第24話オ……なんだって?

 




 ――ダンジョン一階層。


「こんな所に一人で、何やってんだお前」

「貴方を待ってたのですわ」

「はっ?俺を?」


 佐倉達と朝飯を食ってダンジョンに入ってみれば、行く道を塞ぐように西園寺が腕を組みながら待ち構えていた。


 彼女は西園寺 麗華。

 金髪縦ロールが魅力的なガチのお嬢様だ。めっちゃ美人なだけではなく頭も良いし運動神経も抜群。さらに【支配者】というチート級のスキルを持っている。

 そんな彼女は勇者君、もとい神崎 勇人のハーレムパーティーの一人。

 ……の筈なのに、俺なんかに何の用なのだろうか。


「まだ【支配者】スキルを使いこなせていませんから、貴方との協力関係は続いてますわ」

「そう言われれば……そうだけど」


 すっかり忘れてたな。

 西園寺が暴走しないよう色々と試していたのだが、結局ベルゼブブが恐がらせた所為で有耶無耶になっていたんだった。あれから一日経ってるし、もう解決されたか、勇者のパーティーに戻ってると思ってた。


「期待させて悪いけど、あれ以上は俺には無理だ」

「ええ!?」

「だから、うん。一人で頑張ってくれ」

「酷いですわ!わたくしを見捨てると言うのですか!?」


 眉根を寄せる西園寺が必死に訴えてくる。

 見捨てるというか、俺には方法が浮かばないんだ。

 それに……。


「俺と一緒にいると、西園寺が危ない。訳あって話せないんだけど、俺はやべえモンスターとかを引き付けやすいんだ。昨日も死にそうになったしな。だから西園寺は、勇者と一緒にいた方がいいよ」


