第29話キレる理由がねえ

 





 ――ダンジョン十五階層。

 何故かまた勝手について来ている西園寺と、十一階層で合流したグリズリーとつつがなく進んでいる。

 すると、突然西園寺が「来なさい!」と叫んだ。

 その数秒後、颯爽とウルフキングが駆け寄ってきて西園寺に傅く。


 その異様な光景を目にして喫驚した。

 グリズリーの時にも疑問を抱いたが、一度ダンジョンを出たのにまだ【支配者】スキルの影響を受けているのか。

 そこん所どーなんだ、ベルゼブブ。


『オレ様も知らねえ。だが、力が強くねえとここまで干渉するのは無理だ』


 じゃあやっぱり、西園寺の【支配者】スキルが相当強いんだな。マジひくわー。


「では、行きましょうか」

「……はい」


 グリズリー、ウルフキング、そして俺を率いた西園寺は、何となく楽しそうにダンジョンを進んでいく。



 ――ダンジョン十六階層。

 この階層で出現するモンスターは十五階層と同じで一度に出現するモンスターが四体となる。

 流石にグリズリーやキラーアントといったモンスターと一度に四体も相手をするのは骨が折れるな。西園寺がいてくれて助かるわ。


「グルル」

「クカカ」

「ヴヴヴ」


 グリズリー1、キラーアント2、ゴースト1と遭遇する。グリズリーとゴーストは俺の方に、キラーアント二体は西園寺パーティーにそれぞれ襲いかかった。


「ニードル、伸びろ」

「ヴヴ!?」


 右手に長く鋭い針を纏い、浮かんでいるゴーストに狙いをつける。発射すると、針は猛烈な勢いで伸びてゴーストを真正面から射抜いた。

 奴の攻撃は厄介だからな、早めに倒しておいた方がいい。


「ガァアア!」

「ナイフ」


 グリズリーの殴打を身を屈めながら躱し、懐に侵入して胸を一突き。薙ぎながら抜き取ると、グリズリーは前のめりに倒れた。

 ゴーストはお金を、グリズリーは肉をドロップする。ラッキー。

 さて、西園寺の方は……。


「よくやりましたわ。まぁキングなのですから当たり前ですわね」

「ガルルル……」


 ウルフキングがキラーアントを瞬殺していた。珍しく西園寺が褒めると、狼王は当然だと言わんばかりな態度な様子。

 それを横で見ていたグリズリーは羨ましそうに手を咥えていた。

 ……なんか余裕あんな。



 ――ダンジョン十七階層。

 この階層で出現する数は四体で、新しくレッドバードという真っ赤な鳥モンスターが追加される。ドロップするアイテムは『レッドバードの皮膜』だ。

 レッドバードは、戦ってきたモンスターの中で初めて遠距離攻撃を行ってくる。口から、火の玉を放ってくるのだ。

 えっ、ゴーストがいるじゃん?奴は物理攻撃じゃないのでノーカウントだ。


「「クエェェェ!!」」

「全部お前等かよ」


 レッドバードが同時に四体も現れた。この数で出現するモンスターが全て同じなのは珍しい。

 レッドバードは高い位置で旋回していると、一斉に火の玉を放ってきた。


 なので俺は、身体から黒スライムを出して傘を創り、自身を覆って火球を防ぐ。西園寺に向かっていった火球は、グリズリーが身を呈して守っていた。献身的で泣けてきそうだ。


「蜘蛛糸、ナイフ」

「クエッ!?」


 左手から黒糸を放出し、空を舞う一匹のレッドバードに付着させる。収縮し、引っ張られる赤鳥の首をナイフで刎ねた。

 まずは一匹。


「クエェェェ!!」

「蜘蛛糸」

「クエ!」

「躱された!?」


 俺を無視し、西園寺に迫るレッドバードを捕まえるため黒糸を発射したのだが、身体を捻られ回避されてしまった。

 ちっ……そう上手くは行かないか。


「ガルァァ!!」

「グエェェ……」


 疾風迅雷の如く、ウルフキングは接近するレッドバードへ駆けながら高く跳躍し、鋭い爪で胴体を切り裂いた。

 疾く、強い。

 キングモンスターにとって、雑魚モンスターと戦うなど児戯に等しい。マジでこんな化物を仲間にしちゃう西園寺さんパネェわ。


 後残り二体。

 しかし奴等は高くから火球を放ってくるだけで全然近寄って来ない。蜘蛛糸で捕まえようとしても、距離があるため容易に躱されてしまう。

 こういう時、遠距離攻撃が可能な仲間が居てくれたらと無い物ねだりをしてしまう。俺の黒スライムは近距離と中距離がメインで、遠距離攻撃は難しいからな。


 どう倒そうか戸惑っていると、じれったそうに怒りを露わにした西園寺がドンッと俺を押し退ける。


「こんな雑魚に何をチンタラしていますの!そこの駄鳥、もう一体に突撃しなさい!!」

「クエ!!」

「クエ!?」


 西園寺が指し示しながら命令をすると、二体の中の一体が突如仲間へと激突する。衝撃によってふらふらっと地面に落ちてきた。

 こいつ、強制テイムして同士討ちさせたよ……そんなん有りか。


「何をしてますの、さっさと終わらせなさい」

「あ、はい」


 素直に頷いてしまった俺は、ハンマーを出して両方いっぺんに叩きつける。燐光となって消滅し、『レッドバードの皮膜』が一つドロップした。

 アイテムを拾っていると、いつの間にかグリズリーの背に乗っていた西園寺が冷たい眼差しで口を開く。


「たく、使えない愚図ですわね」

「……」


 ベルゼブブさん、今回はキレないんですか?


『あの女の言う通りだからな。キレる理由がねえ』


 そうですか。

 ベルゼブブも俺の戦い方は愚図だと言うんですね。

 それにしても何だろ……西園寺の見下した視線を受けていると、背中がゾクゾクするな。

 Mに目覚めた訳でないけど、ほんの少しだけMの気持ちが理解できた。

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