第17話雑魚はやっぱり雑魚だな
――ダンジョン六階層。
この階層は一度に出現するモンスターが三体で、ダークバットという蝙蝠が追加される。ダークバットは初の飛行型モンスターで飛び道具が無いと倒すのが面倒だが、俺の黒スライムは伸びるから問題ない。
昨日は西園寺に付き合って進めなかったから、今日は頑張ろう。目標は十階層だ。
「キー!」
「クカカ」
「ゲヒャ」
ダークバット、ボーンナイト、ゴブリンか。
今の俺とっては雑魚モンスターだな。
「蜘蛛糸」
身体から黒スライムが溢れ、伸びる黒糸が三体のモンスターを捕まえる。黒糸から逃れようと暴れるが、雑魚モンスター程度の膂力じゃ蜘蛛糸からは逃れられない。
ぎゅっと力を入れて、圧殺する。
「「ギィャャッッ!!」」
断末魔が轟く。残るのは、『ゴブリンの皮』と『ダークバットの牙』だ。アイテムを拾って、先に進む。
『イイ感じだ、アキラ。また力の使い方が上手くなってるじゃないか』
そうか、まだ何か出来そうだけどな。
あーベルゼブブ、そう言えばお前にお礼を言っておきたいんだった。
『なんだいきなり、気持ち悪い』
いやさ、この力のお陰でモンスターを倒しやすくなったのは助かるんだけど。
やっぱり一番は、
「殺すことの罪悪感が薄れる」
――ダンジョン七階層。
この階層は六階層と同じモンスターで、出現する数が四体になる。
四体……結構多くなってきたな。
でも、雑魚が増えようが所詮雑魚。
「ていう考えが、危ないんだよなぁ」
『そうだアキラ、力が増す分油断も出る。気をつけろ』
「って言われても……」
襲ってくるゴブリンとウルフ二体、ダークバットを再び蜘蛛糸で捕らえ圧殺する。
「雑魚はやっぱり雑魚だな」
――ダンジョン八階層。
この階層は更にオークという二足歩行の豚のモンスターが追加される。ドロップするアイテムは『オークの肉』だ。
俺よりも身体がデカく、凶悪な面をしている人型の豚。
オークは力も強く、今までのモンスターよりも倒すのが面倒だった。ほんの少しだが知性も感じられる。
だがオークの出現に喜びの声を上げたのが、ベルゼブブだった。
『やっと旨そうなモンスターが出たか。代わってくれ、アキラ』
「ええー、また代わるのかよ」
『お前だって、そろそろ飢餓感がキてるだろ?』
「そうだけど……はぁ、分かったよ」
駄々をこねられたので、ベルゼブブに身体を明け渡す。ガクガクと骨が軋み、肉体が膨れ上がってゆく。黒スライムが溢れ、身体を覆った。
「ヒハハ、カラダを自由に動かせるのはイイ」
変化をし終えたベルゼブブは、調子を確認するよう首を鳴らしたり、肩を回したりストレッチを繰り返す。そんな事をしていると、ドスドスと足音を立ててオークが現れた。しかも四体。
「おっと、探しに行く手間が省けた」
長い舌を伸ばし、涎を垂らすベルゼブブ。
というかベルゼブブの身体、本当にデカいな。二メートルあるオークをまだ余裕に見下ろせるぞ。三メートル近くあるんじゃないか?