 と説得したのだが、何故か西園寺は頑固で。


「では、わたくしが貴方に勝手についていきますわ。それなら問題ないでしょう?」

「お前なぁ……」

『ヒハハ、捨て犬に懐かれちまったな』


 笑い事じゃねえよ。大体お前が悪いんだからな。


『いいじゃねえか、面白そうだし連れてけよ』

「……はぁ、分かったよ。そのかわり、死んでも俺の所為にすんなよ」

「勿論ですわ」


 こうして、何故か俺は西園寺とパーティーを組むことになった。



 ――ダンジョン十階層。

 昨日あれだけ暴れてぶっ壊したのに、フィールドは元通りに修復されていた。ダンジョンってすげえ。


「階層主はもう出ないのか?」

「ええ、一度倒したら出て来ませんわ」

『挑戦者が階層主を倒すと、ダンジョンに認められて階層主は出て来ない。ただ、パーティー内に一度も倒した事がない奴がいたり、また戦いたいと願ったら現れる』

「へー」


 西園寺の話にベルゼブブが上乗せして補足してくれる。

 十階層に来る度に階層主と戦うのは面倒だと思っていたので、それは助かるな。

 じゃあ、新しい階層に行ってみますか。



 ――ダンジョン十一階層。

 新しい階層に下りると、モンスターの種類と出現する数がリセットされる。

 この階層では、グリズリーという熊のモンスターが現れる。五階層で戦ったアーマードグリズリーの下位版だな。

 出現する数は一体。落ちるアイテムは『グリズリーの肉』だ。


「グオォ!」

「早速来やがったな」


 十一階層を探索していると、グリズリーと遭遇する。奴は俺を見るや否や、荒ぶった様子で突撃してきた。


「ハリセンボン」

「グォォォッ!!」


 黒スライムを凝固し、長大な針がある盾を前方に作り出す。止まれなかったグリズリーはドスンッと衝撃音を鳴り響かせ、何本もある巨大な針に突き刺さった。

 だがまだ死んでいない。ゴブリンやウルフだったらこれで終わってるのにな。やっぱり耐久度も上がってるか。


「ナイフ」


 トドメを刺すべく、俺は右腕にナイフを纏って瀕死のグリズリーの首を刎ねる。モンスターは粒子となって消えたが、残念ながらアイテムはドロップしなかった。


「貴方、お強かったのですね」

「お前ほどじゃないだろ」

「謙遜はいりませんわ。でも解せませんね……貴方のことを少し調べたのですけど、確か貴方は【共存】という役立たずなスキルだったはず」

「何お前、俺のことそんなに気になったの?」

「だ、誰が貴方のことなんて!!ただの気まぐれですわ!!」


 少し揶揄ってみれば、西園寺は顔色を真っ赤にして必死に否定する。

 何だこいつ、可愛いぞ。


「使い方が分からなかっただけさ。今ではもうバッチリ」

「そうだったのですの……」

「西園寺はどうなんだよ、あれから進展はあったのか?」

「昨日はずっと部屋でオナ……」

「オ……なんだって?」

「な、何でもありませんわ!!」


 また顔を赤くして怒鳴ってくる。

 全然情緒不安定じゃねえか。それとも元々怒りやすい奴なのか?

 まあいいや。自分のことは自分でやれって言ってあるし、放って次の階層に進もう。



 ――ダンジョン十二階層。

 この階層に出現するモンスターはグリズリーだけなのだが、一度に出現する数が二体になる。

 ゴブリンやウルフといった雑魚モンスターがどれだけ増えても苦にならなかったが、グリズリー二体を同時に相手取るのは少々厄介だ。


「グルル」

「ガァアア!」


 二体のグリズリーが、咆哮を上げながら迫ってくる。俺はナイフを纏い、蜘蛛糸で滑るように空中移動しながら熊公の肉を切り裂いた。

  そんな中、一体のグリズリーが無防備に突っ立っている西園寺に狙いを定めた。このままでは彼女が危ない。


「誰に牙を向けていますの、お座りなさい」

「グ……ガァ?」



 瞳に映る光景に驚愕を覚える。

 凶暴なグリズリーが、西園寺に下僕の如くこうべを垂れて大人しくしている。

 という事は、彼女は【支配者】スキルを使用したのか。


「何を愚図愚図しているのですか、さっさと奴を倒しに行きなさい!」

「ガルァァ!!」


 スキルの影響により女王口調になった西園寺が命令を下すと、グリズリーはもう一体のダメージを負ったグリズリーに凄まじい勢いで向かって行く。

 突然襲ってきた仲間のモンスターに戸惑いながらも応戦するが、『パーティーの能力向上』という【支配者】スキルの力を受けたグリズリーには敵わない。


「グルァァ!!」

「ガァ……」


 膂力も、速度も西園寺グリズリー――ややこしいので名前の上に西園寺を付けた――の方が圧倒的に優っている。

 西園寺グリズリーはグリズリーの喉元に噛み付くと、喰い千切って絶命させた。身体は消滅し、『グリズリーの肉』がドロップする。

 犬のようにアイテムを咥えると、西園寺グリズリーは彼女の下へ戻り褒めてほしそうな顔で見上げる。


「ふん、倒して当然ですわ」

「ガルゥ……」


 素っ気なくされてあからさまに落ち込む西園寺グリズリー。

 ……なんか可哀想というか、凶暴な見た目にしては可愛いい反応だな、あの熊公。

 それにしても、今回は俺に【支配者】スキルの影響が来なかったみたいだ。以前は問答無用で支配下にされていたのに。

 やはり制御可能になったのだろうか。その方が助かるけど。


「じゃ、行くか」

「はい、御主人様」

「ん?」


 ん?

 なんか今、西園寺の口から変な言葉が出てきた気がするぞ。


「な、何でもないですわっ!」

「そう……だよな」


 何故か慌てる西園寺。

 俺は聞いてないフリをして、彼女と西園寺グリズリーと新しい階層に下りる。





 あいつ今、絶対御主人様って言ったよな。

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