第4話やっと見つけたぜ
「オラァ!」
「グゲッ……」
鉄の剣を乱雑に振って、ゴブリンの首を叩っ斬る。俺の腕力は人並みだし、鉄の剣は魔剣とかではなくただの剣なので何度も叩っ斬らなければならない。
一撃で倒せる武器が欲しい……。
深い階層に潜れば潜るほど、アイテムとして強い武器が手に入る。アイテムが出て来なくても、深い階層に潜れるほどの実力があれば、その資金で良い武器を買える。
しかし一階層でその日凌ぎの稼ぎしかない俺は、斬れ味の鈍い鉄の剣で踏ん張るしかなかった。
「そろそろ二階層に行くかぁ……でもなぁ……」
一人ゴチる。
俺がたった一階層降りるのを渋るのは、それなりの理由があった。
一階層に出現するモンスターは、ゴブリン。それも必ず一体しか戦闘にならない。一体ずつだから、素人の俺でも何とか倒せるのだ。
しかし二階層に降りると、ゴブリンが二体も出てきてしまう。これは佐倉から聞いたから情報だから間違いない。
ゴブリンとの戦闘には慣れてきたが、これが一体二になると苦戦するのは明らか。本当なら誰かとパーティーになれば問題が解決されるのだが、残念ながら俺はソロぼっち。一人で戦うしかない。
でもこのまま停滞していてもどうにもならんし、毎日毎日ゴブリンだとモチベーションが上がらない。
俺はふぅーと一息つくと、覚悟を決める。
「行くかぁ」
あまり乗り気ではないけど、二階層への入り口へと歩き出す。
二階層に来た。
風景は一階層と大して変わらず、薄暗く、空間がかなり広い洞窟。
探索していると、早速ゴブリンと遭遇する。情報通り二体だ。
「ゲギギ」
「グギャギャ」
「……ごく」
口に溜まった唾を飲み込む。
初の一体二の戦闘に、緊張が身体を駆け巡った。一階層では若干作業と化していたので、久々に危機感を覚える。
油断は禁物だ。集中しろ。
「「ゲラァ!!」」
下卑た笑みを浮かべながら、ゴブリン二体が同時に襲いかかってくる。唯一救いなのは、奴等は武器を帯刀せず無手だった。リーチの差はデカい。
俺は左側から来るゴブリンに狙いをつけ、剣を前に突きだした。剣はゴブリンの胸部を捉え、グサリと刺した。
「グ……ゲ……」
「グギャ!!」
仲間を助ける為か、いやこいつ等の場合はそんなのないか。俺が刺し貫いている間に、もう一体のゴブリンが体当たりしてくる。
ここで貫いている剣を引き抜く――という愚行はせず、横にステップして回避。突っ込んだゴブリンは止まれず、貫かれているゴブリンに衝突し揉みくちゃになった。
「オラァ!」
転んでいる内に、足を振り上げてゴブリンの顔を思いっきり蹴っ飛ばす。ゴロゴロと吹っ飛んでる間に、剣を回収。そして確実にトドメを刺すためザクザクと心臓付近に剣を立てた。
よし、これで一匹。
「後はお前だ」
「ゲラァ!」
蹴り飛ばしたゴブリンが怒りの形相で突っ込んでくる。ジャンプして突っ込んできたので、顔の位置に剣を突き付ける。それだけで、ゴブリンは自分から剣の餌食になった。
だがそれだけで死なないのがゴブリンである。なので先程と同じように、怯んでいるゴブリンを殺す。
二体のゴブリンは粒子となって霧散する。その内一体が『ゴブリンの皮』を落とした。
「意外といけたな」
ドロップした『ゴブリンの皮』を拾いながら呟く。内心ではかなりビビってたが、やってみれば完勝。
まぁ一階層で嫌というほどゴブリンと戦ったからな。慣れもあるだろう。
――その時の俺は油断していた。
油断せずに戦い、集中を切らさないまま勝ち切った。注意力が散漫していたのは己の怠慢。
でも、まさかと思うだろう。
倒した直後に、襲われるなんて。
「グギャ」
「あが!?」
突然後頭部を強く叩かれ、頭の上に星を並べながら地面に突っ付す。
何だ……何が起きたんだッ!?