「ブヒィ!」
「ブヒブヒィ!」
「さて、オレ様の食事の時間だ」
四体の凶暴なモンスターも、
獣の如く跳躍すると、ベルゼブブはオークに飛びかかって押し倒しす。
「ブヒ!?」
「イタダキマス」
身動きを縛っているオークの首元に、ベルゼブブの大きな口が噛み付く。ぐちゃりと引き千切り、ムシャムシャと咀嚼する。
「ンー旨い!やっぱり喰うなら肉のあるモンスターが一番だな」
『確かに旨い、けどやっぱ気持ち悪い……』
オークの味とベルゼブブの幸福感が伝わってくる。オークの肉は歯応えのあるステーキの味がした。普通に旨いから困る。
喰うのに夢中で隙だらけのベルゼブブへと、残りのオークが突撃してきた。
「ヒハハハハハハハッ!!」
愉し気にベルゼブブが嗤うと、背中から黒スライムがブワッと放出され、オークの足を捕まえて転ばした。
「「ブヒ!?」」
「オラァァ!!」
仰向けになっているオークをボールのように力強く蹴っ飛ばす。デカくて体重もあるオークが、冗談のように吹っ飛んで行った。
なんつー膂力だ。
驚いている内に、ベルゼブブは残りのオークの顔面を滅多打ちにしたり、心臓を手刀で貫いた。
……本当に化物だな。俺みたいにナイフやハンマーなど小細工を使わずとも、純粋のパワーだけで圧倒出来る。
「あーむ、あーむ」
瞬く間にオークを蹂躙し、食事の時間に移るベルゼブブ。
俺はふと思う。こいつがどういった存在なのか。
暴食の魔王ベルゼブブ。意思があるスキル。これだけ凶暴な力を持ちながら、【共存】スキル者に寄生するしか生きる術はない。
謎というか……不思議だ。
俺が思考に耽っていると、ベルゼブブが反応してくる。
「そんなにオレ様のことが気になるのか?心配しなくても、いつか教えてやる」
『そうか』
楽しみにしておこう。
食事を終えたベルゼブブが、身体の支配権を俺に明け渡す。グツグツと身体が煮えると、収縮し、元に戻った。
「満足したか?」
『ああ。やはり生きた肉はイイ』
「さいですか」
ベルゼブブが喰ったお陰か、俺の身体の調子も上がっている。力が漲っているし、飢餓感も全くない。
よし、行くか。
――ダンジョン九階層。
この階層は八階層と同じモンスターが現れるが、一度に出現する数が五体となる。
どっちみち雑魚だが、流石に五体を相手にするのは面倒だった。四方八方から襲われるから、注意しなきゃならない範囲が広がる。その分意識が割かれてしまうのだ。
今は雑魚モンスターだから問題なくやれてるが、これがもっと強くなると一人で戦っていくのは厳しいかもしれない。
俺もついにぼっち脱却かな。
そんな風に考え事をしながらモンスターを殲滅していると、クラスメイトの女子が進行方向から走ってくる。
血相を変えて、まるで何かから必死に逃げているみたいだった。確かあの連中は、佐倉がいる委員長パーティーの生徒だったはず。
「どうしたんだ?」
「影山君!?」
声をかけて引き止めると、彼女達は俺の顔を見て驚愕する。全部で四人、皆んな泣きそうな顔をしている。この先で何があったんだ。
訳を聞くと、一人の女子が震えながらも教えてくれる。
「私……たち、十階層に挑んで」
「階層主か」
「う、うん。でも、全然勝てなくて、ボスは凄い強くて、二人が怪我して……委員長と佐倉さんが残ってくれて、私たちに応援を呼んできて欲しいってッ……それで!」
「ああ、分かった。落ち着け、早く帰って、誰でもいいから呼んできてくれ」
「ねぇ、早く行こ!」
「う、うん」
女子達は走りながら去っていく。
その後ろ姿を見ながら、俺は舌打ちした。
クソ、佐倉も残ってんのかよ。何やってんだあいつ、どうして階層主なんかに挑んだんだ!
『イけると思ったんだろ。実際転生者の力なら十階層如きのボスなんて楽勝だ。だが、予期せぬ何かが起きた』
「何かってなんだよ!」
怒りを発しながら、十層に向けて全速力で走る。ベルゼブブにキレたって仕方ないのに、キツくあたってしまう。
『さあな、だが早く行かないと間に合わないぞ。あのイイ女も、死んじまうかもな』
分かってんよ、クソったれ!
俺は遭遇するモンスターを掻い潜りながら、急いで十階層を目指した。
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