第10話アーマードグリズリー
――アーマードグリズリーと睨み合う。
先手を打ったのは勿論俺だ。殺られる前に殺る。
「ハンマー」
黒スライムを操り、先っぽをハンマーの形に凝固。ぶんっと振り上げると、鞭のようにしならせてぶっ叩く。
ガキンッ!
ハンマーは背中に直撃するが、甲高い音を立てるだけで弾かれてしまった。こいつの鎧、硬ってぇ!!
「グルアァ!!」
唸り声を上げながら、ドシンドシンと四足歩行で迫ってくる。思った以上に速く、またその巨躯に恐怖心が込み上げてくる。
こいつ、このまま突進してくるつもりか。あの図体に轢かれたら身体がバラバラになんぞ。その凄惨な未来を想像して心臓が縮み上がった俺は、急いで進路から外れるように横へ飛ぶ。
ズザザッと鎧熊は急ブレーキすると、再び突進を再開。あんなん暴走トラックに突っ込まれるようなもんだ。ハリセンボンじゃ止められない。
「蜘蛛糸」
左手から糸を放出し、壁に付着。縮んで引っ張ると、瞬時に壁際に移動する。
「グルル……」
突撃を二度も回避され、憤怒に染まったアーマードグリズリーが忌々しそうに俺を一罰するおー恐っ。
それにしても、逃げてばっかじゃいつまで経っても倒せない。鎧を掻い潜るような攻撃をしないとダメージを与えられないだろう。
でもなぁ……怖ぇなあ。
『ビビるなアキラ、ビビるから怖えんだ。ビビらなきゃ怖くねえ』
「お前それは単なる精神論だぞ……」
イケ、イケ!と頭ん中で熱く命令してくるベルゼブブの無茶振りに突っ込む。でも確かにこいつの言っている事は当たっていて、このままビビっていても何も出来ない。勇気を持とう、あの懐に入る勇気を。
『恐怖心を騙すなら雄叫びを上げろ。己を鼓舞しろ、アキラ』
「うぉおおおおおおおおッ!!!」
言われた通り、腹の内側から叫ぶように声を出す。
なんかこれ、テンション上がるというか気合いが入るな。
『イけ!』
「ナイフ!」
「グルァア!」
黒スライムの刃を作りながら、様子を見ていたアーマードグリズリーへと疾駆する。ベルゼブブに寄生された俺の身体能力は大幅に向上しており、全力で走る速度は今まで体感したことのない速さだった。
数秒の時を刻んでアーマードグリズリーの間合いに侵入すると、身体を捻りながらナイフで斬りつける。威力を増そうと勢いをつけたが、やはり硬い鎧に弾かれしまった。
やりやがったな!と言わんばかりに熊公が逆襲してくる。鋭い爪が生えた腕をブンブン振り回してきた。
なんとか避けるも、このレベルのモンスターと戦った事がない俺は躱せず爪がカスってしまう。
「ぁぁああ!!」
痛い!めっちゃ痛え!!肉が裂けた!
久しぶりに味わう強烈な痛覚に耐え切れず絶叫を上げてしまう。
馬鹿か俺、そんなことしてたら格好の的だろ。
「ガァアア!!」
「あっぶねえ!」
背中から蜘蛛糸を背後の地面に付着し、強引に緊急回避する。俺が今いた地面が、アーマードグリズリーのスタンプによって陥没していた。危なかった、あと少しでペチャンコになる所だった。
それにしてもこの熊公、図体の割に動きが機敏過ぎるだろ。攻撃速度が速えし、こっちが鎧の隙間を斬ろうとしても反応されて鎧でガードされてしまう。知性というか、戦闘本能が異様に高い。
圧倒的に俺より戦い慣れしてやがる。こんな化物相手にどう立ち回ればいいんだ。
「グァッ!」
「ぐっ……」
打開策が見つからないので、一先ず逃げに徹する。そんな情け無い宿主に業を煮やしたのか、ベルゼブブが助言してきた。
『何をしているアキラ、どんな生物にも急所がある。そこを突け』
急所だぁ?急所、急所……攻撃を避けながら急所を探す。心臓は鎧に守られている。頭も兜で駄目だ。でも、顔は守られていない。目も鼻も口も、どこも剥きだしだ。ここを狙うか。
