Beelzebub～外れスキル【共存】のせいでボッチになったけど暴食の魔王に寄生されてヤンデレハーレムになった件～

第26話お座り

「ガルァァ！！」

「ナイフ」

　強靭な四脚を駆動させ猛進してくるウルフキングに対しナイフを纏って迎え撃つ。跳躍し飛び掛かってくる狼王に真正面から斬撃を繰り出した。

　ガギンッと、牙とナイフがかち合いけたたましい音が鳴り響く。

「ぐっ……！！」

　この犬……重いッ！このままじゃ押し潰される。

　マズイと判断した俺は、背中から蜘蛛糸を発射して地面に付着させ、引っ張られるように後方に下がった。

「ガルルル！」

「ハリセンボン！」

　すかさず追撃してくるウルフキングに、前方に針の膜を出現して待ち構える。真っ直ぐ突っ込んでくる奴にはこの技が一番有効だ。串刺しになっちまえ。

「ガルッ！」

　が、そう上手くはいかない。

　危険を察知したのか、ウルフキングはハリセンボンに触れる寸前、高く跳んで俺を飛び越えた。

「はぁ！？」

「ガルァァ！」

　驚愕している間に背後を取られ、突撃してくる。

　疾いッ……蜘蛛糸じゃ避けきれない。なら逆襲してやる。振り向く勢いを使って、タイミングを計りながらナイフを振るった。

　だか、俺が繰り出した斬撃は空を斬り、奴は横に摺り抜けながら鋭い爪を振って俺の横っ腹を切り裂いた。

「痛ってぇッ！！」

　刺すような痛みが身体に走る。切り裂かれた横っ腹が熱く感じ、血が流れ出ていた。傷は浅いが結構キツい。

　横っ腹を左手で押さえていると、その好機にウルフキングは再び強襲してきた。

　しかも今回は真っ直ぐではなく、左右にジグザグと動いて的を絞らせないようにしている。俺は惑わされないように奴の姿を追い、紙一重で躱した。

　ズドンッと、俺がいた場所の地面が砕け、蜘蛛の巣みたく地割れが起きる。

　蜘蛛糸で距離を大きく取りながら、打開策を考える。

　今まで戦ってきたモンスターの中で一番疾い。

　動きも不規則で次の行動が読み辛いし、その上パワーもある。圧倒される訳ではないが、確実に地力の差は奴の方が優っていた。

　どうする……どう戦えばいいか見当もつかんぞ。

　戦ってみて分かるのは奴は頭も良い。アーマードグリズリーとかブラックオークキングみたくパワー全開の脳筋じゃなかった。

　なら不意を突くしかない。

「ニードル」

　右腕に纏うナイフの形状を長い針に変化させる。その間に狼王が迫ってきた。

　右腕を掲げ、近付いた瞬間、

「伸びろ」

「ガルッ！？」

　俺の黒スライムは伸縮自在だ。

　針の長さを伸ばし、先端がウルフキングの鼻先に迫る。捉えた！と確信したが、奴は頭を捻って間一髪回避した。

　馬鹿野郎、今のも避けんのかよ！！

　慌てる俺は蜘蛛糸で横にその場から離れようとする。しかしウルフキングは進路を変更して何故か蜘蛛糸の先に向かった。

　ヤバい、このまま移動したらタイミング良く襲われてしまう。なので一旦蜘蛛糸を引っ込めようとしたら、何を思ったのかウルフキングは大きな口で蜘蛛糸に噛み付き、

「ガルルルルルァァァァアアアア！！」

「うぉぉ！？」

　思っきりぶん回した。

　引っ張られる俺は身体と視界が逆さまになり、そのまま壁に強く叩きつけられた。

「がはっ……」

　脳が揺れ、身体に衝撃が走り、無理矢理空気を吐き出された。血も出てないし多分骨折もしてないけど、滅茶苦茶痛い。こういう時思うのは、ベルゼブブに寄生されて身体が頑丈になってなかったらとっくに死んでたってことだ。

「ガルァ！！」

「糞っ……たれぇぇ！ハリセンボン！！」

　弱っている獲物にトドメを刺すべく迫ってくるウルフキングにもう一度ハリセンボンを発現して迎え撃つ。

　今回はさっきと違って、背後が壁だから飛び越えることは不可能だ。俺も逃げ場がないが、逃げる必要はない。

　なのにウルフキングは速度を全く落とさず突っ込んで来る。どんな意図か知らないが、このままいげば俺の勝ちだ。

　その安易な発想は、瞬時に打ち砕かれてしまう。

「ガァァアアアア！！」

「ぐっ……おおお！！」

　直前で止まった狼王は、大地を震撼するような咆哮を飛ばした。

　それは物理を持った衝撃波となり、ハリセンボンに閉じ籠っている俺へ容赦なく襲いかかる。

　重いッ……必死で踏ん張っているが、吹っ飛ばされそうだ。

「……んの野郎ッ」

　歯を喰いしばり、衝撃波を耐える。

　ここは耐え時だ、奴が咆哮を止めた瞬間を狙ってやる。

　五秒……十秒、体感では五分以上も耐えている気がするけど、実際は一分足らずだろう。

　兎に角耐えきり、衝撃波が止んだ。

　今度は俺の番だ。

「蟻地獄」

　足から細くて頑丈な黒糸を伸ばし、気付かれないようにウルフキングの脚に絡みつく。

「ガルッ！？」

「うぐ……逃がさねぇよ」

　捕らえられてしまったと察したウルフキングは黒糸を外そうと暴れるが、地面に黒スライムを付着して固定し、踏ん張ってその場に留まらせる。さらに奴の地面に黒スライムを展開し、泥池のような中から何本もの黒糸が胴体に巻き付いて動きを封じた。