頭が痛ぇ……焦点が定まらない。
俺は殴られたのか?誰に?
いや、考えられるのはあいつしかいない。
ゴブリンだ。
パニックになっている間に、ゴブリンが背中にのし掛かってくる。
「どけよッ!!」
慌てて振りほどいて、前のめりになりながら距離を取る。振り返ると、そこには絶望が広がっていた。
「はっ……?何で二体以上いるんだよ」
三、六……八。ゴブリンが合計八体もいる。
おいおい、どうなってんだこりゃ。二階層は一度に二体までしか襲ってこないんじゃなかったのか。話が違うだろ佐倉さん。
どうする。考えろ。いや考えるまでもない、逃げるしかねーだろこんなの。
戦ったって勝てるわけねぇ。逃げよう。大丈夫、まだ頭は冷静だ。何とかなる。
でもどう逃げよう。後ろは壁。逃げ場を無くすように180度囲まれてる。こうなったら負傷覚悟で突っ切るしかない。
思いついたら即行動。
襲いかかられる前に、正面のゴブリンへ駆け出した。こいつを抜けば後は全力で逃げ去るだけ。俺の華麗なるターン&ダッシュを見せてやるぜ。
「ぐぁぁぁあああ!!」
しかし、正面のゴブリンは抜けたのだが、左右のゴブリンにタックルをかまされて地面に倒れてしまい、振り解こうにも次々に腕と足を拘束してきた。
「テメェ等、どけよ!どけってぁぁああああああ"あ"あ"あ"ああああ"ッ!!!」
噛まれた。肉を噛みちぎられた。今まで感じことのない痛みと恐怖が全身を駆け巡る。
ヤバい。痛い。ヤバい。痛い。
ヤバいヤバいヤバいヤバいヤバい!
死ぬ。冗談じゃなくこのままじゃ死ぬ。
「た、助けて……」
「グギャギャギャギャ!!」
下卑た笑い声を上げるゴブリン。
その顔は、これからが良い所じゃないかと言っているようで。その絶望と涙に染まった顔が見たかったと語っているようで。
どう考えても逃がしちゃくれそうになかった。こいつ等の頭の中は、どうやって俺を喰うことしか考えていない。
バリボリ、バリボリ。
骨を砕くような気持ち悪い音が鼓膜を犯す。
「あ、がぁぁぁぁあああああああああ!!!」
腕の骨を、足の骨を喰われてる。
肉をしゃぶられている。
死ぬ。本当に死ぬ。死にたくない。こんな所で、こんな化物に喰われて死にたくない。
誰か……誰か助けてッ!!
その時、俺の願いが届いたのか、学校の生徒が通りかかる。
「おい、誰かゴブリンにやられてるぞ」
「本当だ」
た、助かった!早く、早くこいつ等をぶっ殺してくれ!俺を助けてくれ!!
「あれは……影山っぽいな」
「どうする、雅人?」
「あん?無視するに決まってんじゃねーか」
は?
「おい、いいのかよ……お前があいつを嫌ってんのは知ってっけどよ。あいつ死ぬぜ」
「構わねーよ。邪魔な野郎が消えてスカッとするだけだわ」
「プハッ、九頭原鬼畜ぅ!」
通りかかった生徒は、俺を敵視する九頭原と取り巻き達だった。
奴等はリーダーである九頭原に俺を助けるか打診するが、奴は薄ら笑いを浮かべて一蹴。
九頭原達は、俺が喰われる場面を見たくないのかさっさと行ってしまった。
待って、待ってくれよ。
確かに俺と九頭原おまえは仲が悪かった。互いに相手のことをクソ野郎だと思ってた。
それでも同じクラス、同じ人間なんだから助けるだろ普通。助けるようとするだろ。
何で何事もなく行っちまうんだよ。
終わった……終わったよ。
今度こそ何もかも終わった。俺の死亡が確定した。
「くちゃくちゃ、ゲラァ!!」
「あああああぁぁぁぁぁぁああああああ!!」
ハラワタを喰いちぎられる。内臓を、肉をしゃぶられる。
恐い。母さん。怖い。ごめん。怖い。助けて。恐い。もう一度。怖い。会いたかった。
「ぁぁぁぁああーー■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ッ!!!!」
『やっと見つけたぜ。オレ様の宿主を』
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