攻撃箇所を絞った俺は実行に移る。後退をやめ、前進を始める。ナイフを解除し、再びアーマードグリズリーへ接近した。
「グルァア!!」
「ふっ!」
攻撃のタイミングで地面を蹴り、大きくジャンプ。俺は背後からアーマードグリズリーの首を掴み、背中に引っ付いた。身体から黒スライムを出して振り落とされないように固定すると、さらに両手からも出して即座に顔を覆う。
「グァッ!?」
「はは、どうだ!」
口と耳と鼻を塞がれた鎧熊は呼吸が出来ずにもがき苦しむ。俺を振り払おうと身体を激しく揺らすが固定のおかげで剥がれないし、腕も届かない。
この殺し合い、勝った。
「――――――――ッ!!」
「うぼ……っ!!?」
勝利を確信した瞬間、アーマードグリズリーは思いっきり壁に背中を叩きつけた。勿論背中に引っ付いていた俺は壁と背中に挟まれ押し潰されてしまう。意識が一瞬トんで、口から鮮血を吐き出す。
アーマードグリズリーは一旦離れ、もう一度叩きつけようとする。が、意識がトんでいたため凝固が解除され、俺は地面に落っことされていた。
『起きろアキラ、でなきゃ死ぬぞ』
「ああ!?」
うるせぇ、こっちは骨逝ってきちぃんだよ!めちゃくちゃ身体痛いわ、絶対どこか折れてんぞ。
胸中で文句を垂れながら踏ん張り、俺は無理矢理立ち上がる。寄生されてなかったら絶対今ので圧死してた。
『助かったな、オレ様に寄生されて』
「五月蝿ぇ!!」
文句を吐き飛ばしながら兎に角距離を取り、アーマードグリズリーの攻撃に備える。けど奴は俺の姿を捉えていなかった。鼻を動かし、クンカクンカして探している。
熊公の両目からは血が流れていた。俺は壁に叩きつけられる前、奴の両目を潰しておいたんだ。
ははっ、ざまーみやがれ!
「ガァアア!!」
「うお!?」
この野郎、見えてない筈なのに俺の場所に的確な攻撃をしてきやがる。まさか嗅覚だけで捉えているのか?クソ、だから化物は嫌いなんだよ!!
「ハンマー」
さっさとクタバりやがれと怨念を込めてながらハンマーで頭をぶっ叩く。目視が不可能な奴は躱すことが出来ない、ここまま斬り刻んで挽き肉にしてやる。
「ナイフ」
懐に入り、鎧に覆われていない箇所を斬り裂いていく。暴れるように腕を振るってくるが、冷静に見極めて回避する。ビビる事はない、アーマードグリズリーは虫の息。怖がる必要が無い。お前はもう終わりなんだよ。
「グギャァァアアア!!」
「クタバレ」
悲痛な叫びを上げるアーマードグリズリーは力尽きたように地に伏せる。トドメを刺すため、俺は右手を奴の顔に翳し、
「ニードル」
黒スライムを凝固させ、円錐状の鋭い針を突き出してアーマードグリズリーの口から脳を貫いた。
「はぁ……はぁ……勝った」
そう意識した瞬間、緊張が一気に解けて身体の力が抜ける。膝から崩れて落ちた俺は、荒い呼吸を続けた。
危なかった、今回ばかりは死ぬかと思った。もう絶対こんな命懸けの戦いなんかするもんか。命が幾つあっても足んねぇよ。ベルゼブブに乗せられても戦ってやるもんか。
決意を固めていると、アーマードグリズリーの死体が燐光となって消えていく。残ったのは、大きな肉だった。
『アーマードグリズリーの上肉』
「ははっ、あんだけ戦って手に入るのは肉かよ」
鎧ぐらい寄越せや。
愚痴を吐いていると、ベルゼブブが褒めてくる。
『ヒハハ、危ない橋は何度かあったが地肉が湧き立つイイ戦いだった。さぁ、帰ってその肉を喰らえ。きっと旨いぞ、勝者にしか味わえない極上の味だ』
「お前が喰いたいだけだろ……頑張ったのは俺だってのによ」
『はは、そう固いこと言うなよ』
俺は『アーマードグリズリーの上肉』を回収し、ベルゼブブと言い合いをしながら王宮に帰還したのだった。
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