　まだ終わりじゃねえぞ。

　俺は両手を広げる。するとウルフキングを挟む位置に、泥池の中から半分に割かれた女の銅像が這い出てきた。

　その銅像の片面には、鋭い針が数え切れないほど出ていた。

「アイアンメイデン！！」

　言葉を発しながらパンッと広げていた両手を閉じる。刹那、銅像は滑るように横へ移動して雁字搦めのウルフキングを閉じ込めた。

「ガルァァァァアアアアアアアアッ！！」

　悲鳴が鳴り響く。女の銅像から、夥しい血が溢れていた。

「終わったか……」

　幾ら中ボスでも、あの量の針に挟まれたらひとたまりも無いだろう。流石に倒れたか……と思っていると、パァンと銅像が弾けた。

「ガ……ルルル」

「おいおい嘘だろ……あれ喰らってまだ死んでねえのかよ」

　ウルフキングは生きていた。全身から血が流れていても、気高く毅然と立っている。

　クッソ、まだやるのかよ。こっちはもう満身創痍だぞ。

　と内心で愚痴っているが、どうやら奴も俺と同じく体力を消耗しているらしい。呼吸が荒く、満足に動ける様子では無かった。

　なら決着をつけてやる。

　走るのはおろか歩くのだって厳しいが、俺には蜘蛛糸の移動手段がある。接近してナイフで斬り刻んでやるよ。

　あんだけ好き勝手にやられたんだ、直接トドメを刺さないと気が済まねえ。

　と意気込んでナイフを纏おうとしたら、俺達の闘いに水を刺す奴が現れた。この場には俺の他に一人しかいない。なら必然的にそいつになる。

「何してんだ、西園寺」

「貴方は少し休んでて下さいな、後はわたくしがやりますわ」

　俺の眼前に立つのは西園寺だった。側には一体のグリズリーが控えている。何だこいつ、急に邪魔しやがって。ここからが本当の勝負なのによ。

「お前一人で何が出来る。危ねえから下がってろ」

「ァァ……良イッ！！」

「は？」

「ンンッ！だ、黙って大人しく見てなさい」

「……ッ」

【支配者】スキルの力が働いているのか、振り向いた西園寺の目を見た瞬間歯向かう気が失せた。

　あーもう分かったよ、勝手にしやがれ。死にそうになっても絶対助けてやんねえから。

『これは見物だな。アキラ、少し静かにしてろ』

　ベルゼブブが楽しそうに呟く。おい寄生虫、俺に戦えって強制したのは何処の誰だよ。

「ガルルルッ！！」

「グォォ！！」

　満身創痍のウルフキングが邪魔者である西園寺に飛び掛かるが、側にいたグリズリーが全身で受け止める。

　そして――

「駄犬如きが誰に牙を向けてますの。“お座り”」

「ガルルル……クゥン……」

「嘘……だろ」

　とても信じられない光景を目の当たりにして驚嘆する。

　あの獰猛なウルフキングが、俺と死闘を繰り広げた気高き狼王が、西園寺の一言によって一瞬で跪（ひざまず）く。

　んな馬鹿な、奴は普通のモンスターじゃなくて中ボスだぞ。んな馬鹿げたこと可能なのかよ……ッ。

『我が目を疑うな。アキラがダメージを負わせていたとは言え、中ボスクラスを支配しちまうとは。あの女、以前よりも能力スキルが開花してやがる』

　この現状にはベルゼブブも驚きを隠せないでいた。

　マジかよ……俺があれだけ苦戦したってのに、強制テイムしちまったのか。

【支配者】スキル半端ねえだろッ！！

「駄犬、今からお前はわたくしの下僕よ。でも今は必要ないからお帰りなさい。次にわたくしが呼んだらすぐ来るのよ」

「ガル……」

　西園寺が頭を撫でながら告げると、ウルフキングは静かに首肯して何処かに去ってしまった。

　そのやり取りに唖然としていると、西園寺は振り返り、心配そうな眼差しで見つめてくる。

「出血が酷いですわ。早く帰って治療しましょう」

「……ああ」

『ヒハハハハハハハ』

　もうどうにでもなれ。

　頭の中で聞こえてくる爆笑にうんざりしながら、俺は西園寺と一緒にグリズリーの背中に乗って王宮に戻った。

　なんか締まらねぇ結末だったな……。