第16話神崎 勇人
「おばちゃん、これお願い」
「あんた、朝からこんなに食うのかい」
「ああ、腹減って力が出ないんだ」
「そうかい。ほらよ、残りは後で持ってくよ」
「ありがと」
食堂のおばちゃんから大量のメニューが乗ったトレーを受け取り、席を確保して食べ始める。相変わらずぼっち飯だけど、この方が食べることに集中出来るから構わない。
「おい影山、最近羽振りが良さそうじゃんか」
「がつがつ、美味い、モグモグ」
「おい、無視すんなよ!!」
「あん?」
『何だこの女』
食事の邪魔をしてきたのは、同じクラスの黒沢環奈とその取り巻き三人だった。俺と少しだけ因縁がある、カースト上位のギャルっぽい女子。
カースト上位なだけあって、彼女のビジュアルは高い。
異世界に転生されたので、化粧品で見た目を誤魔化すことは不可能になった。にもかかわらず、黒沢の可愛さは損われない。
ロングの茶髪に、少しキツメの大きな目。女子が憧れるスマートな体形。誰が見ても可愛いだろう。
黒沢はクラスの中だけではなく、学年の中でも男子に人気だ。外見だけなら、勇者のハーレムパーティーにも決して劣っていない。
(いや、他の奴等も意外と……)
黒沢だけでなく、取り巻きの三人も中々可愛い。かなり化粧が厚くてギャルギャルしてたから分からんかったが、素の彼女達も悪くなかった。というか普通に可愛い。こいつ等何であんな厚化粧してたんだ?
「あん?何ジロジロ見てんだし」
「キモいから見んなっつの」
「あっ、すまん」
無遠慮に人の顔を眺めていたのは本当なので、素直に謝る。ちょっと露骨過ぎたな。
「で、何かよう?」
「お前最近すごい量のご飯食べてんじゃん。ゴミスキルだった癖にさー」
「誰かからお金恵んでもらってんでしょ?」
「そのお金、私たちにもくれないかなーって」
カツアゲじゃねーか。
でも解せない、何で今になってカツアゲする必要がある。こいつ等、俺より良いスキルがあるのに金が無いのか?
「もしかして戦ってないのか?」
「っ……う、うるさい。アンタには関係無いでしょ!」
図星だったのか、ビクッと肩が跳ねた黒沢が声を荒上げる。こいつ分かり易いなー。
まあ幾ら強力なスキルを手に入れたからって皆が皆戦える訳じゃないもんな。
モンスターって基本見た目とか怖いし。俺だって戦わなくていい方法があるならそっちを取るし。
「俺にたかるよりもさ、お前等なら他の男子とかに甘えたりする方が早くないか。客観的から見ても可愛いんだから」
「お、お前に言われても嬉しくないしキモいから」
「キモいって……九頭原とかさ、あいつ等に頼めばいんじゃね?」
そう助言すると、彼女達は浮かない顔して口を閉じる。何があったんだ、黒沢達はカースト上位同士で九頭原達とも仲が良かったはず。
因縁がある俺なんかではなく、奴等に頼めば解決すると思うんだが。
返答を待っていると、代表して黒沢が言う。
「九頭原はダメ。あいつ、協力して欲しかったらヤらせろって言ってきた」
「は、はぁぁぁ!?」
く、クズゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!
あの野郎、そこまでクズだったのか。
ゲスっつーか、クラスメイトにそんな事言うか普通。
九頭原に対して嫌悪感を抱いていたら、続く話はあいつだけじゃなかった。
「九頭原だけじゃない、他の男子も下心丸出し」
「マジ?」
「九頭原みたいに正直じゃないけどね、同じようなもん。男子は今サルと同じ、エロい事しか考えてないよ。そんな奴等と一緒にいれる訳ないじゃん。だから委員長も、女子でグループを作ってんだよ」
確かに……言われてみればそうだ。
佐倉がいる委員長のパーティーは女子だけ。こいつ等以外の全員。
もしかしたら委員長も、こうなる予測をしていたのかもしれない。
でも九頭原とその仲間は兎も角、他の男子もそんな態度になるのか?
