」


 絶命した奴等は燐光となって消滅すると、『ギガントホーンの角』が二つドロップした。

 一先ず俺の戦闘は終了。アイテムを拾いながら横目で西園寺を確認すると、案の定俺より早く終わらせて退屈そうに待っていた。ウルフキング、強過ぎだろ……。


 それから俺達は幾度か戦闘をこなし、遂に二十階層へ下りる道にたどり着いたのだ。


「さて、どうするか……」


 二十階層へと続く道を見ながら、ふと呟く。

 今日は一旦は戻るか、それともチャレンジするか。俺的には、怪我という怪我もしていないし挑戦してもいいと思ってる。

 だが、それには一つ懸念があった……。


「何を立ち止まっていますの?早く行きますわよ」

「西園寺、お前も一緒に行く気なのか?」


 そう、西園寺も一緒に行く気なのだ。ていうかこいつ、もう二十階層は一度クリアしてるんだから、俺と行く意味あるのか?

 そもそも、何で今まで俺に付いてきたのかも謎だしな。【支配者】スキルを自分のモノにしたのだから、さっさと神崎の所に戻ればいいのに。


「当たり前ですわ」

「いやでも、俺と行くと結構危険だぞ。死ぬ可能性だってあるんだ」


【共存】スキルの弊害で、俺には無理難題な試練が襲いかかる。またブラックが付く上位種の階層主が現れる可能性もあるんだ。

 そうなった場合、俺は100%勝てる自信がない。現時点でも、ブラックオークキングと再び戦ってもきっと負けるだろう。


 だから、俺は死の危険が高いとあらかじめ分かっている場所に西園寺を連れて行く気はないんだ。

 諦めさせる為にどう説得しようか悩んでいると、ベルゼブブが頭の中で提案してくる。


『いいじゃねえかアキラ、この女を連れていけ』

(俺の強さじゃ、いざという時西園寺を助けらんねえんだ。そんな無責任なこと出来るかよ)

『普通の階層ならまだしも、階層主に何度も上位種は現れねえよ。それに、あの女を守りながら勝ってやるぐらいの気概をつけろ。アキラは臆病過ぎるンだ』


 何度も死にそうになってんだから、そりゃ臆病にもなるだろーよ。意外にもベルゼブブが強く推してくるので、俺は仕方なねーなとため息を吐いた。


「分かった、行こう」

「決断が遅いですわ、愚鈍ですわね」

「はいはい、すいません」

「はいは一回」

「……はい」


 お前は俺の母さんか。

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