第9話試練
――ダンジョン五階層。
この階層では、モンスターは今までと変わらないが一度に出現するモンスターが三体になる。この変からパーティーを組まないとキツくなってくるな。
まぁ、俺はぼっちだから一人だけど。
「ゲヒャ」
「ガルル」
「クカカ」
早速モンスターと遭遇する。ゴブリン、ウルフ、ボーンナイトの勢揃い。その三体のモンスターが各々襲いかかってくる。
「蜘蛛糸」
左手から黒スライムを糸状に吐き出しゴブリンに付着して捕まえ、近くにいたボーンナイトへ叩きつけた。ゴブリンとボーンナイトが激突し揉みくちゃになっている間にウルフが俊足を生かして噛み付いてこようとする。
「ハリセンボン」
黒スライムを身体に纏わせ防御する。ウルフが俺に噛み付いているが、黒スライムのお陰で全く痛みを感じない。纏っているスライムからブシュッと極太の針を突き出し、ウルフを串刺しにした。
「ゲヒャァ!」
「ナイフ」
ボーンナイトは押し潰されて粉々になっているが、まだ生き残っていたゴブリンが奇声を上げながら突っ込んでくる。
俺は黒スライムを右腕に纏って凝固し、大きな刃を作り出す。一振りすれば、ゴブリンの首が綺麗に落ち、粒子となって消えさった。
戦闘を終え、ドロップしたアイテムを拾っていると、頭の中でベルゼブブが褒めてくる。
『随分力の使い方に慣れたじゃねえか。ここまで早く使いこなす宿主は中々いなかったぜ。なにかコツでもあるのか?』
「技名を言うようにしたからかな。口に出すのは恥ずかしいけど、一々頭で意識しながらするより、この技を使いたい時はこの技名を言うって設定してるほうが簡単で時間的ロスが少ない。自動というか、無意識で力が使えるんだよ」
糸なら『蜘蛛糸』、防御型の針は『ハリセンボン』、纏う刃だったら『ナイフ』みたいに、現実世界で見たことがあってかつ想像しやすい物を技名にしている。
『ヒハハ、恥より戦いやすさを選んだって訳か』
当たり前だろ。生きるか死ぬかの瀬戸際で、恥ずかしいとか言ってられんわ。大事なのは恥より命だろーよ。と頭の中でベルゼブブに突っ込んでいると、新たなモンスターが現れた。
「グルルルル」
「何だあれ、クマ?」
『アレはアーマードグリズリーだな』
モンスターはグリズリーという頑強な鎧を纏った熊だった。なんか今までのモンスターより強そうだな……。デカいし、三メートルはありそうだ。
って待てよ、五階層に出てくるモンスターは三種類じゃなかったか?疑念を抱いていると、ベルゼブブが説明してくれる。
『奴は稀に現れる中ボスモンスターだ。アキラは階層主は知ってるだろ?』
ああ、と首肯する。
『階層主ではない。十一層目の道を守護する為に必ず現れる階層主とは違い、奴は五層に現れる中ボスだ。しかも現れる頻度は少ない』
へーそれは初めて知ったな。そんなモンスターがいるのか。
『中ボスは階層主よりは弱いが、ザコモンスターよりはかなり強い。その代わり、倒した時はレアアイテムがドロップされる』
じゃあ中ボスに出会えた俺はラッキーだったって事か。
『アンラッキーな可能性もある。今のアキラ一人で勝てるかは難しい』
えっ、マジ?
じゃあ逃げよう。レアアイテムに目が眩んで死にたくないし。
尻尾を巻いて逃げようとするが、何故か身体が動かない。
『それはねえよアキラ、この暴食の魔王の宿主が熊公相手に逃げるんじゃ話にならねえ』
「はぁ!?お前が今の俺じゃ勝つの難しいって言ったんじゃねえかよ!!」
『これくらいの敵に怖気づいて逃げるようじゃ、この先進めねえぞ』
別に俺は生きていければそれで問題ないんだが。わざわざ自分から危ない目を渡りに行くことない。平穏第一。だから早く身体を解放してくれ、このままじゃ喰われちまう。
『戦えアキラ。【共存】スキル者は喰うか喰われかの試練を切り抜く力を付けなきゃこの先死ぬぞ。これは【共存】スキル者の運命だ』
「……はぁ」
やるせないため息を吐く。また【共存】スキルか。俺はどれだけこのゴミスキルに振り回されなきゃならないんだ。今も、これからも!
ムカつくなーおい、ふざけやがって。人の命を弄びやがって。
「決めたぜベルゼブブ、このゴミスキルを俺に与えた奴を一発ブン殴る。王だろうが神だろうが、必ず見つけてブン殴ってやる!」
『ヒハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!!』
怒鳴るように宣言すると、心底愉快だと言うようにベルゼブブが高笑いを上げる。
何も面白いこと言ってないんだけどな。
『イイぜアキラ!やっぱりお前は最っ高にキてる!そうだ、全部そのスキルが悪い、【共存】スキルを与えた奴が悪ぃンだ!』
『だが今の弱いお前じゃスキルを与えた奴を殴れねぇ!それどころか目の前の熊公にすら喰われる弱者だ!アキラが強くなるには、強い奴を喰らい続けるしかねえんだ!』
『戦えアキラ、そして喰らえ!暴食の魔王であるオレ様の宿主なら、これくらいの試練を喰らい潰せ!!』
ベルゼブブの興奮が伝わってくる。その興奮が、俺の感情に伝播してくる。
ああ、いいよ。やってやる。死にたくねぇけど、やってやんよ。
俺は餌を見つけたような顔をしているアーマードグリズリーに向かって、歯を向けながら言い放つ。
「餌はお前だ」
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