『人間は一番欲深い生き物だ。力を手に入れば、何かを奪おうとする。ガキ共の場合は、それが性欲だったって話だ』
ベルゼブブに言われて、何となくだが納得できる部分もある。突然ゲームみたいな力を手に入れて、国を救って欲しいとか頼まれたら気持ちが増長するのは当たり前だ。
俺の場合はゴミスキルだったから普通で入れられたが、皆みたいに最初から強いスキルだったら同じようにクズにならないとは言い切れない。
男って基本エロいことしか考えてないからな。
『ほう、アキラもエロいこと考えるのか』
当たり前だ。ただそれを表に出さないだけ。
『アキラは性欲が無い奴だと思ってた』
人を何だと思ってる。高校生なんか一番性に敏感なお年頃じゃねえか。
って、馬鹿なやり取りをしてる場合じゃない。黒沢達をどうするかが問題なんだよな。
お金は渡しても別に構わないんだけど、生憎と手持ちが無い。その日の稼ぎは全て食事に注ぎ込んでるからなぁ。
『助けるつもりか。この女と因縁があるンじゃなかったのか』
因縁って言っても殴った蹴ったとかじゃないし、困ってるなら助けてもいいだろ。
『ヒハハ、やっぱりお前は壊れてる』
ベルゼブブに笑われてしまう。
癪に触る笑い方だが今は放って置いて、彼女達をどうしようかと悩んでいたその時。
「ちょっといいかい?」
と、勇者が話に割り込んで来た。
「えっと……」
「ああごめん、俺は神崎。影山君……だよね、君に少し聞きたいことがあって」
なんて呼べばいいか困っていると、察してくれたのか勇者の方から苗字を名乗ってくれた。空気も読めるとか凄いな。
でもやっと勇者の名前が分かった。勇人ってことは知ってたんだが、苗字が分からなかったんだよな。
神崎 勇人。
この男が2年A組特進コース、ハーレムの主人公にして勇者。
うん、勇者に相応しい奴だ。爽やかイケメンだし、背も高いし、自信に満ち溢れている。
外見だけで勝ち組なのに、これで運動も出来て頭も良くてその上性格も良いんだろ?
ここまで来ると嫉妬するのもアホらしいわな。
「いいんだけどさ、今はこっちと喋ってるから」
「ああ、済まない」
「えっ!いや、私たちは別に大した事はないから!」
「あーし等は後ででもいいし!」
「神崎君先にどうぞ!!」
そう言って、黒澤達は慌てるようにどこかに行ってしまった。
……お前等、俺と神崎で態度違いすぎだろ。
いや別にその気持ちは分かるからいいんだけどさ。
『オレ様はこの男は嫌いだ』
だろうな。そう思ったよ。
「で、話とは?」
「昨日影山君と麗華が一緒にいたのを見かけた人がいるらしいんだが、何かあったのか。心配で麗華の部屋に行ったんだけど、反応が無かったから」
あちゃー……その件についてか。
でも、西園寺はダンジョンから帰った後目が覚めて、自分の足で部屋に戻ったからな。その後のことは俺も知らない。
ただ、その時の西園寺の様子はかなり不気味だったが。
神崎は心配して西園寺の部屋に行ったけど、応答しなかったと。本当に優しいなこいつ、モテるのも頷ける。
「少し話を聞いただけだ。ダンジョンの中で死にそうな顔してたんだ、誰だって声をかけるだろ」
「麗華が……やっぱりあの時、ちゃんと話を聞くべきだったッ」
悔しそうな顔を浮かべる神崎。
すまんな神崎、嘘付いて。本当はかなり強引な事をさせたけど、アレを言うとお前に嫌われそうだからやめとくよ。
「それで、麗華は何か言ってたかい?」
「神崎や皆に迷惑をかけた……と」
「……そうか」
「お前がちゃんとカバーしてやれば大丈夫だろ」
「そうだね……分かった、ありがとう」
そう言うと、神崎は済まなかったと笑顔で去って行った。本当に主人公みたいな奴だな。
さて、俺もそろそろダンジョンに行くとしますか。
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