第28話逆恨みじゃん

 





 ダンジョンに入る前の事だった。

 俺は突然ある連中に囲まれてしまう。


「影山ぁ、話しがある。ちょっとツラ貸せよ」

「お前等が、俺に?」


 突如剣呑な雰囲気で絡んできたのは、意外にも九頭原ではなくE組の男子生徒だった。なので少し動揺してしまう。

 1、2……全部で十人か。多くね?

 俺は囚人のような扱いを受けながら、ダンジョン一階層に連れて来られた。


「お前さ、最近調子乗ってね?」

「は?」


 言っている意味が分からなくてつい声が漏れてしまった。

 俺の何が調子に乗ってるんだ?

 今までこいつ等とは一切関わりがなかった筈だ。因縁をつけられる覚えは全くない。

 男子生徒を代表して話してくるのは確か野球部の遠藤 隆司だ。坊主頭が印象だったけど、今は少し伸びている。


「影山、女子と仲良いよな」

「仲……いいのか?」


 普通に会話してるだけだが。


「佐倉や委員長だけじゃなくてよ、黒沢達にまで色目使ってるじゃねえか」

「そ、それだけじゃないぞ!こいつ、A組の西園寺さんとも楽しげに話してた!俺見たんだかんな!」

「待て、訳がわからん。勝手に盛り上がるな」

『ヒハハ、そういう訳か』


 困惑しているとベルゼブブが愉しげに嗤う。何でスキルであるお前の方が理解が早いんだよ。

 おいベルゼブブ、俺は佐倉や黒沢達に色目を使っていたか?


『いや、全く』


 じゃあこいつ等は何でこんなに怒ってんだ。教えてくれ。


『単なる嫉妬だろ。自分達は素っ気なくされてンのに、アキラが女とイチャイチャしてたからムカついてンのさ』


 俺はイチャついてないぞ。


『この餓鬼共にとってはそう見えンだろ』


 マジか……逆恨みじゃん。


「影山の癖に生意気」

「ゴミスキルの分際でよぉ!」

「何で女子はお前とだけ話すんだよ」

「そりゃ、お前等のようにエロい目で見てないからだろ」


 本心を伝えると、男子生徒の大半はギクッと肩を揺らす。その反応をするって事は心当たりがあるんじゃないか。


「そ、それは九頭原のことだろ!?」

「あいつは露骨なだけで、お前等も大して代わんねーよ。これは俺の考えじゃなくて、実際に女子達が言ってたことだぞ」

「うぐっ……」

「気持ちは分かるけどよ、まずはエロい事とかの打算抜きで接してやれって」

「う、うるせー!役立たずのゴミスキルがイキがってんじゃねーよ!!」


 丁寧にアドバイスしたつもりなのに、何故か遠藤は逆ギレしてしまった。他の男子も睨め付けるような眼差しを向けてくる。


「もういい遠藤、早くやっちまおーぜ。少し痛めつけたら、こいつだってもう女子とは関わんねーだろ」

「そ、そうだな」

「いや、何でそうなる……」

『ヒハハハハハハッ、やっぱり人間は愚かだ』


 おかしい……こんな暴力的な奴等じゃなかった筈だ。

 異世界に転生し、強大な力を手にいれてタガが外れてるのか?

 俺にはこいつ等が、メスを強引に横取りしようとする猿にしか見えない。


「いくぞ」

「あんまり派手にやるなよ」


 あちらさんはやる気満々だ。なら俺も抵抗するしかない。こんな馬鹿げたことで怪我したくねーし、下手したら死ぬ。

 と、その時。

 一触即発の空気を、凛とした気高い声音が切り裂いた。


「貴方達、そこで何をしてますの!」

「さ、西園寺さん!?」


 一瞬で場を制したのは西園寺だった。彼女は金髪縦ロールを靡かせながら歩み寄ってくると、堂々とした振る舞いで告げる。


「まさか生徒同士で争い……なんてことはありませんわよね?」

「そ、それは……」

「助け合うべきの私達が争うなんて言語道断ですわ。どんな理由かは知りませんけど、話し合いで解決なさい」

「……おい遠藤、ここは退こうぜ。彼女や神崎とは敵対したくねえし」

「そうだな。おい影山、話しは終わってねえからな」


 西園寺の鶴の一声に、遠藤達は部が悪いと感じたのか踵を返して去ろうとする。その際、俺に向けて露骨に舌打ちをしてきた。

 男子生徒が全員消えた後、西園寺が心配そうな表情で聞いてきた。


「大丈夫でしたか?」

「ああ、西園寺のお陰だ、ありがとう」

「彼等と、何があったのです?」

「下らない理由だよ」


 内容については敢えて濁す。俺が西園寺に話したことで、万が一にも遠藤達が他の生徒から嫌われることを避けるためだ。

 今はあいつ等も興奮してるけど、ちゃんと話せば解決出来るって信じてる。


『お人好し過ぎじゃねーか、アキラ。奴等は喧嘩を吹っかけてきたンだぞ』


 構わなーよ。争わないことに越した事はない。

 そう言うと、ベルゼブブはつまらなそーな反応をした後黙る。


「そう言えばこれ、約束してたリュックですわ」

「おお、ありがと」


 昨日くれるって言っていたリュックを西園寺から受け取る。

 ん?

 でもこのリュック、前使ってたのよりかなり小さいぞ。首を傾げていたら、説明してくれた。


「このリュックは魔法のリュックですわ。収納アイテム……だったかしら。見た目は小さいけれど、かなりの量が入りますわ」

「へー、すげぇな。でもいいのか、こんな良い物貰って」

「宝箱から出てきたのですわ。私も一つ持ってますし、必要なかったので」


 宝箱……流石最前線で戦ってきたことはある。俺も探索中に何回か宝箱を見つけたが、全部空だったからな。大体は神崎が回収してたんだろう。


「ありがたく受け取らせてもらうよ。ありがとう」

「か、勘違いしないで下さいまし!これは単に余っていただけで……」


 西園寺の言い訳が長かったので、無視して先に進むことにした。

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