第8話魔王の力
――ダンジョン三階層。
ついに来た新階層。ここでは二階層と同じく一度に二体までしか出現しないが、代わりに新しいモンスターが追加される。
ゴブリンは一緒で、新たに追加されるのはウルフという名の小さな狼だ。
「グルル」
「なんか、リアリティーがあって恐ぇな」
二体のウルフと対峙する。
ゴブリンは見たこともなくゲームっぽさがあったからそこまで恐怖を感じなかったが、ウルフは現実世界の大型犬と大して変わらないので威嚇されると怯んでしまう。
あの牙に噛まれたらと思うと、身体がブルリと震えた。
『なにブルッてる。あんなの可愛いもんじゃねえか』
可愛いくねえよ。お前の美的感覚狂ってんだろ。
ベルゼブブに文句を言っていると、二体のウルフが飛びかかってきた。
うわっ、恐っ!
「グルァ!!」
「うっ……」
格好良く反撃……とはいかず、体当たりをモロに浴びる。痛みはないが、衝撃でニ、三歩後退させられた。
意外と疾い。対処しようとしたら既に攻撃を喰らっていた。それに、あの牙を見て身が竦んだというのもある。
素手で戦いたくねぇな、やっぱり剣が欲しい。
『オレ様の力を使え』
「あん?」
一旦引き返すか迷っていると、突然右腕がブクブクと泡立つ。真っ黒いスライムみたいなドロドロした物が右腕から溢れ、凝固し、一メートル以上長いナイフが形成された。
「おおー」
『犬っころが来るぞ、斬ってみろ』
「了解」
武器を手に入れて感激していると、再びウルフが仕掛けてくる。人間は武器を持つと気が大きくなる生き物なのか、先程の情けない姿とは打って変わって反撃した。
スパスパっと斬って、二体のウルフを屠る。
すげーなこれ、重さとかも無いのに斬れ味抜群じゃないか。
燐光となって消えると、二体の内の一体がアイテムをドロップする。ウルフから取れるアイテムは『ウルフの牙』と『ウルフの毛皮』の二つで、今回は『ウルフの牙』だった。
『イイ戦いだ。アキラはオレ様との相性がイイ、力を使いこなしている』
「そりゃどうも」
『オレ様の力の使い道はまだまだある。アキラはもっと強くなれるぞ』
「そうか」
ベルゼブブに期待されて喜ぶ……なんてことはなく一言素っ気なく返すと、俺はゴブリンとウルフを作業的に殺し、アイテムをゲットしながら先へと進んで行った。
――ダンジョン四階層。
この階層でも同時に出現するのは二体まで。しかしゴブリンとウルフ以外に、ボーンナイトという骸骨の戦士が追加される。
ボーンナイトは、人間の骸骨に寂れた剣を携えたモンスターだ。剣とか持っているが、動きはかなりノロい。見た目は不気味だが、ゴブリンやウルフよりも大した事なかった。
だが刃物というか武器を手にした敵は初めてなので、初めは少し緊張した。避けれるとは分かっていても、武器を見ると本能が恐がってしまうのだ。
「クカカ」
「うるせぇ」
「クカッ!?」
懐に入って、ボーンナイトの腰を蹴っとばす。胴体がポキッと割れて真っ二つになり、消滅した。
もっとカルシウムを取れ、カルシウムを。と言っているが、ベルゼブブに寄生されて肉体が強化されたから出来ることだ。素の腕力だったら、ヒビ一つ入らなかっただろう。
ベルゼブブ様々ですわ。
ボーンナイトから取れるアイテムは、『ボーンナイトの骨』。いやそのまんまじゃねえか、どんな使い道があるんだよと胸中で突っ込みを入れてしまったが、防具や薬に使われるそうだ。
ゴブリン、ウルフ、ボーンナイトと戦いながら、俺はベルゼブブの力の使い方を学んでいく。
ベルゼブブの力は、簡単に説明すると身体から溢れる“黒い粘着物質スライム”を自由自在に操れる力だ。
そんなん役に立つの?と頭をひねったが、いざ試してみると意外と使い勝手が良い。
黒スライムは水の状態から凝固、伸縮まで可能で、己の
腕に纏わせるナイフ。
微妙に柔らかくした鞭。
身体のどこからでも出現する盾。
めっちゃ硬くしたハンマー。
全身を覆い、ハリセンボンのような針。
壁や地面に糸のような物を飛ばし、縮むことで素早く移動出来る。スパ○ダーマンのプシュッ!みたいなやつだ。
銃とか弓矢とか飛び道具的な使い方は不可能だったが、今あるのだけでも攻撃のバリエーションが豊富だ。何より、もう武器とか買わなくて済んだのが一番嬉しい。武器はすぐ消耗するから、金を使うんだよな。
しかも驚きなのは、これらは力の一端でしかなく、魔王に寄生された者なら誰もが扱えるそうだ。
本質の力は、魔王が本来ある特性。
ベルゼブブの場合は『暴食』なので、その根本は『喰う』ことだそうだ。
だがその力は、寄生したばかりの俺ではまだ使えないらしい。少し残念ではあるが、今ある基本能力だけで充分な戦力だ。
『どうだ?オレ様の力の凄さを分かっだろ』
「ああ、最初はとんでもねぇ化物に寄生されて絶望してたけど、今は感謝してるよ。少しだけな」
『可愛くねぇ宿主様だ』
ベルゼブブと他愛無い会話をして、さらに迷宮を深く潜っていく。
『これでもオレ様は感心してるんだ。驚いていると言ってもいい。ここまで早く力を使いこなす宿主は今まで居なかった。順応が早ぇ』
俺はこの世界の住人じゃなくて、地球人だからな。漫画やゲームを知ってるから、受け入り易いんじゃないのか?
『それも間違いじゃないが、知ってるのと使えるのとは全く違う。やっぱりオレ様とアキラは相性が抜群なんだな』
やめろよ気持ち悪い。
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